かわいいひと (例えばこんな日々・実家編その1)


成人してからしばらくすると、ラムはイメチェンだとか言って、数年来の定番衣装だった虎縞ビキニにブーツから、ノースリーブのタイトなチャイナ風ドレス姿になった。
膝が隠れる丈に、長めのスリットが入っている。そして髪型も、ひとまとめにして後ろでゆったり編んだスタイルになった。

「どうだっちゃ、ダーリン。似合う?」

あたるの前で、クルリとターンをして新しい衣装をお披露目するラム。編んだ髪が回転に引っ張られて大きくスイング。一回転ターンを止めると、フワリと浮いて一旦肩に乗っかり、その滑らかさで再び背後にスルリと落ちた。

「ん、まぁ…いいんじゃないか?」

高校生の頃より更に背丈が伸びたあたる。躯体も大人びて、肩幅が広くなり、十代終わりの頃までに残っていた若干の幼さも無くなった。
ラムもいくらか背が伸びたが、特筆すべきは女性特有の丸みを帯びた体つきに磨きがかかった、という事だろうか。もちろん顔付きも、愛らしさを残しつつ、大人の美貌も兼ね備えた、申し分の無い「大人の女」に成長していた。

並んで立つと、頭ひとつ分は身長差が出来たふたり。そんな外見的な変化があっても、ふたりの関係は相も変わらず、だった。


桜の季節。お花見ついでにどこかで一泊でもしようか、という話になって、ふたりは宿をとった。
片田舎のさびれた旅館だが、露天風呂もあり、近くに桜並木もありで、なかなかに風情のある場所だった。

浴衣に着替えて半纏を羽織ると、早速露天風呂へ行ったあたる。ラムは荷物の整理があるから後で行く、と言って部屋に残った。

薄闇の中、月明かりだけがほんのり光りを放っている。その中を桜の花びらがはらはらとこぼれている。
いい雰囲気の中、いつラムが来るだろうかと思っていたあたる。すると、にわかに宿が騒がしくなった。
何事かと思い辺りを見回していたあたるが、脱衣所から出て来た人物を見ると。何とそれは面堂だった。周囲を黒メガネ数人がガードしている。

「面堂…お前、何でこんな所に!?」

「何…たまには庶民的春の風情を味わってみるのも良かろう、と思ってな…」

「なーにを言っとるんじゃ。お前が言うといかにもウソ臭く聞こえるぞ。さては…」

「まぁここで貴様と会ったのも何かの縁だ。一献酌み交わさんか、もう未成年では無いのだしな」

「お前、何を企んどるんだ?」

ゆっくり湯に入った面堂、黒メガネに盆に乗せた日本酒を用意させて、あたるに勧めた。

「まさか変なもんが入っとるんじゃなかろーな。それにお前が何も知らずに、ここに来るとは考えられん」

あたるは面堂が勧める酒を受け取るのを渋っていた。その時脱衣所の方から、ラムの声が。

「ダーリン、まだ入ってるっちゃ〜?ウチも今行くから〜」

「ちょっ!ラムッ、待てっ!」

あたるは慌てて湯から飛び出すと、ラムの声がした方へと走って行った。

「ダーリン、どうしたっちゃ?」

「今面堂が風呂に…ラム、何か変わった事は無かったか?」

「ううん?別に何も無いっちゃよ。でも何で終太郎が?」

「そんな事オレが知るかっ。とにかくお前は部屋に戻ってろ、オレもすぐ戻るから」

ところが、だ。あたるが部屋に戻ってみると、いつ先回りしたのやら、面堂がちゃっかり居座っていた。

「ダーリンが戻ってくるちょっと前に、急に終太郎が訪ねて来たっちゃ。どういう事?」

「それはオレの方が聞きたいわっ」

そしてつかつかと面堂の側に来ると、どっかりあぐらをかいて、彼に対峙した。そしてラムは風呂に行って来る、と言って部屋を出て行った。

先に口を開いたのはあたるだった。

「お前が何で、ここにいるんだ?」

「貴様とラムさんを…ふたりきりにするわけにはいかんと思ってな。ふたりの間に既に何かがあったとしても、だ」

「つまり、まだ諦めきれん、というわけか?」

「貴様と一緒にいて、ラムさんが幸せになれるとは到底思えんしな」

「何を勝手な事を…一体何年、オレとラムが一緒にいると思ってるんだ?え?」

「一緒に過ごした年月の長さなど関係無い。肝心なのは彼女が幸せになれるかどうかだ」

「ったく、チミもしつこいねぇ…で、今夜はずーっと寝ずの番でもするつもりか?」

「とにかく諸星、ラムさんの幸せを考えるなら…」

面堂がそこまで言ったところで、突然、宿が揺れ出した。かなり大きな揺れに動揺するあたると面堂。部屋が1階だったので、ふたりは窓から外へ飛び出した。
外に出ると揺れを感じなくなったが、突然面堂に向けて閃光が照射された。そのまま宙に浮き上空に吸い込まれていく面堂。そしてあちこちから黒メガネ達も現れては暗い空に吸い込まれていった。

「な、何だったんだ?一体…」

呆気にとられるあたる。その背後から声がかかった。

「大丈夫だったっちゃ?ダーリン」

浴衣に半纏、湯上りでほんのり上気し、タオルで髪をまとめたラムが窓際に立っていた。

「ラム、一体どうなっとるんだ?」

「星間タクシーに連絡して、終太郎達を連れて帰ってもらったっちゃ」

「そうだったのか。しかしあのタクシー料金、半端じゃないからなぁ…」

「ウチが後で清算しておくから大丈夫」

「何もお前が払わんでも…いや、面堂に貸しが出来るからちょうどいいか。それにこれで…」

「邪魔者はいなくなったっちゃね。ね、ダーリン、もう一回お風呂行こ♪」

「でも他に客がいたら…」

「大丈夫♪星間タクシーで旅館のお客、みーんな連れてってもらったっちゃ♪」

「何もそこまでせんでも…まぁ、いいか」


「お湯は電気伝導体だから、一緒に入るのはホントはマズイのだが…」

「一緒に入るだけだっちゃ♪その方がダーリンも…」

「後の楽しみが、増える…ってか?」

「だっちゃ♪」

長い髪をタオルでまとめ上げたラムのうなじが、湯気の中で余計に色っぽく見える。

「しかしこれでは、蛇の生殺し状態ではないか…」

湯につかりながら、あたるがぼそっと言った。同じく湯に入っているラムの白い肌が、ほんのり桜色に染まる。夜空には薄雲が流れ、月明かりがそれを照らしている。時々微風にあおられた桜の花びらが、湯の表面にはらりと落ちた。

「ウチ、先に部屋に戻ってるっちゃ」

あたるが部屋に戻ると、布団の上で浴衣姿のラムが待っていた。両足を崩した横座りで、浴衣の前身頃が少し乱れている。乾かした洗い髪は解いたままで、薄布の浴衣の襟足は少し広く開いていた。
湯上りで汗ばんだ肌にぴったりくっついた布地は、胸にも貼り付いて、ラムのニップルの形までもが浮き出ていた。

あたるはラムの正面に腰を下ろしてあぐらをかいた。場所も雰囲気も変わっていつもと勝手が違うので、何と無く落ち着かない。そして面堂の野暮やら、いらぬ心配に、いい加減うんざり気味でもあった。面堂はやたらと“貴様にラムさんを幸せにする事が出来るとは思えん”と言ってばかりだ。が、それこそ“余計なお世話”というものだ。

「どうしたっちゃ?ダーリン。黙ったまんまで」

「ん?いや…面堂が邪魔しに来おったから調子が狂ったというか…」

「でもウチが追っ払ったんだから、静かになったでしょ?ダーリン」

「ああ、そうだな…なぁ、ラム」

「何だっちゃ?」

ラムが布団に手を着いて身を乗り出してきた。浴衣の襟足から胸の谷間があたるの目に入った。

「ふふっ、ダーリン♪」

ニコニコと満面の笑みで顔を寄せてくるラムの頭に、あたるは右手のひらを、ぽんっ、と乗せた。髪を軽く乱すように、彼女の頭を撫でてやる。

「どうしたっちゃ?急に頭撫でだして。おかしなダーリン」

「いやその…どうだ?たまには頭撫でられるのもいいもんだろ?」

「終太郎を追い出したご褒美け?それとも違う理由?」

改めて見てみると、少し大人びたとはいえ、ラムはラムだ。昔と少しも変わっていない。照れも無く積極的に迫ってくる態度やら、あたるが側にいるだけでニコニコと満足そうに微笑む様など、本当に昔のままだ。

誰もが必ず一度は、次のような事を言う。“何でラムがあたるにぞっこんなのかがわからない”と。しかしあたる自身もその理由を深く考えた事など無かったし、根拠の無い自信のようなものも一向に揺るがなかった。
そして声をかけた女の子は数多いたが、どういうわけか本気になった事も無かったし(しかしある意味、常に本気ではあったのだろうが)、ラムと同居していたとはいえ、しのぶと続けようと思えばどうにか続いていたかもしれない。

しかし最終的に選んだのは、他の誰でもないラムだ。“こいつを絶対幸せにしてみせる”だの“関係を結んだから責任を取る”だの、そんな事は一切思った事も無いのだが。選んだ理由に、打算も義務も一切関わっていない。むしろ自由だ。

ラムにも、自分のどこが好きなのか聞いた事は無い。

(そう言えばそうだったな…) ラムの頭を撫でながら、とりとめもなくぼんやりそんな事を、あたるは思っていた。やがて、撫でていた手をラムの後頭部に回す。そのまま肩を抱いて、自分に引き寄せた。

「今夜のダーリン、何か変だっちゃ。でもたまには、こういうのもいいかも…ふふっ♪」

抱擁したり、ちょっとしたスキンシップやキスの時、そして営みが終わった後のラムは、本当に幸せそうに微笑む。

「もう頭撫でるのはおしまいけ?ダーリン♪」

大きく目を開いて、甘えた声で可愛らしく問いかけるラム。

(これを見たら、誰でも可愛いと思うんだろうなぁ…)

「いつまで黙ってるっちゃ?ね、もうそろそろ…」

「ん、ああ…そうだな…」

部屋の明かりを消すと、僅かな月明かりに照らされて、ラムのシルエットが薄闇に浮かぶ。そしてあたるはラムの浴衣をそっと脱がした。


やがて目が慣れてくると、ラムの表情も見えてきた。なだらかな曲線を描くボディ、滑らかでしっとりとした肌、弾力と張りを保ち大きく揺れるふたつの膨らみ。あたるのがっしりとした躯体に、ラムの柔らかなカラダが絡みつく。

そんな時のラムは“大人の女”になっている。十代終わりの頃からそうだったが、カラダを合わせる時は確かに“大人の女”になっていた。普段見せる“可愛らしさ”と、行為の最中の艶かしい姿や声とのギャップが、あたるをそそる。

「はぁ、はぁ、はぁ…あは…んっ」

時々1オクターブ、2オクターブもトーンが上がるラムの喘ぎ声。感じる部分を愛撫してやると、吐息交じりの甘い声が突如ひっくり返る。
あたるは本能のままに、ラムを感じさせ、淫らなポーズをとらせ、己の屹立を、彼女と繋がる事の出来る部位にインサートする。ラムの内部は、幾度インサートしても、気が遠くなりかけるほど気持ちがいい。

「ちゃっ…あはぁっ!あっあっ、あんっ…!ダ、ダーリンッ!」

ラムの内部で往復を続けるあたる。ラムの愛液が潤滑油となって、あたるの往復を手伝っている。ラムはあたるにしがみ付き、両足を折り曲げて持ち上げ、つま先まで力ませる。あたるの腰の動きが早まると、ラムも力む。

「ダ、ダーリンッ!!ああっ!もっと…もっと突いてぇっ!!」

“ぐっちゅぐっちゅぐっちゅぐっちゅ…”

粘り気のある接合音がふたりを繋いでいる。やがてあたるが小さくうめき、ラムが全身を仰け反らせ白いのど元をさらした。
ぶるぶるぶるっ…ラムが快楽の極みに達し、全身をわななかせた。
だが、夜は長い。ふたりは熱を帯びたカラダが冷める間も無く、汗を飛ばし、性交の体液を零し、あらゆる体位で幾度も交わり続けた。ラムの声があたるを呼ぶ。幾度も彼の名を呼ぶ。淫らな言葉の合間合間にあたるを呼んで、そして果てるのだ。

「ダーリンッ!ダーリーンッッ!!ウチッ…イ、イッちゃう…ちゃあぁっ!!」

“大人の女”になっている間、ラムはあたるの行為に応え続けた。時たま乱暴になるあたるの行為ですら、ラムは悦んで受け入れた。そして長丁場になればなるほど、ふたりの激しさは増す一方だった。

「ラム…ラムッ…!」

「ダーリンッ…ダーリンッ!もっと…!!」


一旦眠りに入ったふたりが目覚めると、障子越しに入ってくる陽光で部屋中が明るくなっていた。チェックアウトまでまだ時間があるので、再び風呂へ。

「ちょっと夕べのは、ウチ、疲れたっちゃ…でも」

と言って、にっこり笑うラム。

「場所が変わったから?ダーリンすご〜く、エッチだったっちゃ♪」

「お前だって結構…アホッ、朝から何を言わせるんじゃっ」

「ほらダーリン、桜の花びらが…」

そして旅館を出ると、近くの桜並木を通って帰路へ。ちょうど満開の桜は、少し風が吹いただけでも、雪のようにはらはらと花びらを降らせた。
こぼれ落ちる花びらの中を歩くラムを見て、あたるは何か思い出したように、こう言った。

「ラム、ちょっと髪、解いてみろよ」

一瞬、何で?というような顔をしたラムだったが、後ろで編んだ髪を解いてみせた。降りしきる花びらの中、風に髪をなびかせながら、クルリとその場で一回転して見せた。

「服は違うけど、どうだっちゃ?ダーリン。やっぱりこっちの髪型が好き?」

にっこり笑って、あたるに聞いてみる。

「いや、まぁ、どっちも…いいんじゃないか?」(大人の色気が加わったとはいえ、やっぱりこういう時のラムは可愛いな…)

「ダーリンたらはっきりしないっちゃね。今ウチの事、可愛い、って思ってたでしょ?」

まるであたるの気持ちを見透かしたような事を言うラム。

「何アホな事言っとるんじゃっ。オレは何も思っとらんっ!さっさと帰るぞっ」

ラムに対して言いたい言葉はいくつもあるのだが、これからもずっと言わずじまいで過ごす事になりそうだ。
自分の「かわいいひと」に。

--- E N D ---

あとがき


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