〜卒業〜ふたりの夜と朝


高校卒業を間近に控えたある日。
その日は3月目前にしては暖かな陽気だった。
高校の制服を着るのももうお終いかと思うと、わずかだけ名残惜しい気持ちがした。
が、卒業すれば新たな世界が待っている…そんな期待感で、教室はざわめいていた。

「そろそろ卒業だからって、気を緩めるなよ!」

担任が大声で一喝する。
それでもひそひそとした雑談が止む事はなかった。

「…それで、○組の○○ちゃんが…体育教師と結婚…」
「大学行ったらバイトに合コンに…」
「やっぱ俺も進学するんだったなぁ…」
「一足先に社会人なんだね…今度おごってよ…」

ラム親衛隊の4人のうち、メガネ以外はそうでもなかったが、メガネひとりだけ、浮かない顔をしていた。

「はぁ…私の青春の全てだったラムさんとも、もうすぐお別れなんですね…ああ、春が、卒業というイベントが!恨めしい…」

「おい、面堂」 メガネが面堂に話し掛けた。

「お前は卒業したら、確か大学だったな。やっぱ財閥の跡取だからなぁ。うらやましいよなぁ」

「僕はお前たちと違って、重責を担う立場になる人間だ。当然のこと。何がうらやましいものか…」

「はぁ〜…ラムさぁん…」

「そう…彼女さえ傍にいてくれさえすれば…僕の人生はパーフェクトだったはず…ぐぬぬ…」

「そう言うなって…俺だって口惜しいぜ面堂よ。だけどラムさんのあの笑顔は…あたるが相手でなければ無理だ」

痛いところを突かれて、面堂は思わず唸った。そしてメガネの肩をポン、と叩くと、哀しげな笑みを浮かべた。

「言われなくてもわかっている…」

2年4組とメンツがほとんど変わっていない3年のクラス。
ラムがあたるの首に腕を絡ませて、何やら談笑している。

「ほら見ろ…いくら出会った順番だからとはいえ…こりゃ不公平…いや、拷問に近いよなぁ」

「…出会った順番…そう単純に割り切れるものでもあるまい…」

「あたるのやつの背中が…うらやましい…あーーーーんなに!密着してっっ!!」

メガネの語尾が甲高くなった。周囲は何事かと振り返ったが、ああいつものことか、と、すぐに元の状態に戻った。

「あと1週間で卒業式だっちゃね〜♪春休みになったら、どこ行く?どこデートする?」

「あ、しのぶぅ〜♪春休みになったらデートしよ〜♪」

「それがウチの前でいうセリフけっ!?」

バリバリ、バババババーーーッ!!!

「…チミもねぇ、いい加減大人になりなさいよ。オレの言動にイチイチ電撃かましてたら…」

「だって今のはダーリンが悪いっちゃっ!ウチの質問はっ?デートの約束はっ?」

「しつっこいなぁ、わかりましたよ。卒業式の日午後5時、公園の噴水の前で待て!以上!」

「わかったっちゃ♪ダーリン遅刻しないでね〜」

その日がふたりにとって、とても大きな意味を持つことになるとは、誰が予想出来たであろうか…。


卒業式までの1週間は思った以上に忙しかった。卒業式のリハーサルに教室の大掃除、後輩のための後片付け…。
くたくたになって帰るあたるとラム。

「あー面倒くせー…疲れたぁ…」

「もうちょっとだから…がんばるっちゃ」

あたるは疲れて、部屋の畳の上でそのまま眠ってしまった。
寒いので布団を掛けてやるラム。

「卒業したらどうなるのかなぁ…ダーリンも、皆も…」

あたるの頭を膝枕するラム。寝ぼけてラムの足をスカートの上からさするあたる。
気が付くと部屋の中は真っ暗だった。
(枕…ラムの膝枕か…。こいつ、座ったまま眠ったんだな…寒いのに)
ラムを起こさないように起き上がると、彼女を横にして布団を掛けてやった。
目が慣れてくると、ラムの寝顔が見える。
出会った頃より、少しだけ大人っぽくなった気がする。
顔を近づける、あたる。(ちょっとだけなら…)
起こさない程度に、軽く、キスをした。
ラムは気付かないまま、安らかな寝息を立てていた。


卒業式が無事終わると、ラムはUFOで、あたるは自宅で、それぞれ着替えて、薄暗くなった夕方の公園に各々向かった。
先に着いたのはラムだった。5時10分前だ。
今日は特に冷える。もしかしたら雪が降るかもしれない、と天気予報で言っていた。
手袋をしていても手が冷える。手を揉み合わせてその場で足踏みをする。
ようやく5時をちょっと回って、あたるがやって来た。ダッフルコートのポケットに手を突っ込んで。

「寒かったっちゃ〜ちょっとだけ遅刻!とにかく暖かい所に行こ!」

喫茶店でお茶を飲んで、それからファミレスで軽く食事。
ラムのおしゃべりは尽きることがなかった。次から次へと色んな話題が出てくる。
クラスのこと、クラスメートのこと、卒業後の新しい生活のこと、これからのこと…。

「春からダーリンは…社会人だっちゃね。家は出るのけ?」

「まぁしばらくは自宅通いかなぁ。お前は進路決めなかったろう?」

「うーん、就職も考えたけど、ウチ地球人じゃないから、なかなか…」

「大学でも行けば良かったのに。何でだ?」

「ダーリンといられる時間が少なくなるもん!それに地球の理数系じゃ、ウチにはちょっとつまらないっちゃ」

「なーるほどね。悩みは人それぞれ、か」

「ところでダーリンは…これからどうするのけ?」

急に真顔になるラム。

「社会人だよ、サラリーマン。言っただろ?」

「そうじゃなくって。ウチと…どうしたいの?」

「ブッ!」

飲みかけたコーヒーを噴き出すあたる。

「ずーっと同じ屋根の下で暮らしてて、これからも何も無し?これからも、今と同じ?」

「急に言われてもなぁ…全く考えてない、って言ったらウソになるが…」

「じゃあ…」

「とりあえず…」

「結婚!?」 「また今度考えとこう」 ふたりはほぼ同時に言葉を発した。
互いの考えの相違に、相手の顔をポカンと見つめるふたり。

「卒業したら、もう子供じゃないっちゃよ?どういう意味か…わかる?ダーリン…」

「20歳までは酒もタバコも禁止!犯罪をやってもモザイクがかかる!か?」

「もーーーーーーーっ!!!」

ラムはイライラして、こう言った。

「ウチいつまでもこんな状態イヤだっちゃ!一緒に居ても何も無し!たまーにキスするくらで満足出来るわけ無いっちゃ!」

周囲のテーブルの客が振り返って囁き合っている。
恥ずかしくなったあたるは席を立ち上がった。

「出るぞ」


「あんなに人が沢山居るところで何をお前は…」

「だってダーリンが、はっきりしてくれないから」

あたるは黙ってラムの先を歩き出した。
とぼとぼと後ろから着いて行くラム。
繁華街をしばらく行くと、あたるは、はたと足を止めてラムの方に向き直った。

「今夜、親父もおふくろも家にいない…」

「うん、知ってる…」

「…オレだって別に、何もしたくない、わけじゃ…」

「ホントけ?」

「だけど…お前はいいのか?」

「何が?」

「ん…オレなんかで」

「ダーリン以外、誰が居るっちゃ!ウチ…初めては…ダーリン、って決めてるんだもん…」

どちらともなく手を取るふたり。そのまま黙って、家路に着いた。

家は真っ暗だった。テンも母星に帰っていていない。まさに“ふたりきり”の、夜だった。

「お風呂、沸かしてくるっちゃ…」

風呂が沸く間、ぎこちない空気のまま、居間でテレビを見るふたり。
あたるが先に入りパジャマに着替えて2階の自室へ。ラムもネグリジェ姿であたるの前に現れた。

布団がひとつ。ラムが部屋の明かりを消す。少しの間、真っ暗になったが、やがて窓から入る街灯の光で目が慣れてきた。
そっと近づく。まずラムがあたるの首に腕を回す。
あたるがラムの腰に腕を回し引き寄せる。お互い鼻息がかかるほど顔を接近させた。

そして、濃密な夜が、始まろうとしていた…。


目を閉じ、唇を重ね合うふたり。
唇を互いに組み重ね、ねぶるように味わった。
舌が触れ合った。ぬらぬらして表面はざらざらした感触。
それを絡め合って、ふたりは唾液を交換した。ごくりと喉を鳴らす。

チュプチュプ…クチュクチュ…

淫らな音が口から漏れてくる。その音がふたりのカラダを少しずつ熱くさせた。
やがて口を離すと、唾液が糸を引き、たらりと口元に零れた。
ラムがあたるの頬や顎を猫のように舐め回す。

あたるの手が、ラムの腰から下を撫で回す。そしてラムの首やうなじに唇を這わせたり、耳たぶを軽く噛む。
ラムもあたるの外耳を舐め、耳裏から首筋にかけてキスを繰り返す。
衣服の上からだったが、腕を互いのカラダに絡みつかせ、ふたりは激しく求め合い、愛撫し合った。

再び舌同士を絡め合う。ネチョネチョ…ピチョピチョ…
ふたりの息遣いがどんどん荒くなる。
あたるはラムのネグリジェの前ボタンをもどかしそうに外す。
するり、と脱がしたその下に、ラムは下着を一切身に着けていなかった。

“ごくり…”

思わず喉を鳴らすあたる。

「ウチのカラダ…おかしくないっちゃ?」

うつむき加減であたるに聞くラム。さすがに全裸を見られるのは恥ずかしいらしい。

「いや…」 ごくり。また喉を鳴らす。

ラムがあたるのパジャマのボタンを外しだした。上を脱がし、ズボンを下ろし…。

「いや、これは…自分で脱ぐから」

慌ててトランクスを押さえるあたる。

「いいから…ダーリンのも、全部見たいっちゃ…」

ラムは跪いて、あたるのトランクスをするりと下ろした。
ラムに対しては亭主関白を気取っていても、実は小心者のあたる、ラムの行動に正直心臓が飛び出す思いだった。
ラムもドキリ、としたようだ。顔を赤らめて立ち上がった。

「ダーリン…」

初めて全裸で抱き合うふたり。肌が密着して、あたるのモノがラムに当たり、ラムの乳首があたるを突付いた。


布団の中で、激しく絡み合う。肌を擦り合わせ、感じそうな部分を互いに確認し合う。
服の上からビキニで抱きつかれても、頬をすり寄せられても、生肌の腕を組んでも、鼓動がこんなに熱く、早鐘のように鳴ったことはない。

「んっ…ああっ…ダァ…リン…」

吐息交じりのラムの甘い声があたるをますます熱くさせた。
いつかはこんな時が訪れるだろうとは思っていた。
一度は耐電スーツを着せられた苦い思い出もあるが、それでもいつかは、ラムを抱くだろうと思っていた。

“ウチのカラダはダーリンのものだっちゃ”

あの晩の言葉が忘れられない。

一線を越えても、結局日常に何の変化も無いことに気が付いた時は、素直に嬉しかった。
(ついにこの時が来たか…)
そう思いつつ、色んなことを瞬く間に想像して、そわそわしたものだ。

今はそれが現実になっている。ラムとカラダを重ね合っているのだ。
心地いい…カラダが熱い…思った以上に体力も使う…。
今まで触れたことのないラムの柔らかい部分や、白い肌が…温かい。
こんなに心地いいものなら…もっと早く抱いてやるべきだったな…。
あたるはラムのカラダ全身、余すところ無く触れ、撫で、愛撫した。
ラムはそれを悦んでくれた。声にして。カラダをくねらせて。

しかし…それから先が問題だった。
知識はあったが、いかんせん生身の女体に挿入したことが無い。が、本能(煩悩)のままにカラダが動いた。
勃起したソレを、ラムの股間のクチにあてがう。
思ったよりソレは簡単に、ラムのナカへと、入っていった。

「んくっ…ダーリン、嬉しい……ああっ…」

太腿を広げて、ラムは愛しい人と繋がった。素直に入っていったのは、ラムがそれを求めていたからだろう。

「…ダーリンが入ってきたっちゃ…」

ラムの、温かくて締まったナカは、あたるにとって未知の領域で…とても、言葉で表せる感覚ではなかった。
とにかく、あたるは己を一旦奥まで入れた。ラムの肉管に締め付けられて、気持ちがいい。
そしてそれを抜きにかかる。全部出さずに、また挿入する。
男の本能のままに、あたるはラムに送り込み続けた。己の…唯一ラムと繋がることが出来る部分を。
激しくピストンするあたる。

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…」

ラムもそれに呼応する。

「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ…」

ラムはあたるのモノを咥え込んで、両太腿から爪先まで力んだ。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」

「あんっ、んんっ、んんっ、んんっ、んんっ!」

ズヌッ、ズヌッ、ズヌッ、ズヌッ、ズヌッ…
ラムにしごかれて気持ちがいい…しかし…何かが足りない気がする…。

「ラ…ラム…ちょっと…はっ、はっ、はっ…」

「何?…はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

「ちょっとだけ…放電…軽くやってみて…くれ…」

パリパリ…パパパッ…

「うっ!…・いいっ…」

すっかり電撃慣れしてしまった彼のカラダは、放電の刺激があると、尚一層良く感じた。

「もっと…つ、強い方が…いいけ?…ああっ」

「ま、待て…ふっ、ふっ、ふっ、ふっ…言うから…」

あたるのピストンに拍車がかかる。ラムのカラダが前後に揺れる。

「あんっ、あんっ、あんっ!あんっ!!」

「…・ラ、ラムッ、今じゃーーーーーーっっっ!!」

「あぁあーっ!んーっ!んーーっっ!ダーーーーリーーーーンッッ!!」

パリパリッ…バババッ…
ドババババババーーーーッッ!!

「うおおおおおおおおおおおっっっ!!」

あたるが叫んだ瞬間、ラムのナカに、「あたる」が発射された。
ラムのナカで何億という「あたる」がばら撒かれた。
“うおおおおおおおおおおおっっっーーーー!!”
どこかへ向かって突進する「あたる」たち。
が、しかし。卵子「ラム」がいるはずの場所に「ラム」がいない。
たった一個の「ラム」目指して飛んで来たというのに…。
精子の「あたる」たちは、行く当ても無いまま、しばらくそこに留まるしかなかった。
そして、あるものは体外に零れ出て、脱落した…。


あたるもラムも、満たされた面持ちで、眠りについた。
朝が来ると、先に目を覚ましたのはラムだった。
あたるの間の抜けた寝顔に、そっとキスする。そのキスであたるも目覚めた。
むっくり起き上がると頭をかき、あくびをひとつ。
幸せそうに笑みを浮かべる目の前の彼女を見ていると、夕べのことは本当だったんだ…と実感した。

「良く眠れた?ダーリン」

「あいててて…体が…あ、ああ眠れたけど、体が痛ぇ…」

起き上がると掛け布団がめくれ、白いシーツに赤い染みが…。

「お前、本当に…」

「だからダーリンが初めてだって…きゃっ…」

「…オレも…」

「ホント?今まで誰とも?しのぶとも?」

「こんな時にウソ言ってどうする!…本当だって…」

また互いに軽くキスを交わす。

「しかしついにオレの体は…異常体質になっちまったみたいだなぁ、ラム」

「ウチの電撃無しじゃ、ダメ、ってことでしょ?…もう浮気、出来ないっちゃ!嬉しいっ!」

「…そうかぁ…オレの人生、もうこれまでかぁ…ふぅ…」

「何で溜息つくっちゃ?これ以上のパートナーはいないのにっ!もうっ!」

「浮気する楽しみがぁ…住所と電話番号とメルアドをメモする人生の楽しみがぁ…」

「もう1回、電撃フィニッシュで…やってみるっちゃ?」

「もう明るいからお終い…」 “チュッ”

ラムをいなす様に、あたるはフェイントのキスをした。

(もうちょっと大人になったら…オレも親父になってるかもなぁ…)

一線を越えても、子供が産まれても、きっとあたるの浮気癖は治らないだろう。
しかし、ラムとあたるの間に様々な変化があっても、それは世間の日常とは、ほとんど関係無いはずだ。

子供を背負ってナンパするあたるを想像して、ラムが「ふふっ」と笑った。

「何笑ってんだ?またおかしなこと考えてんだろう?」

「…内緒っ」


こうして初めて結ばれたふたりだが、今日からも今までと変わらない「ありきたり」な日常を繰り返すのだろう。
きっと何年、何十年経っても、痴話ゲンカをしつつ「ありきたり」な毎日を過ごすのだろう。
この地球のどこかで。

--- E N D ---

あとがき


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