例えばこんな日々7 〜やわらかな背中〜


相変わらずのスチャラカ社員ぶりが直らないあたる。今日も机に頬杖を着きつつ、ボーッとしていた。

「おい、諸星、たまには仕事やってるとこ見せといた方がいいぜ」

隣席の同僚がこそっと忠告する。

「ん?ああ、そーだなぁ…」

聞いているのかいないのかわからない、気の抜けたような返事をすると、腕を頭の後ろに組んで、イスの背もたれに寄りかかった。すると。

「いっ…てーーーっ…」

小さくうめいて、机に突っ伏した。

「どーしたよ?おい」

「つつ…いや、何でも…」

明らかに様子が変だ。額に汗が浮いて、何かを痩せ我慢しているようだ。

そして昼休み。

「ね〜、一緒にお昼しよーよ〜」

同じ課の女性社員を昼飯に誘うあたる。

「やーよっ。友達と約束あるからっ」

「だったらそのお友達も一緒に行こうよ〜♪」

「相変わらず、しつっこいわねっ!いい加減にしないと奥さんに言うわよ、まったくもうっ」

「なーにを言ってんだか。オレはまだ独身だって〜」

「何言ってんのよ。あんな美人の彼女と住んでて、オマケにしっかり指輪までしてるくせに〜。もう奥さんみたいなもんじゃない」

話相手の彼女、くすくす笑ってそう言った。あたるをからかっているようだ。

「あ、ああ、これね…は、ははは…」

「いい加減、籍くらい入れてあげたらどーなのよ?随分長いんでしょ?付き合い。噂だと〜相当、甘〜いっ!って感じ?」

“バンッ!”

彼女、笑いながら思いっ切りあたるの背中を叩いた。

「いっ…!てーーーっ!!」

「あれ?どうしたの?軽く叩いただけなのに」

「いや…別に…つつ…やだなぁ、んな事無いって〜…」

いずれはラムとそうなるんだろうなぁ、と思いつつも、今ひとつ踏ん切りが、というか、そこまでにたどり着くきっかけが無い。今のままとそう変わらないような気がしているからだ。
しかしやはり、きちんとしてやるべきかどうか、あたるは悩んでいた。

そしてその晩、夕食の席で。

「大丈夫だっちゃ?ダーリン」

「いつつ…あのなぁ、ラム。何回か言ったと思うが、お前、ツメくらい切っとけよ」

「うん…ちょっと今回のは、見てても痛々しいっちゃ」

「人事のように言っとる場合か、まったく…オレ明日、医者で診てもらってくるわ…ズキズキしてきたし…」

「うん…ごめんちゃ、ダーリン…」

そして翌日。本当に珍しく病院に赴いたあたる、医者に背中を診てもらっていた。

「いやー、こりゃまた派手に…ちょっと化膿してますよ。塗り薬と抗生剤出しておきますから、しっかり治しなさいよ」

そしてあたるが診察室から出ようとしたところで。

「それにしても…そんなに激しいのは、初めて見ましたよ。いや、こりゃ失礼」

簡単な手当てをして、上半身を包帯でぐるぐるに巻かれたあたる。アパートに帰るとラムに薬の袋を渡しながら、文句を言った。

「こんなのは初めて見たと、医者にまで笑われてしまったわ…」

「どのくらいで治るっちゃ?」

「さぁなぁ…しかしオレもこんなのは初めてじゃっ!…ところで、替えの包帯あるだろ?」

「…うん」

「昔より少しはマシに巻けそうか?お前がしっかりしてくれんと、オレの身が持たんわっ」

仏頂面で嫌味っぽい言い方をするあたるに対して、ラムは申し訳無さそうにしているだけだった。


「これでいいっちゃ?取れたりしない?」

「昔よりかはマシだが…しかしこんな状態では、風呂にもマトモに入れんでは無いか」

「だからウチも…これからは気を付けるっちゃ…ダーリン」

あたるは背中の痛みで少々苛立っているようだ。ぶすっとした顔のままその日が終わり、うつ伏せになって寝床に入った。隣で横になるラムに顔も向けない。
そんなあたるにかける言葉が見つからないラム。気まずい雰囲気のまま、ふたりは何もせずに眠りに就いた。

そして翌日もそんな調子のふたり。そしてそのまた翌日。

少しは痛みが和らいできたのか、それともそれに慣れてきたのか、あたるの機嫌も少し良くなってきたようだ。珍しくあたるの方から、たまには外で食事でもしようか、と、ラムに言ってきたからだ。

ようやくほっとした表情になったラム。だったらたまには気軽な居酒屋にでも行こうか、と彼女から提案して、話がまとまった。

繁華街へ出て、適当な店を見つけ、席に着いたふたり。

「ダーリン、何でも頼んでいいっちゃよ、今夜はウチが出すから」

ニコニコしながらあたるにビールを注いでやるラム。そう言えばここ何日か、ラムの笑った顔を見てなかったなぁ…と、あたるは、ふと思った。

「ん〜っと…これとこれと、これ。あ、あとこれも。2人分ずつ、頼むっちゃ。ダーリン、他に何食べたい?」

「何でもいいぞ…適当で。ただしっ!あんまり辛くないものな。わかっとるとは思うが」

「うんっ♪」

しばらくして、あたるはトイレに立った。そして席に戻ってみると、ラムの様子が変だ。頬を染めて、チリチリと軽く放電している。

「ラムッ!お前まさか…一体何飲んだ!?」

「え?何って〜梅酒…だっちゃ…ヒック…」

梅酒の梅まで食べて、すっかり酔ってしまったラム。

「何だか…眠くなって…きたっちゃ…」

そう言うと、コテン、とテーブルに頭を預けて、すーすーと寝息を立て出した。

「おい、ラムッ…ったく、しょうがねーなぁ…」


「ん…ん?あれ?ウチ…どうしてたっちゃ?」

「目、覚めたか?そっちが出すと言っとったのに、結局オレが全部払っといてやったぞ」

「あれ?…ダーリン…」

気が付けばそこは、あたるの背中だった。店で眠ってしまったラムをおぶって、ずっと歩いていたらしい。

「ダーリン、ウチ、もう歩けるから、下りるっちゃ…それに、ダーリンの背中の傷…」

「また途中で寝られたら、かなわんわ。このままで帰るぞ」

「だってまだ…背中、治ってないのに…それにまだ大分、距離あるっちゃよ?」

「…いいから黙って、しっかりつかまってろって…」

ラムはあたるに“ぎゅっ”としがみつき、耳元に唇を寄せて、囁いた。

「ダーリン…大好きっ…」

「ちょっ…ラム…」

あたるの足がはたと止まった。

「ラム、お前なぁ…道の途中で…」

「どうしたっちゃ?」

「う…だから…耳に息かけたりとか…あんまり、胸…押し付けてくると、だな…」

「ちゃっ…大丈夫け?ダーリン。家までもちそう?」

「何とか…。ここしばらく…だったから…ちょっと…」

するとラム、わざとらしく、あたるの背中に数回、胸を押し付けてきた。

「だ〜か〜ら〜…やめんかっ!…わざと刺激するな、っちゅーんじゃっ…」

それから少しして、また歩き出すあたる。

「大丈夫?ウチ、やっぱり下りるっちゃ」

「こうやって背負ってみると…思ったほど軽くないな、お前」

「失礼だっちゃねぇ、もうっ、ダーリンたら…」

はやる気持ちを抑えながらも、ラムを背負って歩き続けるあたる。衣服の上からだが、ラムのやわらかな体と体温が、あたるの背中を通して、じんわりと染みてくる。

こうやってずっと歩くのも、悪くは無いよなぁ…と、あたるは思っていた。

(何年か、何十年か経って、お互いに年取って…またこうやって、ラムをおぶってやる事も、あるかもしれんなぁ…)

そうして胸に温かなものを感じながら、ふたりは黙って、家路をたどった。


「ダーリン、少しは良くなったっちゃ?背中」

「ん、まぁ、ちょっとはな」

「ウチをおぶってて何とも無かったっちゃ?」

「ん…どうって事無いって…」

「相変わらず、痩せ我慢ばっかりだっちゃね、ダーリンは…」

寝室の布団の上で、向き合って座るあたるとラム。ラムには、あたるの上半身をぐるぐるに巻いた包帯が今もまだ痛々しく思えたのだが、アパートまで自分を背負って歩き続けてくれた事が、何より嬉しくもあった。

素肌を晒して、明かりを消し、座したまま顔を寄せるふたり。
ラムはあたるの二の腕に手を添え、あたるはラムの腰をしっかりと掴んだ。
最初は軽いキスから始まった。やがて互いの唇をねぶり合い、舌を絡め合いだした。

ふたりはあっという間に気持ちが昂ぶり、あたるはラムの唇や舌を激しくねぶり続けた。
そして彼女の頬をかすめて、首筋に食らい付いた。

ラムの腰を掴んでいた手が、彼女の胸に移る。乳房を軽く握りながら、人差し指と中指の間に桃紅色の乳先を挟んで、きゅっ、と持ち上げる。
ラムがのど元を晒して、あたるの愛撫に悦びの表情を見せる。

「あ、い、いい…っちゃ、ダーリン…もっと…」

「ん…んっ…」

やがて崩れるように、あたるの下になるラム。乳房を揉みしだきながら、あたるのもう片方の手が、ラムの内ももに滑り込む。
探るようにして、彼女のやわらかな肉の唇を押し分ける。“ぬちっ…”あたるの指が挿し込まれると、ラムの秘所から微かな接触音が漏れた。

「あ、あ…ダーリン…」

“ぬちっ、ぬちっ…”骨太のあたるの指が、ぬるついたラムの秘所を掻き回す。

「ちゃっ…あ、あっ…あ、んっ…そこ…」

ラムの足が持ち上がり、あたるの腰に擦り付けられる。絡み合う、下肢と下肢。

「ラム…ん、んんっ…」

開かれた女性器に、しばしラムとカラダを合わせていなかったあたるの欲情が、一気に差し向けられる。
そのうち、あたるの包帯が緩んで解けだした。が、そんな事など気に留めるでも無く、ラムを愛撫する。激しく求める。

筋が浮き立つほどにギチギチに硬くなったあたるの陰茎が、ラムのぬめった入り口にあてがわれた。
両手でラムの両脚を広げるあたる。そしてしなやかにしなるラムのカラダ。

「あ、は…ダ、ダーリンッ…あ、あ…あ…」

か細く艶かしいラムの甘い声が、あたるが入っていくと共に、小刻みに漏れ出る。

「は…は、ラ、ラム…」

ラムのラヴ・ローションが、あたるの挿入を容易にしてくれる。温かな彼女の内壁に飲み込まれ、奥まで入り込むと、今度は腰を引いて、逆行させる。
大きく広げられたラムの両脚の間で、往復するあたるの陰茎。突いては引く事を繰り返すと、その度にラムは身悶えして、腰を浮かしたり、胸を突き出したりする。

「ああっ…い、いい…っちゃ…ダーリン、の…す、すご、く…」

途切れ途切れの言葉、その合間合間を繋ぐようにして弾き出される、ラムの喘ぎ、そして時たま飛び出す、嬌声。

「あはぁっ!ああぁ、あぁあーっ!ダーリーーンッッ!!」

汗を滴らせながら、あたるはラムに送り込む。渾身の力を込めて、烈火の如く、送り込む。

「ちゃあぁぁぁぁーーーーっっ!!!」

激しい交合の末に、ラムは身を仰け反らせた。暗闇に、ラムの放電の光りが飛び散る。

「くーーっ!ぐわーーーっ!!」

あたるの奔流がラムのナカに注がれ、子宮口をほころばせたラムが、それを吸収した。

激しく息をつきながら、熱くなったカラダを再び交わらせる。そうしてふたりは朝が来るまで、飽く事無く、愛し合い続けた。


窓から差し込む陽光に照らされて、うつ伏せになって眠るあたるの背中をやさしく撫でるラム。

「やっぱり痩せ我慢ばっかりだっちゃ…あんなに長い距離、ウチを背負って歩くんだもん、ダーリンたら…」

しばらくして、あたるも目を覚ました。

「いてて…つつ…」

「やっぱり、無理し過ぎだっちゃ。途中で下ろしてくれれば良かったのに」

「ちっとは治ってきとるんじゃ…カサブタになってるだろ?」

「でも…まだ痛そうだっちゃ」

「お前は余計な心配せんでもいいんじゃっ…また後で、包帯巻いてくれよな」

「うん、わかったっちゃ♪」

浮気やその他諸々が原因でするケンカの時以外は、ラムはいつでも無邪気に微笑む。
そしてふと、昨晩の、ラムを背負った時の気持ちを思い出してみる。

(何年か、何十年か経っても…か…。相変わらず、電撃リンチされてばっかかも、しれんしなぁ…)

そんな事を考えていたら、ひとりでに笑いがこみ上げてきた。

「何が可笑しいっちゃ?ひとりで笑って。変なダーリン」

「ん…あのなぁ、ラム…」

そしてここから先は…第三者は聞く事が出来ない、ふたりだけの内緒の話だ。

--- E N D ---

あとがき


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