(番外編) 本音


あたるはラムが言っていた言葉を時々思い出す。

“ウチから、ダーリンを引いたら…ゼロ、だっちゃ”

自分からラムをマイナスしたら、いくつになるのか…本当のところは、自分にもよくわからない。
ただ、ラムがパスポートの書き換えに、あたるに何も言わず留守にした時のあの動揺と落ち込み、そしてその他諸々の出来事で彼女がいなくなりかけた時の気持ちは、あまり思い出したくは無かった。

「オレからラムをマイナスしたら…いくつなんだ?」

時々、自問自答してみる。でも答えは出てこない。

ラムがいなくなる事など“想定の範囲外”だと思っている。そう思いたかった。
だからなのか。本人も気付いて無いのだろうが、ラムの事で変に動揺したりする気持ちを紛らわす理由もあってか、今日もガールハントに奔走する。

ガールハントのたびに、ラムの怒りが電撃となってあたるを襲う。それを浴びたり、または軽々とかわしている間は、余計な事を考えずに済んでいる。
そう、“もしもラムがいなくなったら”などという事を。

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ある時、こんな事があった。両親が2泊3日で温泉旅行に行った時の事だ。(*1)
最初の晩は、あれよあれよという間に、耐電スーツを着せられた。
そして翌日の晩。

「今夜も一緒に寝るっちゃ♪ダーリン。はいっ、耐電スーツ」

満面の笑みで、耐電スーツを広げ、あたるに着せようとするラム。
と、あたる、腕を振り上げて、スーツを振り払った。

「どうしたっちゃ?ダーリン」

きょとんとする、ラム。

「お、お前なぁ…一緒に…寝る、というのが、どういう事か…わかっとるのか?」

ラムと向き合い彼女に詰め寄るあたる。彼の剣幕に、目をパチクリさせるラム。

「だって、ウチが寝ぼけて放電して、それでダーリンが感電したら、と思って…」

「だーーーっ!だーかーらーっ!そういう事では無かろーがっ!!」

「えっ、だって…」

「えーいっ!もう面倒じゃっ!!」

戸惑うラムの肩をガシッ、と掴むと、布団の上に座らせて、そのまま押し倒した。
ムキになってるようなあたるの表情に、戸惑いを隠せないラム。

「ダーリン…」

普段は恥ずかしげも無く自分に絡んでくるのに…と思いつつ、四つん這いになった自分の下に横たわるラムの顔をしばし、じっと見つめるあたる。

ラムはあたるの突然の行動に、本当に驚いているようだ。胸に手を当てて、少し体を強張らせている。困ったような、おどおどしているような、そんな表情を見せる。

「夕べみたいにスーツを着せられたんじゃ、何も…出来んだろーが。それとも…意味もわからんで、一緒に寝る、とか言ったのか?」

「えっ…そうじゃないけど…だってダーリン…」

あたるに詰め寄られて、ラムは今にも泣き出しそうな顔になった。大きな目が潤み、唇をきゅっ、と噛み締める。
それを見たあたる、ラムの“意外”な反応に、ドキリとした。

「えっ、ちょっ…ラム…」 (まさかこのまま本当に泣き出すんじゃ…しかしいつものラムらしく無いし…オレがちょっと強引過ぎたんだろーか…)

あたるの頭の中を、そんな思いがぐるぐる回った。

「え、いや、その…嫌なら…別に、何も…せんが…」

「…そうじゃなくって…ウチ…」

ラムの目から、涙が一粒、ポロリと零れた。それから間も無くして落ち着きを取り戻したラム、頬を赤らめながら、こう言った。

「ちょっとビックリしたけど…ウチ、嬉しかったっちゃ…」

「そ、そうか…は、はは…」

気の抜けたあたるが体を起こすと、仰向けになっていたラムも体を起こして、ふたりして向き合った。

「でもやっぱり…ちょっと早いっちゃ。もう少ししたら…ね?ダーリン?」

「う、いや…しかし…」

するとラム、あたるの唇に“チュッ”と軽くキスを与えてから、優しくなだめるように、こう言った。

「ウチのカラダは、いつでもダーリンのものだから…もうちょっとしたら、ね?…それともそれじゃあ、ダメ?」

「だってなぁ…ラム〜…」

今度はあたるが半泣き状態になった。

「だって急に脅かすんだもん、ダーリンたら。ウチ、まだドキドキしてるっちゃ」

「どれ?」

「ちゃっ…もうっ、ダーリンのエッチ…」

「明日には父さんと母さん、帰ってくるぞ?」

「…ダーリン、そんなに…エッチな事、したいのけ?ウチと?」

「う…アホッ、お前が言うとストレート過ぎるんじゃっ」

「ウチにだって気持ちの準備とか、色々…あるっちゃ」

「色々…って?」

「だって…もし、このままエッチして…赤ちゃん…出来たら、どうするっちゃ?」

「えっ、あ、ああ…そういう事、ね…だったら何で昨日、準備、しとかなかったんじゃ?」

「ダーリンがホントにウチと、エッチしたがるなんて、思ってなかったんだもん。浮気してばっかりだから。だから耐電スーツで十分かなぁ、って」

「あのなぁ…浮気とそれとは別じゃっ!オレだってなぁ…色々と、その」

「色々と?何だっちゃ?」

「…もういいわ。ラム、お前はいつも通り押入れで、寝なさい」

「何、気取ってるっちゃ。さっきまで泣きそうだったくせに」

「誰が泣きそうだったというんじゃっ!…お前、目でも悪くなったか?」

しらっとしてラムに顔を近付け、今度はあたるから軽くキスをした。

「相変わらず、ムードとか考えないっちゃね、ダーリンは。今夜も耐電スーツで、寝るっちゃ!」

「…まるで、蛇の生殺し状態ではないか…」

そうして耐電スーツを着用したあたる、昨晩と同じように、ラムとひとつの布団に並んで横になった。
しばらくすると、ラムの静かな寝息が聞こえてきた。時々パリパリと寝ぼけて放電する。耐電スーツのあたるに顔を寄せてきては、寝言で「ダーリン…」と呟く。

「まったく、本当に…蛇の生殺し状態じゃっ…」

目が冴えて眠れない。そしてそう遠くない日に、多分自分はラムを抱くんだろうなぁ…と、あたるは思っていた。

そしてまたいつも通り、押入れと布団で別々に眠る日々。そしてやがて…ひとつ布団の中で、絡み合う日々を送るようになった。
それでも、あたるはラムに“本音”を言わないままだ。ラムの方は以前にも増して、恥ずかしげも無い言葉を、繰り返し囁くようになっても、だ。

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「ラムがいなくなったら…オレの中は空っぽになるのか?」

ラムがいなくなったら、という仮定で、その時の自分の気持ちを想像してみようと試みる。が、どういうわけか、想像する事すら容易に出来ない。

そう言えば、以前見た夢にこんなものがあった。砂漠でひとり、ジュースを飲んでいた。そこへ水を求めるラムがやって来たのだが、やがてバッタリ倒れ、あたるが気付いた時には、既に事切れていた…という内容だ。(*2)
つくづく、嫌な夢だった、とあたるは思う。そしてそれもあまり思い出したくはなかった。

そして時々思い出したように、机の引き出し奥にこっそりしまってあるラム手縫いの“ラム人形”を、彼女に見つからないよう取り出しては、眺めてみる時がある。(*3)

「結局、ラムの言っとった事と、そうは変わらんのかな…いや、そう簡単に割り切れるもんでもなかろーし…」

“空っぽ”も“ゼロ”も、あたるには、どうもしっくりこない。

いや、もしかしたら。最後の鬼ごっこで“忘れるもんか”と言ったあたる、いつもの事であるが、根拠の無い“絶対に忘れない自信”があったのかもしれない。つまり、“ゼロ”でもなければ“空っぽ”になるわけでもないらしい。“当たり前”を通り越して“一部”になっているのかもしれない。

「うーむ…あんまりそうは、考えとらんのだが…もし無くなったとしたら、“ゼロ”よりタチが悪いではないかっ…つまり…小遣い帳で言うならば、だ。…赤字、か?」

とか何とか。あくまでストレートに表現するのを避けている。素直でもない。ただし、ラム限定である事は周知の事実である。

そして、結論。

「んな事、恥ずかしくて、口に出せるかっ!」

だそうである。

--- E N D ---

(*1)(*2)(*3)…「あとがき」に補足(蛇足)有り。


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