例えばこんな日々


アイツ自身、わかっているのかいないのか…男にモテるということに。
面堂やメガネ達はともかく、元婚約者のレイに、面堂んとこの真吾、闇の宇宙のルパに、カエルなってた、ぴぐもとかいうヤツ。
そしてガキの分際でラムを拉致したルウに、夢邪気の野郎も結局はオレの代役としてあの夢を続けるつもりだったとしか思えん。
その他諸々…数多の男どもが、好意かそれ以上のものを抱いていたのは確かだ。
そしてこれからもそういうヤツが現れ無いとも限らん。

オレは正直心配だった。学生時代の丸1日中引っ付いていた頃と違って、オレが外に出てしまえばアイツひとりで過ごす時間が増えてしまうのだから。
さて、どうしたものか…。


諸星家を出て、賃貸で手狭ながらも新居を構えたあたるとラム。あたるの実家を含めた同居生活は長かったが、こうしてふたりきりの生活が新しく始まるにあたって、あたるは先のような心配事を抱いていた。

そして大人になって一番変わった点と言えば、ラムがお馴染みのビキニスタイルから、チャイナドレスにパンプス、という姿になった事だろうか。
ビキニより露出度が少ない割に、妙に“大人の女”の色香を感じさせた。その点も含めて、気が気でない、あたるであった。

引越し後の出勤初日の朝、玄関で。

「今日から昼間留守になるからな。くれぐれも新聞や保険の勧誘、牛乳屋や布団屋のセールス、変な勧誘その他諸々っ!いいか、絶対に不用意にドアを開けるんじゃないぞ、わかったな、ラム」

「夕べっからその話ばっかりだっちゃ。そんなに心配しなくても大丈夫っちゃ」

「でもなぁ…お前わかってんのか?今まで色々あった事とか。とにかく!オレの言うことをしっかり守っとけ、いいな」

「わかったっちゃ。じゃあ、いってらっしゃい♪」  “チュッ”と軽くキスをしてあたるを送り出すラム。

その日1日、あたるはヤキモキした気分でどうにも落ち着かなかった。

帰宅してドアの鍵を開ける。  「ただいまー今帰ったぞー」

すると奥から  「ちゃっ!!」  小さな叫び声が。

「どうしたっ!?」  「痛〜い…」

台所でラムが料理をしていた。

「包丁で指、切ったっちゃ」

「(ほっ…)慣れないことするから、まったく。どれ」

「ウチのこと、すっごく心配みたいだっちゃねぇ〜」 満面笑みを浮かべるラム。

「アホッ、そんなんじゃないわ…あーあ、こんなに深く切っちまって」

「誤魔化さないのっ。ウチには電撃があるし、空飛んで逃げれば大丈夫だし」

あたるは薬箱内の傷テープを探しながら、言った。

「お前自分でわかってんのか?」  「何が?」

「その何だ…自分がモテる、っていうか…そういう自覚」

「ダーリン、妬いてるのけ?」

「だーーーーっ!そっちの方じゃなくてだなっ!お前少し無防備なんじゃないか?それともちょっと…鈍い、っちゅーか」

あたるは説教を始めた。

「昔からそうだったが、高校時代のクラスの男どもとか、その他諸々色んなヤツに対して警戒心が足りんっ。足らなさ過ぎじゃっ!宇宙じゃ以前のビキニスタイルが普通だったとしても、地球じゃそう見てくれないんだぞ。少しは自覚を持ってだな…」

「でもダーリン以外と何かあった事なんか、無いっちゃよ」

「なる寸前だった事だってあっただろっ!祝言だの結婚だの誘拐だの…」

「そんなこと言われたって…ウチの意志とは関係無い場合だってあったし」

「ワザとやった事もあったろ…オレを心配させようと思って」

「じゃあ、どうしたらいいっちゃ?一緒に会社に行くとか?」

「そんな事出来るか、アホッ」

「んもうっ!ダーリンの心配性なのはわかったけど、少しはウチを信用して欲しいっちゃ」

あたるはそれ以上何も言わずに、ラムの切れた指に、黙って傷テープを巻いてやった。


そうなのだ、アイツの意志に関係無く、近づいてくるヤツは多い。モテるというのとは、ちょっと違うかもしれん。
モテる…というか、“男として”ストレートに言うなら“モノにしたい”…というのが他のヤツラの本音…じゃなかろうか。
オレが浮気心を起こして女に声をかけるのとは、多分、わけが違う。たくさんのコと“お付き合いしたい”オレの願望と、“ラムひとりを自分のモノにしたい”と思うヤツラの願望は、恐らく根本的に違うのだ。
オレ自身は…アイツを“束縛してモノにしたい”と思った事など一度も無い。互いに自由に好き合うというのは、そういう事では無いだろう…と思うからだ。

しかしアイツが“女”である以上、その不安は今後もオレに付きまとい続けるだろう…。


ある日の事。あたるが出て行った後、ラムはキッチンのテーブルに弁当が置きっぱなしなのに気が付いた。

「あ〜ダーリン忘れて行ったっちゃ〜届けに行かなくちゃ」

あたるの勤め先へ飛んで行くラム。受付で所属部署のフロアを聞くと、直接弁当を持って行った。

オフィス内は意外と静かだった。営業が外回りをしている時間。あたるは何をするでもなく、ぼけーっと天井を見ていた。

「ダーリン、お弁当忘れてたっちゃよ。はいこれっ」

あたるの他にも社員が何名か残っていて、各自の仕事に取り組んでいた。斜向かいのデスクの同僚が、ふたりをチラリと見やった。

「何だ、わざわざ届けに来なくても外で食ったのに」

「だってせっかく作ったんだし、外食じゃ不経済だもん。もったいないっちゃ」

少しのやり取りをして、ラムは帰って行った。
すると、斜向かいの同僚があたるに話しかけてきた。

「なぁ諸星君、今のもしかして…奥さん?」

「ん…まぁな」

「すっごい美人だねぇ〜こう言っちゃ悪いけど、君にはもったいない、っていうか。それにしても随分早いねぇ、結婚」

「いや、結婚はまだ」

「じゃあ同棲?ふーん…君もなかなかやるねぇ…あんなに美人でスタイルもいい女、そうそういるもんじゃないよなぁ…」

「おい…変な言い方はやめろよ」

「変な言い方?」

「おかしな色目で見るな、っつってんの」

「でもさぁ…」 斜向かいの同僚はあたるに近づくと声をひそめて、話しを続けた。

「他の連中の顔、見てた?君の彼女見て驚いてたみたいだぜ。なぁ、今度紹介してよ、頼むよ」

「俺も紹介して!」 「俺も俺もっ!」 「私にも、是非!」

いつの間にやら、あたるのデスクに群がる男達。面食らうあたる。

「お、おのれらぁぁぁ…駄目っ!絶ーーっ対、駄目じゃっ!!誰が紹介するかーっ!!」

あたるの心配は的中した。やっぱりこいつらも、他のヤツラと同類だ…と。


そりゃ自由に行動するな、外に出るな、とは言わんし言いたくもない。ただ何だっていつもアイツはああも無防備なのだ。
あんなに体のラインがくっきり出ちまう服でだな…男ばっかりのムサイ所に、のこのこやって来るとは…。
自分で言うのも何だが、あれじゃあ他のヤツラが色眼鏡で見ても仕方無い。
オレが心配したところでどうしようもない事はわかっているのだが…もうちっと自覚するように、しっかり言って聞かしておかねば…。


あたるはその晩、なかなか帰って来なかった。時計を見て溜息をつくラム。

「どうしたのかなぁ、ダーリン。遅くなるならなるで、電話の一本もしてくれればいいのに」

12時頃になってやっと鍵が開く音がした。

「おかえりだっちゃ、ダーリン。遅かったっちゃね〜」

「ラム〜〜今帰ったぞ〜〜」

見ると玄関には、ベロンベロンに酔っ払ったあたるが。

「お〜〜い、お前らこっちこっち…ヒック…」

「お邪魔しま〜す、ラムさ〜ん、遅くにすんませ〜ん」

あたるが呼び込んだのは、会社にいた同僚数名。

「もうっ、こんなに酔っ払ってどこで飲んで来たっちゃ?それに急に友達連れて来るなら来るで…」

「いやぁ〜ラムさ〜ん、はじめましてぇ〜俺たち諸星君の友達でぇ〜っす」

同僚達もベロンベロンだった。

「ラムゥ…」  「もうっ、しっかりするっちゃ、ダーリン」

どかどかと無遠慮に新居に入り込む同僚達。ラムは少し苛立ってきた。

「いくら何でも非常識だっちゃ!こんな遅くに大勢で人の家に押しかけるなんて」

「いやぁ〜ラムさ〜ん、お構い無く〜〜俺達でテキトーにやってますから〜」

「そ〜れにしてもぉ〜や〜っぱり美人でいい女〜ですよねぇ〜ラムさんてぇ〜〜えっへへへへ〜〜」

(もう皆、すっかり酔っ払ってるっちゃ…明日はお休みだから、今夜はゆっくり過ごしたかったのに〜…)

「いいなぁ、諸星〜〜俺もラムさんみたいな〜美人と〜結婚してぇよぉ〜〜」

「だ〜めっ!ラムはオレのモンらからぁ、お前らは触るなよぉ〜〜ちょっとでも変なことしたら〜〜殺すからなぁ〜〜…ワハハハハ…」

(ダーリンもすっかり皆のペースに乗ってるっちゃ…ずっとこの調子なのかなぁ…もうっ…)


深夜2時も過ぎた頃。ラムはコンビニでつまみを買ってきたりしていたが、さすがに眠たくなってきて、キッチンのテーブルでウトウトしていた。
あたると同僚達も適当に床に転がって眠ってしまった。

…ヒタヒタと、ラムに近づく足音…。
眠るラムの肩に、手がかかる。はっとして目が覚めるラム。すると…。

「んんっ!?」 誰かの手が、口を押さえた。

「大声出さないで下さいね、ラムさん」

それは、あたるの席の斜向かいにいた、同僚だった。

「諸星みたいな、あんな男、どこがいいんですか?貴女みたいな美人がもったいない」

「んんっ…」

男はラムの耳元でひそひそと囁いた。囁きつつ、耳に“ふう〜っ”と息を吹きかけてくるではないか。
そして馴れ馴れしく、ラムの体に抱き付いた。服の上からだが、あちこち触ってくる。
とにかくラムは口にあてがわれた手と、いやらしくあちこち触る手を退けようとした。
力が駄目なら電撃で…と思ったが、アパートの大家さんに口を酸っぱくして言われた事を思い出した。
電撃で建物が損傷したら、弁償プラス、このアパートから出て行ってもらいます、という事を。

とにかく力で敵わないなら、上へ飛んで振り払おうか、と考えた。
男はしつこく、ラムに抱き付いたままだ。男をぶら下げて、ラムはフワリと宙に浮いた。口を押さえていた手が離れた。

「もうーーーっ!!何やらしいことしてるっちゃーーーっ!!」

「ラムさ〜ん、お願いだから結婚して下さいよぉ〜〜」

男は半分泣き声になりつつも、ラムにしがみついたまま。まだ少し酔っ払っているようだ。

「バカ言ってるんじゃないっちゃーーっ!!」

ラムは軽く電撃をかました。男は感電してラムから手を離す。
そして怒ったラムは、あたる以下、他の男どもにも軽く放電して、酔いから覚ました。

「な、何やっとるんじゃ…ラム…」

「ダーリンのバカッ!酔っ払った友達連れてくるから、ウチ変なことされそうになったっちゃーーーっ!!」

「何だとっ!?誰に何されたっ?大丈夫かっ!?おい、ラムッ!」

「ダーリンのバカァーーーッ!」

ラムはあたるに抱きついて、泣いた。しゃくり上げるほどの時間、泣き続けた。


「ダーリンのお陰でひどい目に遭ったっちゃ…もう…」

「だから、ごめん、って…ラム」

あたるが同僚達を追い返した後。ラムは立ったまま、あたるに背を向けて怒っていた。
ツンとした横顔。後ろから両肩に手を置いて謝るあたる。

「本当、オレが悪かったから…帰りに飲みに誘われてだな、つい…」

「で、つい、ベロベロに酔っ払った友達を、しかも夜中に連れて来たのけ?」

「だからぁ…もう怒るなよ、な?な?」

「ウチ、お陰で嫌な思いしたっちゃ」

「もう誰も連れて来ないって…嫌な思いさせて悪かったから…」

ラムの耳元に囁くあたる。息をふうっ、と吹きかけ、首にキスをする。

「やんっ…くすぐったいっちゃ…」

あたるは服の上から、ラムの胸をまさぐり、腰を摩り、スリットをたくし上げて腿を撫でた。

「ウチはダーリンだけのものだから…他の誰にも何もさせないっちゃ…」

「今夜の事は…オレが忘れさせてやるから…な、ラム…」

「うん…」


一糸纏わぬ姿になったふたりは、部屋の布団の中で、もつれ合っていた。
ラムの首に軽く噛り付き、舌で舐り、唇で吸い付くあたる。
あたるの頭を抱きしめて自分のカラダに密着させるラム。

幾度も抱き、飽きるほど愛撫したラムのカラダ。それでもあたるは飽く事無く、ラムのカラダの隅々にまで、自身のカラダを絡めた。
ラムの白くて柔らかく、しっとりと汗ばんだ肌。そこに己のカラダ全てを埋めるようにして、彼女を愛した。

乳房に頬をすり寄せ、乳首を舐め上げる。下腹部から恥丘に続くなだらかな女体の曲線に指を這わせる。
幾度も抱かれていながらラムも飽く事無く、あたるの愛撫を全身で悦んだ。

あたるはラムの全てを感じたいと思い、ラムはあたるに全てを任せて自分のナカにあたるを受け入れる度に、この上ない悦びを感じた。

お互いの悦びは、幾度も幾度も繰り返される。
ふたり同時に宙に舞うような達成感が、互いを包み込む。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ…はぁっ…」

「ちゃっ…あっ、ああっ…んあっ…」

「…もう、大丈夫だろ?…ラム…」

「…だっちゃ…ダーリン…」

こうしてふたりは、明るくなる時間まで眠ることはなかった。


晩飯の席で、またあたるの説教が始まった。

「とにかくだ、ラムッ、オレも悪かったが、今回の事でわかっただろ?お前の自覚が足りないことが」

「だってこれが成人後の鬼族の、定番ファッションだっちゃ」

「だからっ!定番だか番台だか知らんが、こう、何だ…体のラインがわかり過ぎるのだ…特にお前の場合は」

「ウチをあんまり見せたく無いっちゃ?他の男に」

「そんな事は言っとらんだろ…別にそのカッコでもいいが…たまにはそれ以外の格好もせい」

「はーーーーい。ダーリンがそう言うなら、そうしまーす。だっちゃ」

「わかれば、よろしい」  「ふふっ…」

「何がおかしい?」

「やっぱりダーリン、思った以上に心配性だっちゃねぇ。そこもまた、好きなんだけどっ」

「アホかっ…」

顔を赤らめて、黙々と飯をかき込む、あたるであった。


休み明け、仕事に出かけたあたる。早速、斜向かいの同僚を屋上に呼び出すと、いきなり“オクトパスホールド”をかまし、間髪入れずに“アトミックドロップ”で更なる身体ダメージを与えた。

「今度おかしな真似しやがったら〜…このくらいで済むと思うなよっ、ボケッ!!」

酒の上での事とはいえ、例の事を薄っすら覚えていた同僚。諸星あたるの恐ろしさの一部を垣間見た気がしたのであった。

その後、社内で“スチャラカ社員”のレッテルを貼られたあたるだったが、弱みを握られた例の男のお陰でなのか、どうにかクビにはならずに済んでいるらしい。

--- E N D ---

あとがき


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