キスマーク騒動


愛し合った翌日が平和で満たされた日ばかりで無いことは、少なくない。
むしろ、そうでない1日を送る方が多いかもしれない。
今回はあたるとラムをきっかけに学校内で起こった、ある騒動記だ。


前の晩にねっとりと絡み合ったあたるとラム。
お互いに、色んな部分を唇で愛撫。軽く噛み付いたり吸い付いたり、と、なかなかに激しかった。
しかし決して回数を重ねてきたわけではない。むしろまだあたるもラムも、お互いのカラダを知り始めたばかりであった。
だから、あんなことやこんなこと、あまつさえ…な、ことまで、未知の領域は果てしなく広かった。
とにかく、色んな部分に吸い付いた。それが次の日、おかしな(というより当然の)結果となって表れてしまった。


ふたりは別々に登校した。ラムは昨晩の匂いを残さないよう一度UFOに戻ったため、あたるは変な気まずさを周囲に悟られたくないために。
教室に入ると、自分の席にどっかり腰を下ろすあたる。
少ししてラムが窓から入ってきた。
すとん、と空中から席に着く。お互いそ知らぬ顔をする。
あたるの座り方は、机に両足を乗せ、頭の後ろで手を組んだスタイル。季節は夏服の頃、白い半袖シャツのみ。
ラム親衛隊の4人がやってきて、ラムに挨拶。

「ラムさん、おはよう」

「おはようだっちゃ」

いつもと変わらぬ笑顔で手を振り返すラム。
と、パーマがあたるを見てあることに気がついた。

「おいあたる…ちょっとこっち」

珍しくパーマだけがあたるを教室の隅に呼んで、ひそひそ耳打ちした。
パーマの言葉に、あたるは狼狽した。続けてこそこそと内緒話が続く。

「何でお前そんなことを…言うなよ、絶っ対!知れたら最後、殺されちまう」

「だけどよ…それ、ちっと目立つんじゃねぇか?やばいぜ、実際」

「じゃあどうすりゃいいんだよ」

「サクラ先生なら、何かいい方法知ってるかもな」

耳打ちし合うふたりに、氷のような視線を放つメガネ…不吉な予感。


「サクラ先生〜いますか〜」

珍しくノーマルな態度で保健室に入るあたる。

「どうしたのじゃ、始業前から」

「いや、その…サクラさんなら何かいい方法知ってるかと思って…」

「ん?」

「あの、これ…」

あたるがシャツの襟を広げて指差して見せたのは、赤い、アザ…であった。それも、数箇所。
瞬間何事か理解し難く、サクラはそれを凝視した。脳内で“それ”が何であるのか導き出されると、険しい顔をして、言った。

「おぬし、それはもしや…キ、キス…マーク…」

「なははははは…いやまぁ…」

「高校生の分際で…と説教したいところじゃが…相手は、ラムじゃな」

「頼むから誰にも言わないで、サクラさん!」

「まぁ朝から辛気臭い事を言うのも野暮というもの…しかしそれはちと、目立つのぅ」

「だからわかるやつにはわかっちまって…」

「うーむ、方法は有るには有るが…少し時間がかかるぞ。それとも手っ取り早くこれにするか?」

サクラは「自分で貼れ」と絆創膏を差し出した。

「これじゃあ余計に目立ちません?」

「ネコに引っかかれた、とでも説明すればよかろう…ふふっ」

上手いこと言うよなぁ…と、妙に感心しながら、あたるはぱっと見、目立つ数箇所に、絆創膏を貼った。

「それじゃあ、サクラさん」

「ちと待て」  「え?」

「まぁ若いとはいえ、男と女がおれば自然とそうなるのも道理。自然の摂理じゃ。が、しかし諸星」

サクラは足を組み替えて話を続けた。

「おぬし、男としてきちんとそれなりの、準備はしておるのであろうな?…もちろん」

「準備…?」

「その様子から察するに…もしラムに子が出来たら、どうするつもりじゃ?」

「子、子供っ!?」

「当たり前であろうが!どちらにしてもきちんと責任を持って、ラムに接してやれ…わかるな、諸星」

「わかったよ、サクラさん」


1時限目の途中で教室に入るのもバツが悪い。それにこの格好では余計に目立ってしまうではないか。
そこで休み時間の喧騒に紛れて、席に着いたあたる。
そのまま昼休みまでを教室で過ごし、速攻で弁当を食べ、あたるはラムに声をかけた。

「ラム、ちょっといいか」  「うん」

ふたりで教室を出て行く。メガネの眼鏡が“ギラリ”と光る。
面堂の視線もふたりを追う。
カクガリとチビは気が付いていない。パーマだけは、何かが起こる事を察知していた。

平和なはずの昼休み。そう、腹を満たした後、ある者は惰眠をむさぼり、ある者は健全な高校生らしく青い空の下で青春を謳歌する、そんな平和な昼休み。

校庭の、割と人目に付かない物陰に、ふたりは座っていた。

「どうしたっちゃ、ダーリン。こんな所に連れてきて」

「ちょっと確かめたいことがあってだな、ラム。それよりオレのこれ、目立たないか?」

絆創膏を指差すあたる。ラムは笑って答えた。

「変だっちゃ、ダーリン。どしたの?」

(相変わらず、気付いて欲しい所に気が付かんやつ…)

「ネコにだな、引っかかれたのだっ」

「で、確かめたいことって、何?」

「ちょっと失礼っ」  「ちゃっ!?」

あたるはラムの首にかかった髪を払い、胸元をガバッと広げた。

「ダーリン、今昼だし学校だっちゃ…大胆過ぎるっちゃ」

「うーむ、オレよりかは、目立たんな…髪で隠れてるし」

「何?」  「これこれ」

あたるはキスマークを隠す1枚を、少し剥がして見せた。

「あ、それ…ウチが?」

「そう…」

その時背後から、何やら気配が。


チャキ…ギラリ。

鋭く光る物があたるの肩に当たった。

「諸星…白昼堂々、ラムさんに襲いかかるとは…」

「待て、面堂!」

「問答無用ーーーーっ!!!!!」

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後の場面は、真剣白刃取りのあたると、それを押し切ろうとする面堂との力比べ。
そこへラム親衛隊の4人がやってきた。制服の前が乱れたラムを見て、頭に一気に血が昇った。

「あたるーーーーーっ!!貴様が外道だということはわかっていたが、こーんな人気の無い所にラムさんを連れ出し…お、お、襲いかかるとは…本来ならこの俺の手で貴様に引導を渡すところだっ渡したいっ!がしかし、後は面堂、頼む!あたるを刀の錆びにしてくれーーーーーっっっ!!!」

「もうっ、いい加減にするっちゃーーっ!」

バリバリバリバリーーーッ!!

あたるを含めた6人が電撃にやられた。煙を吐いて崩れる男達。

「ラムさん…何でこんなやつを、かばうんですか…」

地面に突っ伏した体勢で面堂が悔しそうに問う。

「もうっ、昼間っから何変な想像してるっちゃ!ダーリンはウチのここを確認しただけだっちゃ!」

首にかかった髪をかき上げて、小さな赤いアザを見せるラム。

「ちょっ!待てっ、何見せてんだ、バカッ!!」

「それよりあたるぅぅ…」

メガネがうめいた。

「お前、その、これ見よがしの絆創膏は、何なんだぁ?」

「これは…ネコに引っかかれただけじゃっ」

「ウチのこれはっ」 言いかけるラム。

「だからラムッ!」 焦るあたる。

「…地球の食べ物で、ジンマシンが出たっちゃ…」

あたるはほっと胸を撫で下ろした。ラムがウソをついてくれた。

「どれだけ出てるかダーリンに見てもらって、サクラの所に行くとこだったっちゃ」

ラムが言うなら…と、5人は納得して、落ち着いた。

「ということじゃ。これからサクラさんとこに行くから、お前らは帰れ。シッシッ」

が、しかし…パーマだけは皆と違う事を思っていた。
憧れのラムちゃんだけど、まぁ、仕方無いといえば仕方無いか。と。


皆校舎方向へ戻って行った。そして、ふたりだけがそこに居た。
校庭で遊んでいる生徒達の声が、少し遠くに聞こえる。近くに聞こえるのは、セミの声だけ。

「でも、ちょっとだけ…」

「これ以上マーク付けたらヤダっちゃ…」

「付けないって」

抱き合いつつ、キスだけするふたり。


「やはり貴様だけは生かしておくわけにはいかんっ!!」


面堂は刀を振り回し、親衛隊は怒号を撒き散らし、全速力で駆けてくるではないか。
戻ったふりをして、ふたりをこっそり見ていたのだった。

あたるはラムの手を取って逃げ出した。追いかける面堂達。

「どうしてウチも逃げるっちゃ?」

「同罪じゃ、同罪!」

そういうわけで、午後の授業は、この連中のひと騒ぎで潰れてしまったのである。


「あうん、ダーリン…くすぐったいっちゃ…ああんっ」

「しばらく…ビキニで飛び回るなよ…ラム…」

「あんっ…わかったっちゃ…」

こうして甘々な夜は更けて、お互いのカラダにまた赤い印が刷り込まれるのだった。
それは時間が経って消えても、新たに刻印され続けてゆく…はずである。

--- E N D ---

あとがき


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