お家(うち)に帰ろう


「あ〜、退屈だっちゃ。ダーリンもどっかに行ったまま、なかなか帰ってこないし、一体どこで何してるっちゃ」

特に何もする事が無いラム、あたるの部屋でごろごろしたり、退屈しのぎに雑誌をめくってみたり、ジュースを飲んだりして、ヒマを持て余していた。

「せっかくプールに行こう、って誘っておいたのに〜、どーせまた、ガールハントでもしてるっちゃ」

このままヒマを持て余していても仕方がない、と思ったのか、残暑厳しい炎天下に飛び出したラム。学校の上空に来てみれば、一部の生徒が部活動に来ているくらいで、見知った顔も無い。

“ガチャーンッ!”

突然、何かが割れる大きな音がした。そしてラムが音のした方を見下ろしてみると。

「このクソ親父ーーーっ!こないだまで浜茶屋でこき使ってくれたバイト代、一体どうなったんでぇっ!」

「よいか竜之介、良く聞くのじゃ。“歯糸打胃”とは…歯と歯の間を糸で掃除し油断している隙に、“ぼでーぶろう”を食らうという意味じゃ。つまり油断禁物、という事なのじゃ、わかるか、竜之介」

「何ワケわかんねー事言ってやがるっ!そうやっていっつも俺を騙してきやがってーっ!チョコレートが毒だの、食ったら男になるだの…。もう勘弁ならねぇ、ってんだよっ!親父っ!この際だ、はっきり決着つけようじゃねーかっ!!」

「ふっ…このわしに勝とうなど、100年早いわ…しかしお前がそこまで言うなら相手をしてやっても良いぞ」

「俺が勝ったら、バイト代はきっちり払ってもらうからなっ。それと、浜茶屋も継がねぇ。それでいいな?」

「もしもお前が勝てたら、の話じゃ」

「よーし、今の言葉、確かに聞いたぜ。…それじゃ行くぜ、親父ーーーっ!!」

ラムはその一部始終を見物していた。そして結果は…竜之介が、負けてしまった。

「だから言ったであろう、100年早い、と。父の忠告を聞かんからじゃ」

「…くっそーっ…どうして勝てねーんだよ…」

地面に突っ伏し、本当に悔しそうに、こぶしで地面を叩く竜之介。そんな竜之介を見て親父が(竜之介、耐えるのじゃ…)と思ったかどうかはわからないが、しばし彼女を見下ろしてから、黙って家に入っていった。
そして親父がいなくなったところで、ラムが竜之介のところに降りてきた。

「竜之介、大丈夫け?」

「…何だよ、もしかして…見てたのかよ?…いいザマだろ?だけど、悔しいぜ…いっくら勝負しても、してもしてもっ、親父に勝てねぇなんてよぉ…」

「渚からケンカの仕方、教わったらいいのに」

「何で俺があいつから…」

「少なくとも、竜之介よりは、強いっちゃ」

「何だよ、ラムまで…くそっ…そんなもん渚に教わらなくたってなぁ…いつか必ず…」

「意地張ってないで、手っ取り早い方法考えた方がいいっちゃ。おじさんに勝ちたいんじゃないのけ?」

「そりゃ、そうだけどよ…ケンカなんて人から教わるもんじゃねーだろ?俺は今まで実践で…自分の力でやってきたんでぇ。何で今更…」

「それじゃあ、ウチが持ってる筋力アップの薬でも使うけ?」

「バッ、バカヤロッ、そんな卑怯な真似が出来るかっ、てんだっ」

「そう言うだろうと思ったっちゃ。だったらやっぱり、自分より強い人に教わるのが近道だっちゃ」

そんなラムのアドバイスを聞きつつも、それきり竜之介は黙ってしまった。無言のまま立ち上がり、服に付いた土をパッパと軽く払った。
そして黙って…学校の校門がある方へとゆっくり歩きだした。途中一度だけ、何か言いたげな表情でラムを振り返ったが、すぐに前を向いて、学校の外へ行ってしまった。

「…渚に教わった方が、早いのに。竜之介も意地っ張りだっちゃ」

そしてラムは誰もいなくなったその場から、上空高く飛び去っていった。

「ダーリン、一体どこ行ったっちゃ。そんなに遠くには行ってないと思うんだけどなぁ」

時々日差しをよけながら、上空からあたるを探すラム。住宅街を抜けて、ビルの立ち並ぶ繁華街へ。アスファルトやコンクリートから発散される熱で、余計に暑く感じられた。この暑さだし、そろそろUFOにでも行ってひと休みしようか、と思っていた矢先。

「あーっ!ダーリン見つけたっ!」

あたるは商店街をひょいひょいと動き回り、女の子に声をかけまくっていた。

「ねー、そこのお嬢さ〜ん♪涼しいところでお茶しない?それと住所と電話番号も…」

「涼しいところ?いいっちゃね〜。それと住所は友引町4丁目、だっちゃ。ダーリンッ!」

ラムはあたるの背後に降りて、へらへらとした笑顔で女の子にモーションをかけている最中のあたるに、声をかけた。

「げっ、ラ、ラムッ」

「何だっちゃ、その“げっ”っていうのは?今日はプールに行く約束じゃなかったのけ?ダーリンッ」

「オレは行くとは約束しとらんかったぞ、そっちが勝手に決めてただけだろーがっ」

「確かに夕べ“ああ”って返事、したっちゃ!そ、それなのに〜〜…ウチとの約束忘れて、ガールハントしてるなんてっ!ダーリンのぉぉぉ、浮気者ーーーーっ!!」

「ちょっ!ま、待てっ、ラムッ!」

そしてアーケードの一角から空に向かって、大きな雷が竜のように勢い良く、昇っていったのであった。


夜になってもラムはまだ、プリプリ怒っていた。あたるに背を向けたまま、顔を見ようともしない。窓を少し開けて風を入れてはいるものの、それほど涼しくもない。

「…いつまで怒ってるんじゃ…」

「ウチとの約束破って、ガールハントなんかしてっ!しばらく許さないっちゃ!」

「しかし…ホントに約束したか?オレ」

「したっちゃ!忘れたのけ?…目が覚めたら一緒にプール行きたい、ってウチが言ったら、ダーリン確かに“ああ”って返事したっちゃ」

「うーむ…」(ああいう時の“ああ”は…実際言ったのか?…うーむ、よう憶えとらん…)

「何深刻そうな声出して、誤魔化そうとしてるっちゃ!もう、知らないっちゃ、ダーリンのバカッ」

「…だから、ああいう時の、約束、というか、何か聞かれてもだな…イチイチ憶えてられん、ちゅーんじゃ…何しろ、別の事に…集中、してる、ワケだし…だろ?」

「そんな言い訳したって…浮気してたのも、怒ってるっちゃ!」

「…ったく…もう知らんっ、勝手にずっと怒ってろ…」

あたるもラムに背を向けると、机に頬杖をついて、雑誌を見始めた。が、どうにも背後が気になる。雑誌に書いてある事などまったく頭に入ってこない。
しばらく雑誌を見ているふりをしてから、軽く咳払いをして、イスから立ち上がったあたる。ラムを見ると、背を向けたまま腕を組んで、まだ怒っている様子だった。

(なーにをまだ怒ってんだか…ったく、しょうがねぇなぁ…)

と思いつつ、ドアを開け、階下へ。簡単に風呂を済ませて上に戻ってみると、部屋の明かりはそのままに、虎縞柄の敷物の上で、すーすー寝息を立てているラムの姿があった。

「もう寝たのか…。もしかして…あの暑い中、ずっとオレを探してて、疲れたのかな…」

「…うーん…ダーリンの…バカ…」

「…何じゃ、寝言か…」(しかし、もう寝てしまったんじゃ…。しょうがない、明日プールにでも連れてってやるかな…)

“チュッ”

少しだけ迷ってから、あたるは寝ているラムに軽くキスをした。

「…どうしたっちゃ、ダーリン…」

「わっ…な、何じゃ、目ぇ覚ましたのか…」(あー、びっくりした…)

「お風呂、入ってきたのけ?」

「ん、ああ…そうだが…」

「今日は暑かったし、ウチもお風呂入ってくるっちゃ」

「ああ、そう…」

もしかして機嫌が直ったんだろうか?と思いながら布団を敷くあたる。そしてあたるはラムが戻ってくるのを待った。が、なかなか戻ってこない。そしてふと窓の外に目を向けると。

「あっ」

暗い夜空を飛んでいく、ラムの姿が見えた。少々慌ててベランダに出たあたる、呆然として、どんどん遠ざかるラムを見上げて呟いた。

「ラムの…ラムの、アホ〜〜」 と。

UFOに戻ったラムは、今日のあたるに心底怒っていた。いつもの事とはいえ…暑さで少々苛立っていたのかもしれない。

「もうっ、しばらく放っておくっちゃ。ダーリンの好きにすればいいっちゃ!バカーッ!」

と、その時。モニタの方から、通信が入った呼び出し音が聞こえた。受信スイッチを入れると、そこにランの姿が現れた。

「こんばんわ〜、ラムちゃん♪珍しいわね〜、こんな時間に通信に出てくれるなんて〜♪」

「ラ、ランちゃん…どうしたっちゃ?」

「あら〜アタシたち幼なじみじゃな〜い♪何か用事が無いと、通信しちゃダメなのかしら〜?」

「あ、ああ…あはは…そんな事、ちっともないっちゃよ。いつでも気軽にしてきて欲しいっちゃ」

「うふふっ♪ランちゃん嬉しいっ♪でねぇ、ラムちゃん、実はねぇ…きゃっ、どうしよう…言っちゃおうかなぁ…でもぉ、恥ずかしいしぃ…」

モニタに映っているランは顔を赤くしながら、くるくる目まぐるしいくらいに表情や仕草を変えて、いつもとは違う妙な雰囲気を醸し出していた。
が、聞いている方のラムは、というと。ランの前置きがあまりにも長いので、次第に退屈になり、小さなあくびをひとつ、してしまった。すると…。

「…こら、ラムッ、おんどれ、人の話聞く気あるんかいっ!?何のんきに、あくびなんぞしくさっとるんじゃっ!」

「…ランちゃん、一体何があったのけ?さっきから話が全然進んでないっちゃ」

「あら〜、そうだったかしら〜」

「だっちゃ」

「…ラム〜、おんどれ、人の一体何を見とるんじゃっ。ワシの態度で大体の事くらい、わからんのかいっ」

「ううん、ちっともわからんちゃ」

「はは〜ん、読めたで、ラム〜…自分がちっと先にダーリンと…と思うて、ワシの話聞くのもアホらし、思とるんやろ!?」

「そ、そんな事ないっちゃ〜…ランちゃんの話、ぜひ聞きたいっちゃ〜。…あ、もしかして、レイと何かあったのけ?」

「やだ〜、ラムちゃんたら〜♪そんなにはっきり言ったりしたら〜、ランちゃん、どう答えていいのか困っちゃう〜♪」

(…困ってるのはウチの方だっちゃ…早く本題に入らないのけ?…はぁ〜疲れてきたっちゃ…)

「うーんとねぇ、実はねぇ…きゃっ♪ランちゃん、恥ずかしいっ…あのね、レイさんとねぇ…」

「うん、そこから先が早く知りたいっちゃ」(いつもより話が進まないっちゃねぇ…)

「レイさんとぉ…エッ…」

“ブチッ…ピーーッ、ザ、ザザザーーーッ…”

「あれ?ランちゃん、ランちゃん?…通信が切れたっちゃ、おかしいっちゃねぇ」

「肝心なとこで何通信切っとるんじゃいっ!ラムッ!…憶えとれよ〜〜〜」

実はラン、あまりにももじもじして話を長引かせていたため、つい無意識のうちに送受信用モニタのボタンやスイッチ類のいくつかを適当に操作してしまっていたのだ。
結局話しの途中で通信をオフにした事に気付かないまま、話半ばでラムとランの会話は途切れてしまった。

「せっかくラムちゃんに、レイさんとの素敵な思い出話を聞かせてあげたかったのに〜…とにかくっ、憶えとれよ、ラム〜〜〜」

「結局ランちゃん、何を話したかったっちゃ?…まぁいいか。それよりダーリンがしっかり反省するまで、放っておくっちゃ…でも、ちょっと退屈だっちゃねぇ…」

まだ深夜というほどの時間でもなかったので、気分転換に夜の散歩に出かけたラム。ふと、昼間の竜之介の事が気になって、学校上空に来てみた。
竜之介の家を見下ろすと、明かりが点いている。誰かはいるようだ。そしてそっと、窓に近付き、中を覗いてみた。

「あれ?竜之介と渚だけだっちゃ。おじさんはいないみたいだっちゃ」

そして藤波家の中での会話。

「竜之介様、元気無いわね、どうしたの?」

「おめぇには関係ねぇだろ…」

「あら、だって〜…悩みがあるなら、話くらいしてくれたって、いいじゃないの」

「…あ…あのよ…」

「なーに?竜之介様」

「…俺、勝ちてーんだ…親父によ…」

「あら、それは無理よ〜」

「どっ、どうしてだっ!?」

「あなたがいくら強くたって…女の子、ですもの、無理よ〜」

「くっそー…渚まで、そんな事言いやがるのか…何か、悔しいぜ、俺…。親父には勝てねぇ、か…」

竜之介にとっては余程ショックなひと言だったらしい。ガックリうなだれて体を震わせている。

「でもいいじゃない。別におじさまに勝つ事だけが、竜之介様の人生じゃないでしょう?」

「だけどよ…親父に勝てねぇ事には、セーラー服だって着れねーんだぜ?浜茶屋だって継がなきゃなんねーんだぜ?」

「先の事は、あたしにもよくわからないけど…おじさま、そんなにあなたの事、悪いようにするとは思えないんだけど」

「また、元幽霊の勘、ってやつかよ?」

「さぁ、どうかしら〜。でも大事なひとり娘なんだから…」

「あのクソ親父は俺の事、息子だ息子だ、って言ってばっかりだぜ?」

「う〜ん、上手い事説明出来ないけど〜…あたしはお父様と一緒にいられて楽しかったけど。竜之介様も退屈はしないでしょう?おじさまと一緒にいて」

「でもよぉ…あの親父、変態だぜ?娘を息子に育てて、ケンカも容赦無しなんだぜ?…確かに退屈は…してねーけどよ…」

「他人だったら、あそこまで真剣なケンカしないわよ、普通」

「…親父に勝つのは、やっぱ、無理そうか?俺」

「おじさまの事が好きだったら、今のままでいいんじゃない?無理しなくても。親子なんだから」

「…何だかおめぇの方が、俺より大人、みてぇだなぁ…っていうか、俺が一番、ガキなのかなぁ…」

「それより竜之介様」

「何でぇ?」

“チュッ”

「バッ!いっ、いきなり何しやがんでぇっ!」

「唇にすると成仏しちゃうから。ほっぺにだったら、大丈夫なの♪」

「…今のはちっと、卑怯じゃねぇか?」

「あら、別にいいじゃない。ほっぺにキスするくらい」

「…バカヤロッ…こっちにも色々…気持ちの、準備とか…あんだろっ…」

「ケンカに勝つ方法考えるより、あたしが成仏しない方法、考えましょうよ、竜之介様♪そして将来は〜一緒に〜浜茶屋やる、っていうのは、どうかしら?」

「…まぁ…悪くねぇ…んじゃねぇか?…」

「ふふっ、良かった〜♪」

“チュッ”

「だっ!だから、そういうのはやめとけ、ってんだよっ!」

「いいじゃな〜い、とりあえず、ほっぺにキスするだけなんだから。減るものでもないんだし♪」

「…ふんっ…バカヤロッ…」

中の様子をずっとうかがっていたラム、ふたりが何と無くいい雰囲気だったのを見ているうちに…あたるに対する怒りが、少しずつ引いてきているのを、感じていた。

「ウチもちょっと怒り過ぎだったかなぁ…やっぱりダーリンのとこに、戻ろうっと…」


「ラムの、アホ〜〜」

暗い部屋の中、布団の上でごろごろしながら、あたるは子供のように愚痴っていた。

“カラ…”

と、窓が滑る音が聞こえた気がした。

「ダーリン?」

その声に、思わず安堵の息を漏らしたあたる。ゆっくり起き上がり、暗い部屋の中で…ラムに顔を見られないよう、うつむくと、やわらかな笑みを浮かべた。そしてすぐに気を取り直し態度を改めると、何事も無かったようにラムに声をかけた。

「何じゃ今頃。人がせっかく寝てたところに戻ってきおって。目が覚めてしまったではないか」

「…ごめんちゃ、ダーリン。こんな時間に、ダーリンの所に戻ってきたら…ダメ?」

「…いや、んな事は…ここは地球での、お前の家だろうが…いつ帰ってきても、誰も文句なんぞ言うか」

「良かったっちゃ〜」

「だけどな…」

「何だっちゃ?ダーリン」

「オレに何も言わんで…外に行く事、無いだろ…UFOに戻ってたのか?」

「うん。ランちゃんから通信が入って話してて、それから…竜之介のとこに行ってたっちゃ」

「何でこんな時間に?」

「どうしてもおじさんに勝ちたいって言うから、ちょっと気になって、だっちゃ」

「で、ランちゃんは?竜ちゃんは?どうしてたっ?」

「もうっ、せっかく戻ってきたのにっ。またUFOに戻ろうかなぁ〜…って言うのは、ウ・ソ♪」

そしてそれまで窓の近くにいたラム、ふわりと浮いてあたるの傍に来ると、ぴょこん、と床に降りて端座した。

「それにしても寝るの早いっちゃね、ダーリン。暑くないのけ?」

「たまにはこういう日もあるわ…それより、約束とかするなら…今のうちの方が…いいんじゃないか?」

「何で?」

「…あ〜、だから…変なタイミングだと…約束した気になっておっても…さっきも言ったが…他の事に、集中しとるから…」

「…つまり、エッチの最中には、大事な事は言わない方がいい、って事け?」

「…何をはっきり言っとるんじゃ…ま、そういう事じゃ…。ところで明日、プール、行くか?」

「うんっ♪」

満面の笑みを浮かべて、うなずくラム。そしてあたるは頬を掻きながら天井に顔を向けて、ぼそっと言った。

「…そういや、まだ下で、父さんと母さん、起きとるのかな…?」

最近にしては珍しくそんな事を口走ったあたるに、ラムはきょとんと意外そうな顔をした。そして少しの間を置くと、次のように言った。

「いつもウチが防音スプレーでバリア張ってるでしょ?何今更、変な心配してるっちゃ…」

確かに最初の頃は、あたるから時々そんな事を聞かれていた。そして改めてそう聞かれると、ラムも妙に気恥ずかしくなった。

「それにしては外の音はちゃんと聞こえるぞ?」

「外からの音は聞こえて、この中の音は…聞こえないようになってるっちゃ。でも…心配?それじゃあまた、UFOに行くっちゃ?…あ、そうだっ」

ラムは押入れからリモコンのようなものを出してくると、それに配置されているボタンのいくつかを押した。

「お父様とお母様とテンちゃんにはちょっと悪いけど…しばらく移動しててもらうっちゃ」

「何じゃ?それは」

「物質空間転送用の装置だっちゃ。これは簡単なものだから、近場にしか転送出来ないけど」

「大丈夫なのか?変な場所に行ったりせんだろうな?亜空間とか?」

「大丈夫だっちゃ。大体半径…うーん、忘れたけど、そんなに遠くまで飛ばないっちゃ。それに亜空間とかにも行かないようになってるから、平気だっちゃ」

「…お前の言う“大丈夫”、“平気”は…当てにならん事があるのだが。しかも1度や2度じゃなかろーが…」

「これはテンちゃんくらいの子供でも操作出来るものだから、大丈夫だっちゃ。ダーリンも心配性だっちゃねぇ」

「いや、オレが心配性とかいう問題とは、ちょっと違うと思うのだが…」

「とにかく、もう転送完了したっちゃ。朝になって解除すれば、こっちに戻ってこれるっちゃ」

「…ああ、そう…」

「それじゃあ、明日プールに行く約束も出来たし…明日になって“忘れた”なんて、無しだっちゃよ?」

「多分、大丈夫…しかし、途中で記憶が飛んだら…わからんけどな…」

「んもう…ダーリンの、バカ…」

“チュッ…”

小鳥が突付き合うような軽いキスを、1回、2回…3回…そして、たくさん。

「…ウチが…しょっちゅう、ダーリンの事…好き…って言ってるのも…忘れるのけ?…」

「…耳に、タコが…出来たわ…」

「…ふふっ…嬉しい…」

湿気を帯びた熱い空気に、たちまち融け込む、ラムとあたる、それぞれの芳香。匂いが…発散されて、ふたりの周囲を取り巻く。

「…ダーリン…」

座ったまま、顔を向きを変えながら、軽いキスを繰り返す。何度も、何度も。ラムの両腕があたるの肩に回され、あたるの腕がラムの背に回る。そしてちょっとだけ顔を離した合間合間に、短い言葉を交わす。

「…何だ?」

次第にカラダが熱くなってくると、キスも段々、ねっとりとしたものになっていく。

“くちゅ…ちゅばっ…”

「…ずっと、いつでも…」

あたるは、自分の肌に吸い付くようなしっとり感と滑らかさを持つ、ラムの頬にも、キスをする。そのまま唇を滑らせて、彼女の尖った耳の、上の先端から下に向かって、軽くくわえながら舐めていき…少し柔らかな耳たぶを軽く噛んだりしてやる。

「…ダーリンの…家に…」

ラムは薄く目を閉じ、のど元をさらして、あたるの愛撫を受け続けている。吐息のような言葉を、時々ぽつりぽつり、と呟きながら。

「…帰ってきても…」

ラムの首筋に軽く食らい付きながら…あたるは片手を布団に着いてカラダを支え、ラムを下にして、ゆっくり布団に倒れこんでいく。

「…いいっちゃ?…あ、あぁ…」

一旦ラムを横たわらせてから、むっくり起き上がったあたる。身に着けているものを全て脱ぐと、カーテン越しの薄っすらした街灯の光で、仄かに浮かんで見えるラムの姿を見下ろしながら、言った。

「…ずっと、いつでも…いいぞ。ここがラムの…家、だからな…」

「…ダーリンやっぱり、優しいっちゃ…大好き…」

その言葉を聞いて、あたるは安心したのか、後は無言のまま、ラムのビキニの上下を脱がしていった。
冬の寒さでもビキニだけで平気なラムの肌は…どこもきめ細かく、滑らかで、一点の染みも無い。昼間は健康的な肌の色に見えているが、薄青いような夜の光の中で見ると、抜けるような白さに見える。極弱く発電して、蛍のように光っているせいかも、しれないが。

腰をひねって、カラダをくねらせ、胸を突き出し…。一連の艶かしい仕草は、女体の柔らかさと関係しているのだろうか。淀みもぎこちなさも無く、あたるの愛撫に合わせて変化する、ラムのしなやかな肢体。そして彼女は熱い息を吐(つ)きながら、小さくうめいたり、感じている言葉を発したり、突如として嬌声を上げる事もあった。

「…あ、あ、あっ…!ダァ、リン…。…ちゃっ…!あ、あ…だ、めぇ…」

あたるはフェイントをかけるように、時々舌先で、既に尖っているラムの乳先を、ころり、と転がしてやる。

「ちゃっ…ダー、リン…もっと…あっ…あ、あ、は、ああぁっ!」

ラムが電気を散らして、身悶えし続ける。細い指先をあたるの顔やカラダのあちこちに這わせながら、電気を散らす。汗による電気の伝導も手伝って、網目のように広がったスパークが、ふたりを同時に包むと…その刺激があたるの一物先端にまで伝わる。

いきりよく屹立し電気を絡めたそれを、ラムのスリットに宛がい、左右に広げてやると…柔らかく濡れそぼったラムのひだから太ももにかけて、細くて長いスパークが、彼女を痺れさせながら、走り抜けていった。

「あ、あ!…し、痺れるっ…っちゃ…!…ちゃあぁぁぁっ!ああっ!!」

ラムは何かにすがるように、あたるの脇腹から背に手を回し、彼にしっかとしがみついた。そして彼女の指先が、あたるの背に軽く食い込んできた。
あたるは熱くなった一物でラムの窪みをゆっくり割り開きながら、彼女のナカへとねじ込むように挿入していく。ラムの陰部が局部放電をし、電気を絡めたあたるの一物を、ゆっくり飲み込んでいく。

「ダ…ダーリン、の…ピリピリ、したの、が…ウ、ウチの…ナカに…。…あはぁっ!だめぇっ!そこっ…はっ…!」

あたるの一物から伝わるパルスが…ラムの敏感なポイントをほどよく刺激すると、彼女はトーンの高い声を発して、あたるの背に回した手のひら、指先に、力を入れた。
そして、ぐっ、と握り締めたその時に、ラムの指先があたるの背を軽く引っ掻いた。

「んっ…あっ、あ、あ、あぁっ!ダーリンッ!」

室温のせいもあって、すっかり汗だくになっているふたり。上になったあたるの顎の先や首、胸などから、ラムのカラダに、ぽたぽたと汗が滴り落ちる。下になっているラムが頭を振ったり、カラダを仰け反らせたりすると、やはり彼女のカラダからも、細かな飛沫が散って、時々あたるのカラダにそれがかかった。

馥郁(ふくいく)たる香りを含んだふたりの汗は、カラダの熱で上昇し、電気のせいもあったかもしれないが、互いのカラダが湯気のようなものを仄かに発散して、あたるとラムにはお互いの周辺が、白っぽくなっているように、見えた。

ラムとカラダを合わせて、全てを共有する、あたる。五感を刺激する全てが、次第に頭を痺れさせていく。そうして何も考えずに、ラムと繋がり続ける。
粘った水音…そして、ラムの、声。それだけが頭に響いて、後は音の無い世界のようになっていく。

「ダー、リンッ…ダーリンッ!…好きっ…大好きっ…!いっぱい…いっぱい…」

「…ラ…ムぅ…」

条件反射だろうか。いつものラムの言葉で、小さくうめいたあたる、体内のどこかが引き締まった感じがしたかと思うと、ラムのナカに一気に、一物の先から噴き出すものを注ぎ込んで…そして大きく息を吐(つ)いた。


「ダーリン…いい匂い、だっちゃ…大好きっ…」

照れ隠しも何も無く、あたるに対して思った事をストレートに伝えてくるラム。

「今夜はもう、眠ろ?ダーリン。明日はプールに行く約束してるし」

「ん、ああ…。そういや父さんたちは、どこに転送されたんだ?」

「ちょっと待つっちゃ、位置確認してみるから…えーっとねぇ…あれ?ここって…もしかして…」

「おい…もしかして変な所に飛ばしたんじゃないだろーなぁっ!?」

「近くは近く、なんだけど。ここって…」

その頃、あたるの両親とテンは。

「…何でランちゃんのUFOの中におるんや〜?」

「あなたっ、これは一体…きっとまた、あたるが何かしたんだわ…あーまったくもう…」

「まぁいいじゃないか、母さん。布団も一緒に来た事だし。幸いラムちゃんの友達の所だし。このまま朝までご厄介になろうじゃないか」

「…何でダーリンの親とテンが、ワシの家に来とるんじゃっ…ラム〜〜、憶えとれよ〜〜…」

そして再びあたるの部屋。

「ランちゃんの家、みたいだっちゃ」

「何っ?それなら今すぐに迎えに行かねばっ!」

「…何言ってるっちゃ、今さっきまで、ウチと…エッチしてたくせにっ」

ちょっと頬を膨らませたラムは、「もうっ、知らないっ」と言うと、ころりと寝返り、あたるに背を向けてしまった。

「…冗談じゃ、冗談…それにこんな時間だしな、向こうにも迷惑だろ…というか、既に迷惑をかけておるわけだが…」

「ウチ、シャワー浴びてくるっちゃ」

ラムはそう言うと、まだ少し怒っているのか、ツンとしたまま階下へ降りていった。

「いつもの事だとゆーのに…すぐ怒りおって…。あ、もしかしてっ」

何かを思い出してガバッと起き上がったあたるは、風呂場に行ってみた。

「…おーい、ラム〜…いるか〜?」

シャワーの音がするので、どうやら中にいるらしい。が、恐らくその音であたるの声が聞こえないのだろう。ラムからの返事は無かった。
しかしそれから何十分経っても…シャワーの音が止まない。変に思ったあたる、思い切って風呂場のドアを開けてみた。すると。

「…また怒って、UFOにでも戻ったのか?…ったく、ラムの…アホ〜〜」

がっくりしつつも、ついでにシャワーを浴びて汗を流し、眠りに就いたあたる。そして翌朝。

「…ダーリン、ダーリン?ほら、もうこんな時間だっちゃ!プールに行くんじゃなかったのけ?」

「…う…な、何じゃ…ラム、か……ラム?」

「早くしないと時間無くなるっちゃよ?それともまた“忘れた”とか言うのけ?」

まだ眠そうに目をこすりながら、むっくり起き上がったあたる。時計を見れば、そろそろ昼に近い。

「いや…憶えておるが…お前、また怒って、UFOに戻ってたのと違うのか?」

「そりゃちょっとは怒ってたけど…ランちゃんに連絡するのに、UFOに行ってただけだっちゃ」

「で、連絡ついたのか?」

「…ついた事はついたけど…」

ラムは昨晩、UFOからランに連絡をとってみた。遅い時間だったがもしかして起きているかもしれない、と思っての事だったのだが。そしてラムは昨晩のランとのやり取りを思い出していた。

「あ、ランちゃん。まだ起きてたのけ?良かったっちゃ〜」

「ラム〜…おんどれ〜、どーゆーつもりでダーリンの親とテンをこっちに寄越したんじゃいっ!」

「ごめんちゃ、ランちゃん…これには色々とワケがあって…悪いけど朝までそこに…」

「何言うとるんじゃーっ!今すぐっ!引き取りに来んかいっ!こっちはいい迷惑じゃっ!」

「わ、わかったっちゃ、ごめんちゃ、ランちゃん。今すぐ転送するから、ちょっと待つっちゃ」

ラムはランの剣幕に気おされて、心臓バクバクな状態で、あたるの部屋で使ったのとは違う転送装置を操作した。

「今、転送し終わったっちゃっ」

「人に迷惑かけといて、言うのはそれだけかいっ!?“散々迷惑かけて悪かったっちゃ〜”とか“今度何かご馳走するっちゃ〜”とか、他に言う事あるやろっ!?」

「あ、ああっ、そ、そうだっちゃ〜、たくさん迷惑かけたから〜今度お茶でもご馳走するっちゃ〜…あはは、ははっ」

「もちろんっ!ラムのおごり、やろなぁ?また難クセつけて、“割り勘だっちゃ〜”とかぬかしよったら…」

「心配しなくても大丈夫だっちゃ〜…ちゃ〜んと、ウチが全部ご馳走するっちゃ〜」

「ところで、ラムッ。さっきの通信、途中で切れたやろ?」

「そ、そうだったちゃねぇ…きっと機械の調子が悪かったんだっちゃ〜」

「機械のせいかどーかは置いといてやっ。あの続き、今から聞きたいやろ?」

「で、でもぉ〜もうこんな時間…」

「時間なんぞ関係あるかいっ!とにかくワシの話くらい最後まで聞かんかいっ!…友達甲斐の無いやっちゃな」

結局何だかんだ言っても、ランはただ単に、レイとの話をラムに聞いてもらいたかっただけらしい。そしてまたしても…もじもじした喋りが延々と続き…。

「でねぇ…レイさんとぉ〜…映画、観てきちゃったっ♪」

(何したかと思えば…映画観てきただけなのけ…でもレイにしちゃ、珍しいっちゃねぇ…どういう心境の変化だっちゃ?)

「ほら、“スペースシアター413”って、大きな映画館があるでしょう〜?いっつも1000本くらい上映してるところ」

「ああ、色んな星の映画を集めた大型の…アミューズメントシアター、だっちゃね、確か」

「でねぇ〜その中に〜レイさんが好きそうな〜映画があってねぇ〜♪」

要約すると。3Dのバーチャルな食べ物ばかり出てくる作品があったそうだが、実際に食べた気分になれるのだそうだ。大食漢の宇宙人御用達・空腹感一時しのぎ用映画【MANPUKU】。
その作品が気に入ったレイ、その後も足繁く通っているそうである。もちろん“食べた気分だけ”なので、上映が終了すると同時に空腹状態に戻るそうだが。

(…レイにぴったりの映画だっちゃ…)

ランの話に付き合っていたら、夜明け頃になってしまい、結局ラムはそのままUFOで眠る事にしたのだった。
それをあたるに簡単に話し終わると、ラムは大きなため息を吐(つ)いた。

「はぁぁ〜〜…疲れたっちゃ〜〜…」

そのラムに対して、あたるがひと言。

「しかし何も…シャワー浴びてるフリして、オレをたばかってUFOに行かんでも…いいだろーが」

「だって…部屋に戻ったら、またダーリン…寝かしてくれそうにないんだもんっ」

「…アホかっ…」


そしてその日はプールに行って、帰りに軽く食事をしたふたり。家路につく頃には、すっかり暗くなっていた。
ふと、立ち止まって夜空を見上げる、ラム。

「ん?どーしたんだ?急に」

「…ううん、何でも無いっちゃ」

「…もしかして…ホームシック、か?」

「そんな事無いっちゃ、全然」

そして再び、ふたり並んでゆっくり歩き出した。

「なぁ、ラムは、星に帰りたいな〜とか、思わんのか?実家が恋しいとか」

「どうして?UFOがあるし、帰ろうと思えばいつでも帰れるっちゃよ。だからホームシックになった事とか、無いっちゃ」

「ふーん…でも星には両親や友達もいるだろ?地球に来て、寂しいとか思わんのか?UFOでいつでも帰れる、とは言っても」

「だって、ダーリンが一緒にいるんだもんっ♪全然、寂しいとか、思った事無いっちゃ♪」

「あ、ああ…そうか…うん…」

「ダーリンが一緒なら〜、地球じゃなくても、どこでもいいっちゃ♪」

ラムはそう言って無邪気に笑いながら、あたるの腕にしがみついた。

「ちょっ…暑苦しいだろっ、普通に歩かんかっ」

「イヤなの?ダーリン」

「外でイチャつくのは…あんまり…好かんっ」

「家の中だったら…何しても平気なのに?」

「何恥ずかしい事言うとるんじゃ、アホが…つまらん事言っとらんで、さっさと家に帰るぞ」

「うんっ♪早くおうちに帰ろ、ダーリンッ♪」

それから…。

「うっ…うんっ…あ、あ…あ…!」

あたるに背を向けて声を上げるラム、ラムの腰を抱いて彼女に送り込むあたる。
今夜も…飛び散る汗に含まれた、馥郁たるふたりの匂いが、部屋中に立ち込める。
部屋の空気が心なし、白くなったように、見える。

「…ずっと、いつでも…ここが、ウチの、家?…」

「…ああ…」

「…でも…ダーリンがいる場所なら…そこがウチの帰る家、だっちゃ…」

「…うん、そっか…」

互いの馥郁たる匂いが立ち込めてさえいれば…そこがどこでも、帰る場所になる。

--- E N D ---

あとがき


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