キスマーク騒動2〜噂のふたり〜


「ただいまー」

あたるが勢いよく自室のドアを開けると、ラムは虎縞の敷物の上で、仰向けに横たわっていた。暖かい室内で、午睡の只中にいるようだ。

「何だ、昼寝か…」 起こさないよう小声でぼそっと言う。

あたるが近づくと、「ううん…」と、少々艶かしい声を出す。ビクッ、とするあたる。
しかしラムは眠ったままだ。

(何だ脅かしやがって…ちょっと寝ぼけてるだけか…)

紺色のセーラー服に黄色いスカーフ。そして、無防備に乱れたスカートの裾、少しだけ見える胸元。
近づいて中腰で覗き込むと、僅かに開いたピンク色の唇から、静かな寝息が漏れている。

緑の髪が広がり、制服の襟が乱れて、首筋から鎖骨、胸元の辺りまでが露になっている。
その薄い白肌に、赤い印。普段は制服と髪の毛で隠れているので、本人も気にしていないが、あたるが付けた赤い印だ。

(何ちゅう無防備な…誰かに見られたらどうするんだよ)

そう思いながら、そっと“赤い印”に触れてみる。触れながら顔を近づけ、彼女の匂いを静かに吸い込む。

(寝てるけどいいかな…ちょっとだけなら…)

ぷっくりとした柔らかい唇に、唇を重ねる。

「んん…」  「ん…うわっ!」

ラムが目を覚ましてしまった。

「…ダーリン、明るいうちから、どうしたっちゃ?」

「いや、別に…」

「今エッチな事…考えてたでしょ?」

あたるの顔を覗き込んで、くすりと笑うラム。

「もうっ、ウチが寝てる時にキスしてくるなんて…ムード無いっちゃ」

そして今度はラムから「はい、お返しっ」と、軽くキスする。

あたるは図星をつかれて赤くなりながら、ひとつ咳払いするとこう言った。

「お前なぁ、ムードの有る無しとかじゃなくて…とにかくっ!まだ明るいから、オレはガールハントに行って来る!」

「何言ってるっちゃ!だめったらだめぇーっ!もうっ、浮気は許さないっちゃっ!!」

と、いつものようなやり取りの後、あたるは上手いことラムを振り切り、出かけて行った。

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その夜。ラムは少しだけ、顔や首へのキスを許していたが、さっきの事で怒っていたので、途中で相手にするのを止めた。

結局その晩は、それ以上は何も無かったのだが。


「何でダーリンは、ウチが居るのに、他の女の子と浮気したがるのかなぁ…」

そして次の日の昼休み。ラムはひとり、校庭が見える校舎の壁にもたれかかって、いつもの疑問をぶつくさ言っていた。

「ウチだけじゃあ、物足りないのかなぁ…ダーリンの考えてる事は、よくわからないっちゃ…」

無意識のうちに首にかかった髪の毛をかき上げるラム。そこにランが現れた。

「あらぁ、ラムちゃん、どうしたのぉ?こんな所にひとりで。ダーリンは一緒じゃないの〜?」

「ううん、別にどうもしないっちゃよ…ランちゃん」

「ケンカでもしたのかしら?…あら?ラムちゃん」

「えっ?」 笑顔が引きつり、ドキリ、とするラム。

「ラムちゃんの首に…もしかしてぇ、それって」

(ええっ!?ランちゃんにバレたっちゃ!?) と、冷や汗たらたらのラム。

「いやだぁ、ラムちゃんたらっ、大胆なんだからぁ。うふふっ♪」

「(な、何言うつもりだっちゃ、ランちゃん…)えっ?な、何が?」

ラムに顔を近づけるラン。すると顔付きが変わった。下からねめつける視線に、思いっ切りビビるラム。

「…ははぁ〜〜ん、読めたでぇ、ラム〜〜」

(ランちゃんの読みが当たったためしは無いけど…何言うつもりだっちゃ〜)

ラムの首筋の“赤い印”に目を付け、ツンツンと指で突付くラン。

「ダーリンと上手くやってますぅ、っちゅう事を、ワシに見せ付けるつもりで」

(やっぱりバレたっ!?)

「こ〜んな、いやらしい小細工しおってからにぃ…キスマーク、やろ、それ」

(来た〜〜っっ!!) 心臓ばくばくのラム。

「ダーリンならさっきも、ワシに声かけてきたばっかりや。そ〜んなダーリンと熱々な関係やなんて、ワシが信用するとでも思ったんかいっ!」

(やっぱりランちゃんの読み、ズレてるっちゃ…)

「ワシに自分の幸せ見せつけよう、思とるつもりやろけどなぁ…そんなもんに騙されへんでぇ、ラム〜〜。お前の幸せだけは、徹底的に邪魔したるんじゃっ!」

(あーあ、まただっちゃ…はぁ〜〜…)

「偽のキスマークの小細工で、ワシを騙せると思うなよっ!」

そしてランは、相変わらずのズレた読みで満足し「わーはっはっはーーー!」と、高笑いしながら、その場を去って行った。

「はぁ〜…取り敢えず、小細工だって思われたみたいだっちゃ…いつもの事だけど、疲れたっちゃ…」


しかし何だか面白く無い気分のラン。

「そや。ラムの嫌がる事っちゅーたら、これしかないやろ…」

ニヤリ、と笑い、その日の放課後。ランはあたるを誰も居ない教室に呼び出した。

「どうしたの〜、ランちゃ〜ん」

「ダーリン、聞いてくれる〜?ラムちゃんたら、ひどいのよ〜。ダーリンに内緒で他の誰かと…ウ・ワ・キ、してるみたいなのよ」

(ふたりの仲を壊してくれるんじゃ。これ以上嫌がる事っちゅーたら、他に無いやろ)
というのがランの企みだった。

「アタシ、見ちゃったのよ。ラムちゃんのカラダに…キス、マーク…やだっ、ランちゃん恥ずかしいっ♪」

「えっ?ああ、そ、そう…」

「だからダーリンにも…アタシがキスマーク、付けてあげる…」

あたるの上着を手際良く脱がせると、白いシャツの胸元を開きかけた。するとそこには、ラムと同じ、赤い印が。

(何やこれ、ダーリンもかいな…ふたり揃って何で同じもん付けとるんじゃ…?)

「やだっ、もうダーリンたらぁ〜…ランちゃんが付けちゃう前に、もう誰かさんに…」

ここまで言って、ランはようやく気が付いた。

「…何や、ラムもダーリンも、ふたり揃ってワシを〜…コケにしとるんかいっ!!」

豹変したランは、「何やまったくおもろないっ!」との捨て台詞を残して、大股歩きで立ち去って行った。
あたるは、一体何だったんだ…と思いつつ、呆然としてランの後姿を見送った。

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物凄い形相でずんずん歩くラン。

「何や何や、ふたり揃ってキスマークなんぞ付けくさってからにっ!ラムとダーリンはもうデキてたっちゅーわけかいっ、おもろないっ、おもろないわっ!」

大声の独り言が周囲に聞こえないはずも無く、放課後学校に残っていた生徒達の耳に入った。

「あのふたりが?」
「あの諸星君がねぇ…」
「えーっ、本当?」

人の口を伝わるのは、あっと言う間だ。翌日には、全校に噂が広まっていた。

「…ちょっと聞いた?キスマークだって…」
「うっそー…信じらんない、あの諸星あたるがぁ?」
「ってことは…もう…」
「ラムとついに…って感じ?男子が黙ってるか見ものよね…」

特に女子中心に、噂がまことしやかに囁かれた。

「どういう事か説明してもらおうか、あたる〜…」

「だから単なる噂、だって」

面倒臭そうに、しれっとした態度で答えるあたる。

「…その前にひとつ聞いておきたいんだが…チ、チッスマーク、ってのは…あれか?」

「何だよ?」 メガネがあたるに顔を近づけ、小声で聞く。

「紅を引いた唇で、こう、ブチューッ…とやった、アレか?」

「(何だ、こいつ知らんのか)…そうそう、それそれ」

「でもお前を見たところ、それらしいものは付いとらんし…でもなぁ、あたる」

「今度は何だ?」

「火の無い所に煙は立たん、と言うだろう〜?もし女子の噂が本当ならばだ…」

冷徹な笑みを浮かべるメガネ。

「貴様、万死に値する、と思っとけよ…わかったなぁ〜?」

「ああ、わかったわかった」
(あーまったく、面倒臭いったらねーな…しかしラムもラムだ、あれほど気を付けろと言うておいたのに)

教室にラムの姿は無い。

(まーだ怒ってんのかな、アイツ。昨日から独りで行動してばっかじゃないか。いつもの事だというのに、まったく…)

すると昨日のランの言葉が思い出された。

“他の誰かと…ウ・ワ・キ、してるみたいなのよ…アタシ、見ちゃったのよ。ラムちゃんのカラダに…キスマーク…”

(まさか、そんなわけあるか…はは、は…) そうは思いながらも疑念と不安が湧いてくる。ラムに限ってそんな事は…と思いたかったが、ランの言葉が頭の中でぐるぐる回る。

結局ふたりとも、授業中も休み時間も殆ど顔を見合わせないまま、別々に帰路に着いた。


家に着いても部屋にラムは居なかった。

(昨日もこっちに来なかったし…まさか…)

その頃、ラムのUFOでは。

「ランちゃんのお陰で、学校中の噂になってるっちゃ…でもダーリンもいい加減、浮気やめてくれたらいいのに。あ〜あ、何だか顔合わせ辛いなぁ…」

ラムは噂になってしまった事を、少々気に病んでいるのだった。

「…でも考えてても仕方無いから、取り敢えずダーリンの所に行こうかな…」

窓から部屋に入るラム。机に向かって漫画を読むあたるが居た。

「ダーリン…ダーリン?」 あたるは漫画を読み続けている。

「ごめんちゃ、ダーリン。まさか噂になるって思ってなかったし…何だか顔合わせにくくって…」

すると、ぶすっとした声であたるが言った。

「お前最近、独りで行動してばっかりいるじゃないか」  「え?」

理由はわからないが、怒っているような態度のあたるに、ラムはドキッ、とした。

「だからさっき言った通り…」  「本当に、それだけか?」

「…何だかわからないけど、どうしてダーリン怒ってるっちゃ?ダーリンだって浮気ばっかりしてるくせにっ!ウチだけじゃ満足出来ないのけ?」

「オレが浮気してるから、自分も浮気していい、って言うのか?」

意外な言葉に、我が耳を疑うラム。

「ウチ、浮気なんてしてないっちゃっ!どうして、誰がそんな事を!?…あんまりだっちゃ…」

チラリとラムを見やると、背を向けて肩を震わせ、うつむいて手で顔を覆っている。さすがにそれを見て、あたるは焦った。

「いや、ランちゃんがそんな事を…」

「…ランちゃんとウチの言う事、どっちを信用するの…?」 涙声のラム。

「いや、だから…悪かった…」

泣いているラムを後ろから抱きすくめる。

「人の噂もなんとやら、って言うから…そのうち落ち着くって」  「…そう?」

「大丈夫だって…気にするなよ、な?」  「うん…」

ラムがあたるの方に向き直り、あたるはラムの首やら胸元やらの“赤い印”を見て、言った。

「これ全部…オレのだろ?」  「当たり前だっちゃ…」

部屋の明かりを消す。夜の褥(しとね)で素肌を擦り合わせるふたり。
しばらく互いの肌への愛撫に没頭する。

「…ラム…んっ…んっ…」

そしてあたるの指が、ラムの秘所を探り当て、まさぐる。

「んっ…はあっ…あっ、あっ…ダーリン、だめぇ…」

たちまち愛液で溢れるラムのつぼみ。そこにあたるの屹立したモノを押し当てる。
ラムが悦んでソレを受け入れる。

「んっ、んっ、あっ、ああっ…ダーリン…」

「はっ、はっ、はっ…」

激しくラムに己を送り込む。ラムの胸が揺れ、愛らしい悶えの表情を、あたるにだけ曝け出している。

「ああーっ…ダーリン、ダーリン…!」

甘えるような泣きそうな、そんな声。ラムの、こういう時にしか聞けない声で、あたるは興奮し、更に激しくラムを揺さぶった。

「…ちゃっ、ああっ…すごいっ…ちゃあ…ダーリンッ…!」

あたるは一気に駆け抜けるようにラムを突き続け、ラムはあたるの突き上げにカラダを反らして、下半身を小刻みに震わせた。

「ちゃっ…あっ、あんっ、あはぁっ!…」

あたるが脱力し、ラムも満足気に息をついた。汗だくになったカラダを、ひとつの布団の中で密着させる。

「ダーリンの浮気癖が治ってくれたら…ウチ、もっと嬉しいのに」

「今のじゃ不満だったか?」  「そうじゃないけど…」

そしてラムは、あたるの首筋に思いっきり吸い付いた。しばらく肌を吸って、ペロペロと舐める。

「くすぐったいだろ…何するんだよ」

「しばらく消えないマーク、付けたっちゃ」

「それじゃ、オレも…」

そうしてふたりだけがその場所を知っている“赤い印”が、刷り込まれた。

「ダーリンもあんまりバレないようにしてね…パーマさんにはもうバレたみたいだけど」

「そうだな…でも、昨日今日の噂なんて、他に何かあれば、すぐに収まるさ…」

「でも、ランちゃんの言う事信じるなんて…あれ?でも、どこでランちゃんから聞いたっちゃ?」

「(ギクッ)いや、その、何だ…あれだ、あれ」

「あれって何だっちゃ?…ま、いいかな…でもダーリンの浮気癖はずーっと続きそうだっちゃねぇ。ウチは一生、浮気なんかしないけどっ」

「そうか…」

気が付けば夜も更けて。そしてまた新しい日が訪れた。


「しのぶ〜」 「竜ちゃ〜ん」 「ランちゃ〜ん」 「サクラさ〜ん」

「アホのあの態度を見ていれば、ラムさんと何かあったとは、到底思えんなぁ。やはり単なる噂だった、というわけか」

メガネ達も、面堂も、他の生徒達も、揃って「そりゃそうだよなぁ」と、納得した。そして、ふたりに関する噂話も、いつしか収束していった。

相変わらず他の女の子に声をかけ、殴られ蹴られ、その度にラムの電撃を喰らうあたる。それはいつもと変わらぬ光景だった。

変わった事といえば。時たま、あたるが絆創膏を数箇所に貼って登校し、何かと聞けば“ネコに引っかかれた”と答え、その度にラムが何気に赤くなっている事…くらいなものだろうか。

結局、一線を超えても超えなくても、このふたりの日常に、何の変わりも無いのだった。

--- E N D ---

あとがき


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