月の輝く晩に(後編)

▼海王星にて ▼正体 ▼破瓜の血 ▼すれ違い ▼ラムの告白 ▼新月の夜の出来事 ▼月の輝く晩に


■海王星にて■

厳寒の海王星。一面銀世界が広がり、薄着のままでやって来た、あたる、ラム、弁天は、すぐさまおユキの所へ飛んで行った。

囲炉裏端で火に当たる3人と、静かに端座するおユキ。ラムが真っ先に口火を切った。

「おユキちゃんが知ってるかも、と思って来たんだけど」

「…真っ黒くて小さな生き物…人の意識を操るようなもの…ねぇ」

「…だっちゃ…早く見つけないと…」

ちらりとあたるを見やるラム。今までの事情を知らないあたるは、のんきな顔をして、凍えた手足を暖めていた。

「よぉ、諸星…何のんきな顔してんだよ。お前のラムが、狙われてるんだぜ?」

「…へ?」

事の重大さにまだ気付いてないあたる。当事者を見ると、不安げな表情で、チラチラこちらを見ている。

「それって一体、どういう…?」

「だから、ラムのだな…あーもーじれってーなぁっ!つまり、女として大事なモンを奪われそうになってるって事だ。ここまで言や、わかるだろ?」

「えっ?ラムの…!?」

「それを調べにおユキんとこに来たワケだが…この手の話は諸星がいちゃあ、ちっと具合悪かったんだけどよ…一緒に着いて来られちゃ、聞かさないワケにもいかないだろ?」

「ちょっと待つっちゃ、弁天…ダーリンには…」

今までの事をあたるの前で話されては困る。ラムは困惑していた。弁天はともかく、レイに処女を奪われかけた…とは、口が裂けても言えなかった。

「…ま、皆まで言う必要も無いか。諸星、お前も男なら、大事なモンはちゃんと守ってやるんだな。いくらお前がいい加減な男でも、それくらいの甲斐性はあるだろ?」

話の全体像が掴みきれないあたるだったが、ラムの様子が先ほどからおかしい。時々目を合わせるものの、すぐに逸らしてしまう。そして弁天の言っていた言葉…“女として大事なモノを奪われそうになっている”とは…。

一抹の不安が脳裏をよぎった。昨日今日の出来事といい、ラムの様子や弁天の言葉…全てが不安に彩られていて、あたるは次第に気が気では無くなってきていた。

結局、おユキからは、これといった情報を得る事が出来なかった。彼女にも謎の生物に思い当たる節が無いそうだ。

「もっと具体的でないと、私にも見当つかないわね…ちょっと、ラムちゃん」

おユキがラムに手招きをする。

「何だっちゃ?」

「旦那様がいらしたんじゃ、ラムも何かと話しづらいでしょうから…こちらでお話ししましょう、ふたりだけで」

「うん…わかったっちゃ」

そしてラムは何の疑いも持たず、おユキの後に着いて行った。


■正体■

おユキの自室、ゆったりしたベッドの端に腰掛けるふたり。

「ちょっと暑いわね…」

そう言うと、おユキは着物を脱いでレオタード姿になった。

「…でね、夕べはダーリンが…だったし、さっきは…思い出したくないけど…レイが…」

「レイが…?何をしたというの?」

「…もう、思い出したくないっちゃ!…いくら操られてたから、っていっても…」

「…そう…可哀想なラム…」

ラムは涙を浮かべて泣き出した。おユキがラムの肩に手をかけ引き寄せ、優しく抱き締めてやる。

「ウチ、ウチ…」

「相手がレイですものね…ショックよね、ラム…でも、まだ…」

「…え?」

少ししゃくり上げながら、顔を上げるラム。おユキの様子が変だ。

「あなたの処女は…無事なんでしょう?ラム」

「おユキちゃん!?」

おユキは手に、男根形の氷柱を持っていた。それはツララのように長く、光りが透けるほど美しく透明で、しかしカタチは確かに、男のそれ、そのものだった。

「ラムちゃん…少しだけ、お休みなさいな…」

おユキがラムにふっと息を吹きかけると、それは寒さを通り越して眠気を催させた。意識がもうろうとして、目の前のおユキが大きく揺れている。やがて目の前が暗くなり、ラムは意識を失ってしまった。

その頃、囲炉裏のある部屋では。

「諸星、まったくお前も余計な所に着いてきやがって…」

弁天が火にくべる枝を折りながら、ぶつぶつ言っていた。

「そんなぁ〜弁天様〜またつれない事をおっしゃる…」

ふと、弁天の手の動きが止まった。おユキとラムがふたりっきりになってから、どのくらい経ったのだろうか…。

「まずいっ、諸星!おユキをラムとふたりっきりにしちゃ危ねぇ!」

「そうだった!」

ふたりは弾かれるように立ち上がり、その場を後にすると、おユキの個室へ駆け込んだ。

そこで見たものは。ベッドに横たわり眠るラムと、男根形の氷柱を手にしたおユキ。ラムのビキニの下だけを脱がし彼女の膝を立て、開かれた秘所にそれをあてがって…今まさにそれがラムの処女を奪おうとしている矢先の光景だった。

「おユキッ!何してやがるっ!…っと、お前おユキじゃねぇな?」

「ラムッ!」

弁天はすかさず鎖を手にすると、おユキの手にある氷柱に飛ばし、それを上手く絡めて取り上げた。

「もう少しだったのに…」

おユキは立ち上がると、その能力で猛烈な吹雪を発生させた。風と雪でふたりに近づく事を困難にされたあたると弁天。

「こなくそっ!こんな吹雪ごときでっ!ラムッ!しっかりせいっ!」

「悪いな、おユキッ!」

凍えた手で再び鎖を振り回し、弁天はおユキの体を縛り上げ、そのまま自分の方へと引き寄せた。その時おユキはあたるとすれ違った。

すれ違うとほぼ同時に倒れこむおユキ。吹雪が止んだ。あたるがラムに駆け寄る。その彼の背中に…弁天は見た。例の、黒くて小さな生物のようなものを。

「諸星っ!ラムに近づくなっ!!」

が、時すでに遅し。眠って秘所を露にしたままのラムの上に、あたるは四つん這いの格好で向き合った。

ラムの顔に顔を近づける。唇まであと僅か…というところで、あたるの動きが止まった。

「くっ…ぐぐっ…オレは〜…」

何か見えない力に操られて、ラムにキスをしようとする自分がいたが、あたるは気が付いていた。これは自分の意志では無い、という事に。

「こ、こんなワケのわからん状況で〜オレの意志とは関係無く〜…得体の知れん誰かに操られてたまるかーーーっ!!」

渾身の力で身を起こすあたる。すると…例のモノが、あたるの背中から“ポロリ”と落ちた。

弁天が駆け寄り、その生き物らしきものを掴む。確かにそれは目もあり手足もある、真っ黒けの小さな人形のようだった。触るとそれは、表面がツルツルしていて、まるで鰻の表皮のような皮膚をしていた。力を入れると“スポン”と手から飛び出してしまった。

床に転がり、よじよじと動く謎の生物。

「この野郎っ!よくもオレの意志を操ってくれたなっ!」

あたるが足で踏んづけようとしたその時、それは言葉を発した。

「オタスケ…タスケテクダサイ〜…」

「知能のある生き物…なのか?こいつは」

弁天が上からそいつを見下ろして言った。

「さてと。喋る事が出来るってわかった以上、今までの理由を聞かせてもらわないワケにはいかねぇよなぁ…」

弁天が膝を付いてしゃがみ込む。あたるもそいつを上から覗き込んで話を聞く体勢になった。事の次第によっては…と、身構えて。

「ジ、ジツハ、ワタシハ、アル星ノ王子デ…呪イヲカケラレマシタ…ソノ呪イヲトクニハ…」

「呪いを解くには?」 と、弁天。

「オニゾクノムスメノ、ハカノ血ヲ、カラダニウケレバ…元ニモドルノデス…」

「ハカの血?」 あたるにはすぐにピンとこなかった。

「…てめぇ知らねぇのか?アレだよ…破瓜の血…つまり、アレだ、アレ」

さすがの弁天も、ストレートに言うのは気が引けたようだ。が、一息つくと、あたるに告げた。

「女が処女を失った時の…その血だよ…何言わせるんでぇっ!」

ガンッ!とあたるに意味も無く肘鉄を喰らわせる弁天。その衝撃と痛みで床に突っ伏すあたる。

「だから誰彼かまわず…ラムを襲わせた、ってワケか…やっと理由がわかったぜ。でもそれ以外の方法は無いのかよ?」

「…ワカリマセン…タダ、ソレガ一番カクジツナ方法ト、聞キマシタノデ…」

その時おユキが目を覚ました。弁天は慌てて、おユキに絡めた鎖を外してやった。

「あら、私…一体どうしていたのかしら…確かラムちゃんとここに来て、それから…」

「いや〜おユキ…覚えて無いんなら、その方がいいぞ」

「でもおかしいわね。何故弁天の鎖が私の体に?」

「(ギクッ)ま、まぁ、ちょっとした事故だ…気にするな…ははは」

「あら?この黒いもの…」

おユキが床に転がったままの“呪われた王子のなれの果て”を見て、呟いた。

「こんな姿の生き物を、前に見た事、あるわ」

「それを詳しく教えてくれ!おユキさん!」


■破瓜の血■

「私は呪い、というより、古い風習に詳しいだけだけど…地球の童話にも似たような話があったわね」

それは次のような話だった。

どこかの星で王子や王女など、地位のある者が生まれた時、必ずそこには「意地の悪い魔女(或いは呪いのエキスパート)」が現れる。そして彼等が年頃になった時、まともな恋愛が出来ないような呪いをかける。

その呪いを解くには、どんなに醜い姿形、あるいはどのような困難があっても、心からその者を想ってくれる相手による、何らかの愛情表現が必要…という、地球の童話に喩えるならば「カエルの王子」や「いばら姫」的内容だった。

「けれど、破瓜の血を受ければ…というのは、ちょっと違ったかもしれないわね」

「他に方法があるんですねっ?おユキさん!」

「確か前に同じ呪いをかけられて、無事元の姿に戻った人がいたはずだけれど…それには“愛情”が必要だったはず」

「“愛情”で、何をしたらいいんでぇ?」

「どんな方法でもいいはずよ。“愛”さえこもっていれば」

「…何か漠然としてんなぁ。とにかくラムを抱かせるワケにはいかねぇけど、ラムがそいつに“愛情”で何かしてやりゃいいんだろ?つまり」

「でもラムちゃんには、難しいかしらねぇ…旦那様がいる事だし」

ふたりの会話を聞いていたあたる。面白くなさそうにしている。そしてラムは、あたるが上掛けを掛けてやり、まだスヤスヤと眠っていた。

「…ラムがそいつのために何かしてやるワケなんぞあるか…」

「ほほぉ〜やっぱ妬いてんのか。でもこのまま放っておいたら、ラムは誰かに抱かれちまうぜ。抱かせるのがいいか、それ以外がいいか、答えは簡単だろ?」

「それじゃあどうやって?」

「確実なのは…やっぱアノ血なんだろうな。まぁおめぇが“他人の意志”でラムを抱かねぇ事は、さっきわかったし。かといって…」

「ご自分の意志だとしても、人前でおやりになるのは、さすがに旦那様でも、ねぇ」

「それにこいつは何だかんだ言っても、ラムを他の男にどうこうさせたくねぇんだからな。扱いにくいっちゃねぇよなぁ」

確かにその通りなのだが。他にいい案も思い付かないままにこの日はお開きとなり、あたるは寝ぼけ眼のラムに手を貸して、押入れを通り、地球に戻った。


■すれ違い■

(このままだと、ラムが無理矢理…誰かに…だったらオレが…)

しかしこの考えに、あたるは頭を左右に振った。

(そういう事ではないのだ…オレが先に、とか…それではあの変な生き物と変わらんじゃないか)

「ダーリン、どうしたのけ?」

あたるの心配事など知る由も無く、少し元気を取り戻したラム。

先ほどまで、あの生き物に対し、嫌悪感しか抱いてなかったラムだったが、元の姿に戻ってもらわない事には、これから先安心して生活する事もままならない。

そこで、ラムは考えていた。あの変な生き物に“愛情”でしてあげられる事は無いだろうか…と。そうでなければ、先のレイや弁天、おユキの二の舞だ。

けれど、これといって具体的な案は思い浮かばない。何かプレゼントを…といっても、それに愛情がこもってなければ意味が無い。

いつもの電撃の愛情表現…が、効果があるかどうかもわからない。

“王子のなれの果て”は、おユキが厳重に管理しておく、という事になり、今は海王星にいる。が、いつ何時おユキを操って、何か事件を起こすかもしれない…。そう思うとラムもあたるも落ち着いてはいられなかった。

「…どうしよう、ダーリン?」

「ん?…どうって、何が…」

「このままじゃあ、ウチ…心配だっちゃ。何かいい方法があればいいんだけど…」

「愛情示したかったら、勝手にすればいいだろう…」

「…ダーリンのバカ!何でいっつもそんな態度ばかりするっちゃ…ウチ、昨日今日で、もう…何度も…」

思い出すつもりなど無くても、一番嫌な新しい記憶…レイとの出来事が蘇ってきてしまう。

「弁天やおユキちゃんならまだ…でも、でも…」

遂にラムは泣き出した。あの時弁天が来てくれなければ…と考えると、心底恐怖した。涙の理由をはっきり知らないあたるも、さすがにうろたえた。

「どうしたんだよ、ラム…言いたくなきゃいいけど、話した方が気が楽になる事もあるぞ…」

その一言で、ラムの緊張が一気に緩んだ。あたるに抱き着き、泣きじゃくる。レイとの事は何も言わなかったが、その尋常で無い泣き方で、あたるは察した。よほど怖い目に遭ったんだろう…と。

(そんな怖い目に遭ったというのに、こいつはきっとそれを…言わないつもりなんだろう…それなのに、オレは…)

窓から夜空を見やると、満月から少し欠けてきた月が見えた。泣き止んだラムは、あたるに抱き着いたまま、しゃくり上げている。

ラムの頭を抱きかかえ髪を撫でてやる。怪我をしたという所はもう大丈夫なんだろうか…。

「頭の怪我、もういいのか?」  「…うん」

ラムがあたるの顔の真正面に向き合う。涙で濡れた顔のまま、ラムが言った。

「…ダーリン、ウチの事…抱いて欲しいっちゃ…」

それがどういう気持ちで言っているのか、あたるには量り兼ねた。

「ダーリンは…嫌?」

「ん…いや…で、でもなぁ、ラム…」

「今ならいつものダーリンのまま。誰にも操られてない、いつものダーリンだっちゃ」

「でもお前、何でそんなに…急ぐんだ?」

「嫌なの?ダーリン…」

「嫌とか、いいとかじゃなくて…何だかいつもと違うぞ、お前」

ラムは黙って体を硬くした。

「…ウチ、今夜はUFOで寝るっちゃ…おやすみ…」

あたるも黙って、彼女を見送るしかなかった。月の前をラムの小さな影が、通り過ぎて行くのが見えた。


■ラムの告白■

そしてあれから2週間近くが経つ。そろそろ新月の時期だ。その間、ラムとあたるは学校でもそれ以外でも、会話らしい会話を交わす事も無かった。ラムに関わる事件も特に無く、平凡でつまらない毎日を送っていた。

UFOで、ラムはおユキと交信していた。あの“呪われた王子”がどうなったのか聞くためだった。

「その後どうだっちゃ?おユキちゃん、大丈夫?」

「ええ、特に変わりは無いわ。そちらはどう?」

「どうって…別に…何も変わり無いっちゃ」

「それは良かったわ…ところで、ラム。あの“呪われた王子”の事なんだけど」

「何かわかったのけ?元通りにする方法とか?」

「そうじゃないんだけど。今夜、新月になるわね。そして次の満月まで2週間…」

「新月や満月がどうかしたのけ?」

「あの“王子”が少しずつ大きくなってきているのよ」

「…どういうこと?」

「次の満月までに元に戻らないと、元の姿に戻れなくなるそうよ」

「それで…どうなるっちゃ?」

「私、調べてみたんだけれど、元に戻れなくなった者は、どんどん大きく成長していって…最後には本当の怪物になってしまうらしいのよ…」

「怪物に!?…で、そうなったやつは本当にいるのけ?」

「もうかなり昔の文献にしか残っていないから、今はいないはずよ。ただ、とても厄介な事に、呪いを解く方法だけは憶えているそうなのよ」

「ってことは…もしかして…」

「そう…ラムの事を忘れない、という事になるかしらね…それとも他の鬼族の女性が…という事も有り得るわね…」

「そんな…」

ラムの背筋に悪寒が走った。アレが大きくなって、もし自分の事を忘れていなかったら、一体どうなるのか…当然の事ながら、ラムはそんな事は考えたくも無かった。

「次の満月までに元に戻ってもらわないと…ありがと、おユキちゃん」

そしてラムは、最近ずっと気持ちがすれ違ったままで気が進まなかったが、取り敢えずあたるの元へと向かった。

あたるに、おユキから聞いた話を全て伝えるラム。

「ね?だから、ダーリン」

「…で、オレにどうしろと?」

「あと2週間で元に戻ってもらわないと、大変な事になるかもしれないっちゃ!」

「愛情を示してやればいいんだろう?オレが何かする理由は無いぞ…」

「でもウチには無理だっちゃ!どうしていいか見当もつかないっちゃ!だからダーリン!お願いだから…」

「…何でオレが、お前にお願いされてまで…そういうモンじゃないだろ…?」

「でも、他に…方法思い付かないし…元に戻れなくなった怪物がもしウチの事忘れてなかったら…」

そうなったらそうなったでひどく厄介な事だとあたるにもわかっていた。しかし…。

「どうしてウチの事…やっぱり嫌いなの?嫌なの?…ウチ…おユキちゃんの所へ行った、あの日…ウチ…UFOで…」

気持ちのやり所が無くなったラム。あたるの袖を掴んで、うつむいてしまった。“呪われた王子”の事はともかく、あの日のレイの事だけでも、忘れたかった。その一心だった。

「UFOで…何かあったのか?」  「……」

「黙ってちゃ、わからんだろうが。オレにわかるように、ちゃんと説明しろよ」

「…ウチ…レイに…」

搾り出すようにそこまで言うと、それ以上は言葉にならず、ラムは一気に泣き崩れてしまった。

あたるの足元で、狂ったように泣き叫ぶラム。そんな彼女を見ていて、気持ちが痛まないはずは無かった。

「どうしてもっと早くそれを…」

「だって…だって…!!」

海王星から戻った後の、ラムのいつもと違う様子。そして今日の告白。あたるは愕然とし、また合点した。だが、おユキの所での話では、まだラムは処女だと言っていた。ということは、まだ…。とは言え、ラムは畳の上に突っ伏して泣き続けるばかりだった。

やがて少し落ち着いてきたのか、ラムは身を起こした。泣き疲れた顔をしている。あたるを見る事が出来ず、うつむいたまま、しばらくぼーっとするラム。そして、気持ちの内をポツリポツリと話し始めた。

「…ウチが、UFOにいたら…急にレイが来て…それで…ウチを…でも…途中で弁天が…助けてくれたけど…でも…」

あたるは黙ったままだ。どんな態度をすればいいのか、正直わからなかった。ただ、黙ってラムの告白を聞いているしか出来なかった。

「それで…ウチはただ…ダーリンにも…してもらって無いことを…他の男に…されて…だから…」

「…気に、するなよ…ラム…」 あたるにはそれが精一杯だった。

「でも…でも!…いくら操られてたからって…いくらレイの意志じゃなかった、から…って…でも、やっぱり、ウチは、もう…」

「気にするなよ…な、ラム…お前のせいじゃ…無いんだから」

「でも、ウチ、もう…ダーリンに…抱いて、なんて…言えないっちゃ…」

「そんな事、ないぞ…オレは…」

「ダーリン…?」

「オレは…オレの意志で…」

あたるは、うつむいたラムの顎に手をかけ、顔をこちらに向けさせた。泣き疲れてうつろな瞳のラム。

(そもそもオレがラムを…もっと早くに抱いてやってさえいれば、こいつがこんな思いをする事も…)

あたるは“自分の意志”で、ラムにキスをした。今夜は新月で空も暗い。闇の中で、あたるはラムのカラダを余す所無く、愛撫した。


■新月の夜の出来事■

「ラムッ…ラム…」

暗闇の中、生まれたままの姿になり、ラムを抱くあたる。彼の手がラムの髪を撫で、頬をさする。柔らかいカラダに顔をうずめ、ラムの匂いを吸い込み、薄い肌にむしゃぶりつく。

「ダーリン…ダーリン…」

ラムのカラダは本当に柔らかく細く、少しでも乱暴に力を入れれば、脆く折れてしまいそうに思えた。そんな彼女のカラダを、今、抱いている。

「ダーリン…ああっ…もっと…」

あたるは女体のあらゆる部分に触れてみた。ラムのデルタゾーンをまさぐる。ふたつに割れた柔らかで厚みのある部分…少しごわごわした陰毛が、指に絡みつく。その奥の溝に指を挿し入れ添わせると、ラムのその部分があたるの指をねぶるように挟み込む。

「ああっ!ダーリンッ!!…ウチの…気持ちいいとこ…」

ぬるりとしたラヴ・ローションであたるの指が濡れる。愛する者によって愛撫される快感が、ラムの心もカラダも悦ばせた。

「ウチの気持ちいい所…もっと…ああっ!ああっ、そこっ…ダーリンッ、ダーリンッ!…いいっちゃ…あんんっ!」

ラムの太股を持ち上げ、暗がりの中で、クンニするあたる。上下の唇でヒダを咥えたり、舌先で肉珠をチロチロと舐める。その途端にラムのカラダと声が弾けた。

「あああっっ!!あんっ、ああんっ!!いいっちゃっ、そこがいいっちゃっ…ダーリンッ!!」

セックスで激しく乱れるラム。今まで見たことの無い、ラムの破廉恥な姿。しかしそれがまた、男としてのあたるを更に興奮させた。

いよいよ…ふたりが繋がる瞬間が。あたるの先走り汁とラムの愛液で、接触させただけでニュルニュルと滑る。思わず先端が、ラムの肉珠を弾く。

「うっ…」  「あっ…」

ぐぬぐぬぐぬ…と、固く閉じらていた膣口は、準備万端、あたるのイチモツを、頭から呑み込み出した。

その時、ラムが小さくうめいた。

「…ああっ…痛い…っちゃ…」

ずぬずぬずぬ…あたるが入っていく。全身密着させて、初めて繋がったふたり。

「…ダーリンッ…ああっ、ウチッ…!ああっ、あっ、あっ、ああっ!」

「ラムッ…ハァッ、ハァッ、ハァッ…」

あたるもラムも互いに気持ち良くなろうと、必死だった。必死過ぎて周りの様子に気付かずにいた。

…すると、押入れの隙間から、冷風が…

“カラリ”とふすまが開かれると、大量の雪が、あたるとラムの上に落ちてきた。

「何だっ!?」  「ちゃっ!?」

まだ下半身が繋がったまま、ふたりは仰天して押入れ側を見た。そこには“王子”を抱えたおユキが立っているではないか。

「ごめんなさいね、ふたりとも。モニターで見ていて、ちょうどいいところだと思ったものだから」

「なっ!?」  「おユキちゃん…見てたのけ?」

「さ、“王子”」

おユキが“王子”をそっと畳に下ろすと、それはスタタタ…と小走りにあたるとラムの方へと駆けてきた。何のためらいも無く、布団の中に潜り込む“王子”。しばらく中でもぞもぞ動き、その度にあたるとラムが

「うわっ!」  「ちゃっ!」

と、嬌声をあげて飛び上がった。

やがて、掛け布団が持ち上がり…そこには金髪に美しい顔立ちをした、青年が立っていた。

「や、これはまた、お取り込み中、大変失礼致しました。おかげで私も、元の姿に戻る事が叶いました」

「どうでもいいが…さっさとどかんかいっ!」

「だっちゃ…」

いくら暗がりとはいえ、街灯の明かりで若干のシルエットは見える。全裸で密着したあたるとラムは、“王子”が飛ばした掛け布団を慌てて掴み取ると、それですっぽりカラダを覆った。

「この度はラム殿には、多大なる迷惑をおかけし、また貴女によって呪いが解けた事、心より深く、お詫びとお礼を申し上げたい。よって、我が妃に迎え入れたいのですが」

「じょっ、冗談じゃないっちゃっ!…今いいとこなのに、部外者はとっとと帰るっちゃ!!」

「そうじゃっ!貴様の言う事なんぞ、即却下じゃ、却下!!」

「もちろん冗談ですよ。おふたりのその姿を見ていれば…ただ、お礼だけは後日改めて、という事で」

「それじゃあ、ラムちゃん、旦那様…ごゆっくりね」

そして金髪の王子と、おユキは、押入れの向こうへと帰って行った。

「ダーリン…まだ、ナカに…あるんだけど…どうするっちゃ?…」

「しかし、何だったんだ、一体…」

結局、無事ラムは処女をあたるに捧げ、ふたりは繋がる事が出来るには出来たのだが…とんだ邪魔が入り、その晩は頂点に達する事も無く…終わってしまった。


■月の輝く晩に■

“呪われた王子”は本当にある惑星の王子であった。呪いの正体は、“どんなに醜い姿でも愛してくれる者がいれば元の姿に戻れる”というような内容のものだった。

が、今回呪いを解いたのは、皮肉にも他人が愛し合っている場面であった。それが王子には、少し残念でならなかった。本当は、誰の体を借りても良かったのだ。ラムと一度でいいから交わりたい…と思っていたのも彼の本心だったのだから。

だが諸星あたるだけは、操る事が出来なかった。彼は彼自身の意志で、ラムとの交わりを望んだのだ。それはそれで、王子にとっては羨ましくもあった。

後ほどお礼を、と言っていた王子だったが、ひとつだけ特別なそれは、ラムにだけ送られてきた。中身は…ラムだけが知っている、内緒の品物だ。

そして今回関わったレイ、弁天、おユキ、あたるにも、それぞれお礼が送られてきたが、送り主を間違えたのか?と思うほど、見当違いの品ばかりであった。

その後のラムは、すこぶる元気だった。あの憂鬱な面持ちがウソのように晴れ晴れとして、あたるの浮気にヤキモキし電撃を喰らわせつつ、普段と変わらない毎日を送っていた。

そして次の満月の夜。

「ダーリン、今夜…どうだっちゃ?」

ラムが、あたるの耳元で囁く。

「あ、ああ…そうだな…」

「ちゃっ♪嬉しいっ。それじゃあいいもの、あげるっちゃ。はい、あーん、して」

「なんじゃ、それは?」

「…すっごく…気持ち良くなれるっちゃ…」

お互いにビンに入ったカプセルを1錠ずつ飲んだ。

その晩は、途中で終わってしまった前とは比べ物にならないほど、ふたりはエクスタシーに幾度も達した。汗だくで体力も限界かと思われたのに、何度でも交わりたくなる。通常の感覚が増幅されて、ほんのちょっと肌をかすっただけでも、全身が痺れるほどビンビンに感じ合った。それが、王子のラムへの贈り物の正体だった。

ところが…この薬は、地球人に副作用があった。

満月の晩にこの薬を服用してしまうと…翌朝から丸一日、“狼男”になってしまうのだった。

それが王子なりの、ラムへの詫びと礼であり、あたるへの嫉妬心の表れ、だったのかもしれない。


(月の輝く晩に・完)

あとがき


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