理由


本当はいいたい事がある
でもいえない
泣きたいくらいに胸を突き刺す
いいたい事は全部
気づいておくれ
この顔にかいてあるから

(「バカだから」by「ウルフルズ」)


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オレは時々おかしな夢を見る。

上下左右もわからない暗闇の中、ある一点だけがぼんやり光っている。
ゆっくり近付いてみると、そこにはオレ自身がいるのだ。しかしある一定の距離まで近付くとそれ以上は進めない。見えない何かが足止めをする。
だが、確かに自分だとわかる。そのオレの隣にいるのは…ラムだ。オレに抱きついたり電撃を浴びせたりしながら、やたらと同じ台詞を繰り返している。

「ダーリン、ウチの事、好き?」

それに対してはオレは一切の答えを拒否している。そしてラムから逃げ回っている。
一瞬、目の前の自分とラムが闇に飲まれて、再びぼんやりとした光りの中に現れると…ここにいるオレじゃないオレが、ラムを抱いているのだ。
そして…ラムはまた、同じ言葉を繰り返す。

「ウチの事、好き?」

「ああ、好…」

“やめんかーーー!言うなーーーっ!!”

傍観しているオレが、オレに向かって叫ぶ。ラムを抱くオレの台詞がオレの怒声にかき消される。
だが、ラムにはしっかり、目の前のオレが言った言葉が聞こえたようだ。

「嬉しいっちゃ…やっぱりダーリン、ウチの事…」

ラムが求めていた台詞を言った後のオレは、まるで狂ったように、ラムを…。

違う、それは…オレじゃないんだ、ラム。

「ちゃあぁぁぁーーーっ!!」

オレはその場に固まったまま、身動きひとつ取れずにいた。そしてオレじゃないオレと、まるで…されているようなラムから目を逸らす事が出来なかった。

“やめんかーーっ!それ以上ラムに何もするなーーっ!!くそーーーっっ!!”


「ったく…何ちゅー寝覚めの悪い夢じゃ…くそっ」

こんな後味の悪い夢を見るようになったのは、最近になってからだ。それも1回だけじゃない。
そして同じ場面、同じ出来事が、ビデオでも再生するかのように毎回、繰り返されるのだ。
もちろん、そんな朝は気分が悪い。

しかし…あの夢の中の“ラム”という美少女について、今のオレは何も心当たりが無かった。それなのに、よく知っている気がする。むしろ、長年連れ添ってきたパートナーのような感じすらするのだ。そして、彼女が問いかけてくる質問の答えも、どういうわけか、既に用意されていた。

「あの子の事を、何も知らないのに、か?しかし…」

知らないはずなのに、彼女の事を全て知っている。そして、夢の中で彼女を抱いていたオレも、確かにオレ自身なのだ。
こんな妙な夢見の日は、とにかく気が重い。そんな嫌な気分を引きずったまま、オレは一介の高校生としての1日を、今日も始めるだけだ。


「あんたなんか大嫌い!!」

四ツ橋の上で、オレはしのぶの平手を食らった。ちょっと他の女を見ただけじゃないか。

そして今朝も同じ夢を見たが、夢は夢だ。そんな事をイチイチ気にしていたら身が持たん。が、その日がまさか、オレの人生にとっての一大転換期になろうとは…。

チェリーに初めて会ったのも、この日だった。不吉な人相だの、物の怪に取り付かれているだのと、勝手な事をぬかしていたが、ただのナマグサ坊主でもなかったらしい。
家に帰って“彼女”に会うまで、オレは夢の事などすっかり忘れていた。

「ウチ、ラムだっちゃ!!」

そして“地球の運命を賭けた10日間の鬼ごっこ”の結果、オレはガチャガチャと騒々しく落ち着かない、非凡な日々を送るハメになった。
ラムと同居するようになってから、あの夢は一切見なくなった。なので、オレは夢の内容も、その時に思っていた事も、いつの間にか忘れていた。

ラムと同じ屋根の下に暮らすようになってしばらくすると、ラムがいることがオレにとっての“当たり前”になっていた。
初めて夜を共にしたのはいつだったか、よくは憶えていないが、面堂が転入してきて、しばらく経った頃だったかもしれない。


初めての夜、オレは押入れで眠っているラムの寝顔をながめていた。
最初に出会った頃からだったが、こいつの“匂い”が鼻の奥をくすぐる度に、何とも言えない妙な気分になったもんだ。

そして静かに寝息をたてるラムの髪を撫で、その匂いを嗅いでみた。

「ラム…」

途端に、ぞくぞくと背筋に軽く電気が走ったような感覚に襲われて、頭が痺れ、心臓がバクバクとなった。カラダが熱くなってきて、居ても立ってもいられなくなったのだ。

「ラム…おい、ラムったら…」

寝ていたところを起こされて、寝ぼけ眼のラム、目を擦りつつオレを見て言った。

「…どうしたっちゃ?ダーリン…」

「あのな…ラム…」

そこまで言って、後は成り行き任せだった。ラムの肩を掴んでオレから…キスをした。
何度か軽いキスをした事はあったが、それより深いのをしたのは、その晩が初めてだった。

オレに抱き着いたまま押し入れから浮かんで出てきたラム。そしてオレの布団の上にふたりしてゆっくり倒れ込んだ。
最初ラムは何も言わずに、リズミカルな吐息と、時々漏らすか細い声で、オレの行為に応えていた。

虎縞の衣装を身に着けている部分に触れるのも、もちろん初めてだった。
ラムの頬や首筋が薄っすら汗ばんで、それらの匂い全てがオレの全身を痺れさせた。
そしてオレは本能の赴くままに、ラムを抱いた。

「ダーリンの匂いで…ウチ、融けそうだっちゃ…ああ…」

その夜は外からの薄明かりで、ラムのシルエットと、わずかに表情が見える程度だったが、ラムの熱い息遣いにオレの昂ぶりは増した。

「んっ…あんっ…ダーリン…」

初めて味わったラムの、女の部分の味。とにかくオレは夢中でラムの全てに触れた。

「ああっ!ダーリンッ!…そこはっ…!」

いわゆるクンニで、オレはラムの柔らかい部分をネコのように愛撫した。ラムの幾重にも重なった女の部分からにじみ出す体液が、オレを誘う。

やがてオレは、オレのモノをラムの谷間にあてがった。濡れてふやけたヒダが、ぴとっ、と密着する。するとラムが。

「ウチ、初めてだから…」

だがオレは、ラムと繋がりたいだけの一心で、オレを受け入れてくれるだろうはずの、ラムのぬめった女の部分に、男としてのオレを押し込んだ。
ラムのつぼんだ部分がゆっくりとオレを飲み込んでいく。すると。

「いっ、痛いっちゃ…ダーリン…ああっ…」

ラムが喪失の痛みで顔を歪めた。その気を逸らそうと、オレはラムの耳を噛んだり首筋に軽く歯を立てたりした。ラムはラムで、そんな最中、オレにしっかりと抱き着き、わずかに涙を零した。

温かなラムのナカをゆっくり突き進むと、それだけでオレはイキそうになる。

はぁはぁ…と吐き出される互いの息が、互いの肌をかすめる。吐息の匂いを感じながらラムの奥まで行き着くと、オレはゆっくり逆方向へと腰を引く。

「ダーリンので…ウチのナカが一杯だっちゃ…」

ラムの囁きが聴覚をも刺激する。そう、ラムと繋がっている部分から伝わる快楽だけじゃない…ラムの全てが、心地良いのだ。

オレの送り込みに、途切れる事なく熱い吐息をつくラム。ラムの胸先から、甘いような匂いが発散されて、オレはそこに鼻先を押し付けた。

後で思い出すと、初めてのラムに、オレはいくらか乱暴に送り込んだかもしれない。頭が痺れて、その最中はそんな事を考えている余裕など無かったのだから。
そして、オレとラムがイッたのは、ほぼ同時だったと思う。

終わってからも、オレとラムはお互いの匂いを吸い込み、半分酔ったようになっていた。媚薬…とでも言うんだろうか。ラムの汗や唾液といった全ての体液と、匂いが、オレを酔わせた。
ラムもひっきりなしに、オレの体液や匂いを求めて、あちこちを舐め回していた。そんな時のアイツの顔も、確かに酔っているようだった。梅干で酔ったのとは違い、とろけそうな、うっとりした顔付きになるのだ。

それは今でも、変わっていない。

それから幾度かの夜を過ごしたが、肌を合わせれば合わせるほど、もっともっとラムを求めたくなるオレがいた。
日中は今まで通りのふたりなのだが、夜になると、ラムの全て…オレが知らないラムを知りたい衝動に駆られて仕方なくなるのだ。

そして、オレはすっかり、あの嫌な夢も、ラムの決まりきった質問の事も、頭のどこかに埋もれさせていた…。


その夜も、オレはラムを抱いていた。

「ダーリン、ダーリン…」

薄暗がりの中、オレの下で、汗ばみながらカラダをくねらせるラムがいた。
肩口に吸い付くと、ラムの匂いがオレの鼻腔を通って全身に回り、脳天が軽く痺れた。クスリで軽く飛ぶ感覚ってのは…もしかしてこんな感じに似ているのかもしれない。

すると、ラムがオレの頭を抱いて、耳元に小さく囁いてきた。

「ダーリン…ウチの事、好き?…」

その言葉で…頭の内側を殴られたような感覚に襲われ、オレの頭の心地良い痺れは一瞬で吹っ飛んだ。

「どうしたっちゃ?ダーリン?」

「いや…何でも…」

もう、答えは既に用意されていた事を思い出してしまった。いや、しかし…。

その晩はいつものようにラムと共に果てて、眠りに就いた。そしてまた…あの夢を見たのだ。すっかり忘れていたはずの夢を。


「ダーリン、ウチの事、好き?」

それに対してオレは、もうずっと前から決まっていた答えを言った。

「ウチ、嬉しいっちゃ…もっと言って、ダーリンから、ウチに…」

「ああ、何度でも…ラム」

そうしてオレは、夢の中で、何度も何度も言った。現実の中では一度も言った事の無い言葉を、言い続けていた。
そんなオレとラムの姿を、オレはまた、少し離れた場所から傍観していた。

ラムの問いかけに素直に答えたオレだったが…ちょっと待て…何か、違うのだ。
オレは途端に胸苦しくなった。同時にラムを抱くオレも、胸を押さえてラムの上に倒れ込んだ。そのオレを、優しい笑みを浮かべたラムが抱き締める。

「大丈夫だっちゃ…ウチの事好きって言ってくれたから、ダーリンはもうずーっと、ウチだけのダーリンだっちゃ…」

ラムの上に倒れ込んでいたオレがむっくり起き上がった。その顔付きは…オレ自身が知ってるオレじゃない。どういう事だ?
そのオレは、オレじゃ無くなっていた。まるで狂ったように、ラムを…しているのだ。
だが、そのオレは…自暴自棄に振舞っているようにも、見えた。

そしてラムは。ラムを抱いていたオレが言った言葉ですっかり満足したのか、それきりオレのするがままに身を任せていた。
オレにはアイツの胸の内が、よくわからなくなった。あれほどしつこく質問責めを繰り返していたというのに“言葉の一線”を越えた途端、ラムの何かが変わってしまったようなのだ。

場面が暗転すると、普段の姿のオレとラムが現れたが、どう言い表せばいいだろう、とにかく、今までのオレ達の“空気”とは、明らかに違っていた。
やがてオレとラムは…素っ気無い態度で別れを告げて、別々の方向へと去って行った。

オレは、今にも潰れてしまいそうに苦しい胸に、手を当てて、思った。
あれはオレだったが、オレじゃ無くなった…ラムも、オレの言葉で、今までのラムじゃ無くなった…と。

そうなのだ…何故オレが、ラムにあの言葉を言わないのか、言えないのかが、何と無くだが、わかった気がした。


そして再び、好きだの嫌いだのを巡っての、10日間の鬼ごっこの末、オレはラムをしっかりと抱き締めた。
結局、好きだとは言わずじまいだったが、これで良かったのだ。

「一生かけて言わせてみせるっちゃ」

「いまわの際に言ってやる」

多分、オレが言うのは「いまわの際」なんだろうなぁ。しかしラムが、いつ何時どんな方法で「好きだ」と言わせようと仕かけてくるかが問題だ。
あっちの方のラムのやり口も巧妙になってきたし、うっかりしたら、アイツのペースに乗せられて、つい口を滑らせてしまいそうだ…。

--- E N D ---

あとがき


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