例えばこんな日々11 〜いつもいつでも〜

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<<ACT.1>>

すっかり夜も更けた頃、ふたつ並んだ敷布団に、小山のように盛り上がっている、ダブルの大きな掛け布団。
極々普通のアパートの、それほど広くない一室は、誰かの寝所になっていた。

ごそごそとした衣擦れの音。掛け布団の中から聞こえてくる甘えるような呻くような声。掛け布団が波のようにうねっている。バサリ…波打っていたそれが中にいた者によって脇に払いのけられた。

「熱くて…息苦しいっちゃ…お布団被ったまんま、じゃ…ウチ、窒息しそう…」

「少し涼しくなったから、布団を出してみたが…無い方が、いいな…」

「…だっちゃ…」

毎度の事ながら…今夜も“しっぽり”と、あたるとラムは戯れていた。

「そういや、今夜は満月だったな」

「さっきお月見してたの忘れたのけ?」

「…忘れた…」

汗を垂らしながら、あたるはしらっとした顔で、ラムの女の部分に手を伸ばす。

「ラムだって…月見の事なんぞ…すぐ、忘れちまうくせに…」

「あっ…」

「ラムはたま〜に、“飛んじゃう〜”、とか言う事があるが…普通に空飛ぶのと、どっちが…気持ち…いいんだ?」

「…こ、こっち…」

なぜか満月の夜は、人の欲情を際限無く高めるようだ。
あたるはラムのカラダに甘えながら…布団脇に手を伸ばした。その間も片手はラムの熱く火照った秘唇の狭間で、泳ぎ続けている。

「お前のここ…もうこんなに…ぐずぐずだぞ…」

「…ダーリンの、だって…もうこんなに、なってる…くせに…。今夜は…ナカがいいっちゃ?それとも…」

「そんな決まりきった事、聞いてどーするんじゃ…」

そんな夜の言葉を交わしながら、あたるは指の1本を、ラムの蕾に挿し込んだ。伸縮自在のしなやかな筋肉で出来たラムの蜜腺は、ほど良いぬめりと熱と柔らかさで出来ている。

「ダーリン、たら…もうっ…あっ…」

柔らかなカラダとはいえその肉体を支えているのは、コツコツ、コリコリした感触の骨だ。肉体の要所要所で確かに感じる、ラムとあたるを形作っている、硬くて手応えのあるもの。

もし、屋台骨であるそれが無かったら、海月(くらげ)同然だったろう。お陰でふたりは、時たま骨が軋むほどにきつく抱き合い、愛し合う事が出来た。

ラムはあたるの指で軽く飛んだ。1本が2本になり、蜜腺の比較的浅いところにあるスポットを、陽の物とは違う緩急をつけた動きで、押し広げるように刺激してやる、あたる。
そこからは…例えば、肉団子をこねる時のような…粘りけがあって何かが形を失いゆっくり崩れていくような、音がした。

ラムは、あたるの指の悪戯だけで、何度も飛んだ。その度に極々小さな雷をカラダの各所から撒き散らし、ふたりのいる場所は、切れかかった蛍光灯のような不規則な光の明滅を繰り返していた。

そして布団脇に片手を伸ばしていたあたるは、その手に何かを握っていた。


それより少し前に、時間は遡る。

「ね、ダーリン。これ…何だかわかるけ?」

タイトなチャイナドレス風の虎縞模様の衣服に、長い髪を後ろでゆったりと編んだスタイルにした、成人後のラム。あたるの実家を出てアパートを借り、ふたりきりの生活を送るようになってしばらくしたある日、ラムはあたるに赤と青のふたつの小瓶を見せた。

「何じゃ、それは?」

「ほら、むか〜し、変な白衣の男が、ウチに使って…ダーリンとエッチさせた、あの時の薬だっちゃ」(*1)

「げっ…何でお前がそんなもん持ってるんじゃっ」

「あの後あの場所から、薬の調合法が書いてあったメモを…くすねてきたっちゃ」

「だがあそこは、ラムの電撃ですっかり崩壊しただろーが。何でそれが残ってたんだ?」

「あそこが崩れた後に、壊れたはずのプリンターから、勝手に吐き出されてきたっちゃ」

「何でわざわざそんなもんを持ってきたんじゃ。お互いひどい目に遭わされただろーがっ」

「何かを調合する計算式だっていうのはすぐわかったし、ウチ理数系得意だから、何が書いてあるのかなーと思って、持ち帰ったっちゃ」

「で、持ち帰ってわざわざ同じもんを作ったのか?…何を考えとるんじゃ…」

「調合法のメモの事、ずっと忘れてたけど、この間UFOでたまたま見つけたっちゃ。…で、ちょっと試しに、作ってみたっちゃ」

「しかし何で瓶がふたつなんだ?赤と青、っちゅー事は、中身が違うのか?」

そしてラムはニッコリ笑いながら、コルクで栓をした青い小瓶をあたるに差し出した。

「こっちがダーリン用だっちゃ♪で、赤い方がウチのだっちゃ。効果は弱くしてあるから、昔みたいな大変な事には…ならないはずだっちゃ」

「…しかし…お前が作ったんだろ?オレははっきり言って…使うのは気が進まんっ!」

「え〜、どうして〜?せっかく作ってみたのに〜」

「だから昔っから口が酸っぱくなるほど!何べんも言うてるだろうがっ!ラムが作ったもんを口にして無事だったためしがあったか!?」

「メモの通りに作ったんだから、地球にあるものしか使ってないっちゃよ。ちょっとだけ応用して、ダーリン用のも作ってみただけで」

「…ホント〜にっ!大丈夫なのか?いや、その前にどうやって使うんじゃ?これは。口にしたりするんなら、オレはお断りじゃっ!」

「飲むのが嫌だったら、匂い嗅ぐだけとか、体に塗ってみるとか…。それで十分だっちゃ」

「…で、一体何が入っとるんじゃ?」

そう聞かれて、ラムはちょっとだけ恥ずかしそうな仕草を見せた。

「…ダーリンが〜…興奮、するように〜…ウチの〜…」

ラムがそこまで言いかけたところで、あたるは“ごくり”とのどを鳴らした。

「ラムの…何が、入っとるんじゃ…?」

「…だから〜、ダーリンと、エッチする時の…ウチの…アソコの、分泌液…だっちゃ…。ちゃっ♪」

「…うーむ…今すぐ、栓を取りたい気も、するのだが…。…あ」

「どうしたっちゃ?ダーリン」

「どうもこうも…ラムの話を聞いただけで…。飲まんでもいいなら、今すぐ開けてみていいか?」

「…もしかして、ウチの言った事聞いただけで?」

「…そういう事…」

「だーめ。ちゃーんと、夜まで…待つっちゃ、ダーリン。いくらお休みだからって、まだ明るいんだし、これから夕ご飯のお買い物に付き合ってもらうんだから。…ちゃっ!」

あたるはいきなりラムの肩を掴んで、キッチンのテーブルに押し倒そうとした。

「だったら明るいうちから、こんなもの出すな、っちゅーんじゃっ!とにかく軽〜く、1回っ!でないと、表に出ても落ち着かんっ!」

「…もしかしてもう使うつもりけ?」

「…いや、これは夜のお楽しみ、っちゅー事で…とりあえず、フツーに…」

「だったら…ここじゃ、ちょっと…」

というようなやり取りをした後、ふたりは明るいうちから寝室に入り…。

「…あっ、あっ…あんっ…か、軽く…って、言った、のに…はぁっ!…」

「ラムからっ…その気にっ…させおった…くせにっ…何をっ…言って…おるん…じゃっ…」

寝室は少し薄暗いとはいえ、午後の陽光が満ちたアパートの中だったから、ラムの快楽に歪んだ顔が、夜よりよく見える。眉根を寄せて、口を開き、声を漏らし続けるラム。

「あ、あぁ…あっ、あっ、あぁっ!そ、んな、にっ…!突いた、らっ…ああぁっ!」

それから間も無くして、あたるはラムのナカで達した。

「ダーリン…お買い物に…行かない、と…」

互いに脱力した後、ふたりは軽く息を弾ませながら身を起こした。

「ダーリンたら休みになると…たまに明るいうちから…エッチになるっちゃね〜」

「学生ん時と違って、休み以外は一緒の時間が少ないだろ?…しかし昔はそれが…ちょっとな」

「ちょっとな…って、一体何が言いたいっちゃ?」

「24時間、ほとんど一緒だったろ。…つまり、それがちょっと、な」

「つまり、家でも学校でもずっと一緒だったのが、ちょっとな…って事け?」

「そう思う事だってあるわっ。しかし今は、休みの日くらいしかずっと一緒にいないだろ?」

「つまり仕事に行ってる時は、ウチが恋しいな〜、って思ってて…で、休みになると寂しかった気持ちを埋めるのに、こんな時間から…って事?」

「…何もそこまで…思っとらんわっ…」

「だってそう言ったっちゃ。ずっと一緒じゃないから、って」

「…うっ…(またうっかり余計な事を言ってしまったではないかっ)」

「でも、ウチは嬉しいけど♪」

「…それじゃあ、買い物行くの、やめとくか?」

「何言ってるっちゃ。もう材料ほとんど残って無いし、缶ビールの買い置きも無くなったっちゃ。それに軽〜く…だったんだから、今からお買い物行くっちゃっ!ウチの力じゃ缶ビール1箱なんて、持ち帰れないっちゃよ」

そしてふたりは軽く汗を流して着替え、買い物に出かける事にした。玄関で先に靴を履いていたあたるに顔を寄せたラムが、こそりとひと言。

「今夜はスタミナのつくものがいいっちゃ?…あ、でもニンニクだけは絶対使わないけど」

「…あのなぁ、ラム。お前、わざとなのか?」

「何が?」

「だから…どーしてそう、アレと結びつくような事をすぐに言うんじゃっ」

「ダーリンが勝手にそう思うだけで、ウチは別に…。あ、そうだっちゃ」

「何だよっ!?」

「さっきの薬、今夜早速、使ってみるっちゃ♪」

「だ、だから〜〜っ!そういうのはやめいっ、っちゅーんじゃっ!」

「そ、そうけ…わかったっちゃ。で、今夜はちょっとふんぱつしてお肉にするけ?スタミナつくように♪」

「…ラム、お前なぁ〜…わざとなのか!?それとも気が付かんで言っとるのか!?…いや、昔っからそういうところはあったからな…もう、どーでもいいわ…」

「ダーリンたら、ひとりで何言ってるっちゃ」

ストレートで悪気の無いラムは、アッケラカンとしてそう言った。そして買い物に出かけた帰り、あたるは山ほどの荷物を持たされ、ぶつくさ言っていた。

「お前だってもうちっと荷物持てるだろ?重たいもんはぜーんぶこっちに押し付けおって」

「ウチは非力なんだから。それに妻をいたわるのが、夫の務めだっちゃ」

「…何を言っとるんじゃ…」

この頃になると、さすがのあたるも、ラムの言う“妻・夫”やら“夫婦”という言葉には、ほとんど反論しなくなっていた。

(結婚しとらんでも、さすがに実家を出て同棲、っちゅーところまでくると、な…。ま、ラムの好きなように…言わせとくか…)

あたるはそんな事を空で思いながら、結局アパートに着くまで、重たい荷物を持って歩き続けた。


<<ACT.2>>

「今夜は満月で月がきれいだっちゃ。お月見ついでに夜の散歩っていうのはどうだっちゃ?ダーリン」

「月なんかこっからでも見えるだろうが。何をかったるい事を」

「せっかくお団子も買ってきたんだし、たまには夜のデートもしてみたいっちゃ!」

「何もわざわざ夜にデートせんでも…」

「文句ばっかり言ってないでっ!一緒に行くっちゃ!」

そしてラムはあたるを無理矢理引っ張って、月が煌々と輝く夜の散歩に連れ出した。連れ出したまではいいのだが…元から気が進まなかったあたるは、時々ラムに文句を言いながら、月に照らされた夜道を歩いていた。

「だからわざわざ外に出てまで見るもんでも無いだろーが」

「昔はダーリンの家の屋根でお月見したりしてたのに?何でそんなに嫌がるっちゃ?」

「そりゃまぁ…風流といえば、風流だが…。そんな事より、小腹が減ってきたな。食うもん持ってきてるんだろ?」

「もちろんっ。お月見用のお団子とお茶とビール、持ってきたっちゃ♪でもちょっと重たいから、ダーリン持って」

「…あーまったく、イチイチうるさいっちゃねぇなぁ。自分で持ってきたくせに、甘えるな、っちゅーんじゃっ。…ほれ、持ってやるから…」

「ダーリンやっぱり、優しいっちゃ♪」

「適当な場所で団子食ったら、すぐ帰るからな」

「たまには外でゆっくりしてみたいっちゃ」

「…ゆっくり、って…何を…?」

「ゆっくりお月見して、散歩して、ロマンチックに過ごす、って意味だっちゃ!すぐそういう事ばっかり…言うんだから、ダーリンはっ」

その後、ふたりは…というと。住宅街の外れにある公園のベンチで月見をしていた。
ベンチに座って月を眺めているラム。あたるはその隣で黙々と団子を食べていた。そして何の気無しに、隣にいるラムに目をやった。月明かりに照らされている彼女の横顔を見て、あたるはちょっとだけドキリとしてしまった。

ラムはいつも、ムードがどうとか言ってばかりだし、自分の気持ちを微塵も隠す事無く、“好き”だの“愛してる”だのと言ってくる。が、あたるにとってのラムへの愛情表現…というか、気持ちを表す手っ取り早い方法は…つまり、“行動”で示す即物的なやり方くらいしか思い付かない。

肝心な言葉は最期の最期まで言うつもりは無かったが、その時ラムはどんな反応を示し、どんな顔をするのだろう…と、あたるはラムを見ながら、ふとそんな事を思った。

(オレが先じゃないと…結構辛いもんがあるだろうとは、昔も思ったが…もしオレが先だったら、ラムは、どうなんだろうな…。学生ん時ランちゃんのケーキでオレが死んだと勘違いしたこいつ、あんなに泣いとったしなぁ…。そう考えると…ラムを独りで残しとく、というのも…ちょっと、な…)(*2)

「あれ?ダーリンどうしたっちゃ。目に涙いっぱい溜めて。満月が眩しいのけ?」

「お前の見間違いじゃ…。なーんでわざわざ月見をしに来て泣かんといかんのじゃ」

「変なダーリン。ほら、ちゃんとハンカチで拭かないと。鼻まで出てるっちゃ」

ラムはあたるが「そんなもん出とらんっ!」と突っぱね続けるのもお構いなしに、あたるの顔を拭き続けた。そして拭き終わったところで軽く笑いながらラムが言った。

「ホントに子供みたいで世話が焼けるっちゃね〜ダーリンは。もしウチが先にいなくなったら、後がものすごーく、心配だっちゃ」

それを聞いたあたるの涙腺は、再び緩んでしまった。涙なんぞ見られたくないあたるは…ラムにしっかり抱き着きその肩に顔をうずめた。そして小さな涙声で。

「ラムの…アホ…バカタレ…」

そう何度も呟いた。その間ラムは、昔より広くなったあたるの背中を、小さく細いけれども柔らかく温かい手のひらで、いたわるように撫でさすり続けた。何度も何度も。

それからしばらくして、アパートに帰ったふたり。キッチンテーブルのイスに座って、さっきまでの事を…あたるは半ばヤケっぽい口調でラムに言っていた。

「くれぐれも言っとくが、お前がおかしな事を言ったせいだからなっ!」

「あんなに目を腫らしてたくせに何言ってるっちゃ」

「…ふんっ…」

「長く外にいたから、すっかり冷えたっちゃね、ダーリン。でもぉ…何だかダーリンらしくないっちゃねぇ〜そんな顔して」

「そんな顔って、どーゆー顔じゃっ!余計なお世話じゃ」

「ダーリンが元気無さそうだから、ウチ先に寝るっちゃ」

ラムがそう言った途端、あたるは何かに弾かれたように、イスから立ち上がった。そしていつもの調子で、ひと言。

「お、そうじゃ、忘れてたっ!」

「もしかして〜これの事け?」

ラムはテーブルに置いていた赤と青の小瓶を指差して、ニッコリ笑いながら、そう言った。

「そういうところがダーリンらしいっちゃ。…それじゃあ、そろそろ…試してみるけ?…ダーリンが、ど〜んな風になるのか…ウチね…」

そしてラムもイスから立ち上がると、彼女からあたるに絡み付いていった。あたるの腕が、自然とラムの腰に回る。どちらからともなく鼻先を近付け合うと、ラムから軽くキスをした。そして唇を離した直後、生温かい吐息混じりの声で。

「…ウチね…ダーリンが…どんな風になるのか…た・の・し・み…だっちゃ…」

ラムは虎縞柄のドレス下の片足を膝を曲げて持ち上げると、ズボンの上からあたるの足に擦り付けてきた。縦長のスリットからはみ出した生足を、マーキングする猫のように、何度も上下に往復させ擦り付け続ける。

そしてふたりは一気に深いキスへと進行し…あたるはラムの細い腰が軋みそうになるほど腕に力を入れて、抱き締めた。間も無くラムの両足がふわりと浮き、それであたるの腰を挟むと、ディープなキスを続けながら、彼にしっかとしがみ付いた。

ラムを抱きかかえて、あたるはふたりの寝室に入っていった。既に布団は敷いてあり、すっかり涼しくなったこの時期用の、ふたりがすっぽり隠れるほど大きな掛け布団を、あたるは足で蹴飛ばし、めくり上げた。

抱えていたラムを下ろして衣服を脱がし、髪を解いてやる。ラムももどかしそうにあたるのシャツのボタンを外し、その間にあたるは自分でズボンを下ろした。互いの大事な部分を隠している下着は…掛け布団の中に潜り込んだ後、もぞもぞと絡み合いながら、我先にと手をかけ脱がしていった。

ラムのくすくす笑う声と、あたるの「ちょっ、おいっ、やめろって…ラム…」という笑い混じりの声。掛け布団でこもり気味の、そんな声や言葉が少しの間だけしていたが、やがて静かになり…ラムの、甘えるような呻くような、そんな夜の声が…掛け布団を波打たせながら、聞こえてくるだけになった。

やがて中の熱気で暑くなったふたりは、掛け布団を脇にどけて、カラダを合わせ続けた。ラムは…あたるの指で、何度も飛んでいた。
そして、あたるは…ラムが用意した、例の赤と青の小瓶を、その手に握っていた…。


<<ACT.3>>

汗ばんだカラダ、ふたりの全身から発散されている熱気。あたるはラムの陰部から一旦手を引くと、膝と腕を布団に着いて、四つん這いの格好になった。そして片手に握っていた、例のふたつの小瓶を口元に持っていった。

あたるはまず青い瓶のコルク栓を軽く噛むと、手首を回し瓶をひねってそれを抜いた。中の液体を嗅いでみると、麝香を少し薄めたような官能的な香りが、小瓶の口からふわりと零れてきた。その香りだけでもあたるのカラダは熱くなり、脈動が速く大きくなっていくのがわかった。

(匂いだけでこうなるんなら、カラダに付けたり…飲んだりしたら…どうなるんじゃ…?)

どくどくとカラダを巡って、陽の物に集まってくる、マグマのような色の、真っ赤な体液。それがあたるの物を骨でも通したように、一気に硬く起ち上がらせた。匂いだけでもこれだけの効果にあたるは正直驚いた。驚いてはいたが、薬のせいなのか、既に理性は本能によって押し潰され、それの残骸が頭の片隅に僅かに残るだけになっていた。

そしてほとんど何も考えないまま、あたるは青い瓶を頭上に持っていった。おもむろに瓶の口を下に向けると、自分の後頭部から首、肩の辺りにかけて中の液体を振り撒いた。それがじんわりと肌に染みてくるように感じた、その瞬間。

(どくんっ!)

一気に血液量が増えたような気がしたあたるは、全身が大きく揺れるのを感じ、激しい目眩に襲われた。

一方、あたるの下に横たわり、何度か軽く達していたラムは、はぁはぁ…と息を吐(つ)きながら、今まで閉じていた目を開けた。そのラムの目に入ったあたるの姿は、苦悶の表情を浮かべ、いかにも苦しそうな、大きくてテンポの速い呼吸をしていた。このままではあたるが過呼吸で倒れてしまうのじゃないか…とラムは心配になってきた。

「ダーリン、ダーリン?大丈夫け?」

ラムはカラダを起こしてあたるの肩を掴み、心配顔で、苦しそうにしている彼の顔を覗き込んだ。

「も…もう…駄目、じゃ…」

顔をしかめつつ弱々しげな声で唸るあたる。ラムは驚きと困惑と悲しみが綯(な)い交ぜになった表情と声で、あたるを呼んだ。

「ダーリンッ!?しっかりするちゃ!」

「…いや…もう…駄目、じゃ……がはっ!げへっ!ごほっ!」

「嫌だっちゃ!もうウチを独りにするつもりけ!?まだまだ…たくさん…いっぱい…ずーっと…一緒に……ぐすっ…」

「…と、とにかく…早く…」

「ごめんちゃ、ダーリン…ウチが作った薬のせいで…。ダーリンのためなら、ウチ、どんな事だってするっちゃ…だから…だから…」

「いや…ホントに、もう…早いとこ…」

「死んだら嫌だっちゃーっ!ダーリンッ!」

「…おい、一体何を言っとるんじゃ、ラム。オレならほれ、どうじゃっ!さっきからもう〜妙に興奮し過ぎて、熱くて熱くてかなわんっ!つまり早いとこ、どーにかせん事にはっ!もーーーっ!辛抱っ、たまらーーーんっ!!」

「…心配したウチがバカだったっちゃ…それにしても〜やっぱり、すごいっちゃねぇ〜…ダーリン元気いっぱい、だっちゃ♪」

「という事で。ほれ、ラムもこれ…」

あたるは赤い方の小瓶の栓を抜くと、ラムの唇に宛がい、ほんの少量だけ彼女に飲ませてやった。

「…何だか…もう、ウチ…あっちこっち、熱〜く、なって…きたっちゃ…」

「あっちこっちって、どこが?」

「んも〜、ダーリンの意地悪っ。…わかってるくせに…」

「こうして喋っておるのも、もったいないっ!ほんじゃま、あたるっ、いっきま〜〜すっ!!」

「もちろん、イク時は…一緒、だっちゃ…。ダーリンたら…やんっ、もうっ…ほ〜ら、ここだっちゃ…焦って外したり…あっ…す、するわけ…無い、っちゃ…ね…。…あ、あ…あ…!」

あたるはラムを仰向けにして、女体のぬかるみに深く深く挿入すると、恥骨同士を押し付けあった。あたるの股間の硬い部分がラムの陰部の柔らかい唇を割り開く。その下にあるラムの硬い恥骨。柔らかくも手応えのある熱くぬめったその場所に、あたるは何度も股間をぐりぐり押し付けた。

「あ、あぁっ…あ、あ…ちゃあっ…!」

(ぬちぬち…ぴたぴた…ぬちぃ…ぐちゅ…ぐちゅ…)

あたるによって広げられたラムのあの部分。女の陰の部分に深く突きささっている男の陽の物。そこから聞こえてくるのは、交合をスムースにする体液による夜の営みの音。
深く挿入しながら、ラムのたっぷり濡れている柔らかな秘唇と密着しているあたるは、腰をせわしなく動かしていた。彼女のぬめったスリットの、陰毛で覆われている付近から顔を覗かせている陰核周辺に、あたるは軽く圧力を加える程度の体当たりを繰り返した。

「だ、めぇ…!そ、そんなに、したら…ウチ…あ、あ、あぁ…!は、あ、ぁ…い、イイ…」

恥骨によるあたるからの圧力が、ラムのぽってりとした厚い唇とその狭間の敏感な部分を、潰しながらこねている。正面から、脇から、下方から、そして全てを複合した方向と力加減で、自由奔放な欲情のままに、あたるはラムをぐいぐいと攻め続けた。間断無い攻めは、ふたりの交接した箇所から、ねちょ…ぐちょ…という淫らな音を絶え間無く響かせる。

「あ…う…ラ、ム…ぅ…」

「ダァ、リン…の、で…あ、ぁ…き…気持、ち…い、い…っちゃ…あ…う、んっ…!」

先の薬であたるの体力は衰える事を知らなかったし、ラムはいつもよりあたるに多くを求め、いつもより多くの声を上げていた。

「ダーリン…ダーリンッ!…ダーリンッ!!」

「ラ…ム…」

あたるは下半身をラムのナカで懸命にしごき続けていた。が、いつもならとうの昔に1度は達していてもおかしくないのに、そしてカラダの快感はピークを迎えているというのに。
今一歩というところまできても、なかなかラムのナカで達せないもどかしさに、あたるは一旦自身の物を抜きかけた。

「あっ…ダーリン…抜いちゃ…イヤ…」

ラムのその言葉とほぼ同時に、しなやかな筋肉で出来ている彼女の膣道とその入り口が、きゅうっ…と締まった。しかもいつもより強い絞まり具合だ。もちろんあたるを痺れさせている微弱放電も忘れない。
そしてラムに引き止められたその刹那、頭打ち状態だった快楽が、栓を抜いたように、あたるの陽の物から一気に噴き出した。

「…うっ…ラ…ムぅ…ぅ…」

ようやく溜まりに溜まっていたものが押し出されたあたるは、ラムのラヴ・オイルを引きずりながら、一旦自身の物を彼女のナカから引き抜いた。たらり…と糸を引いて零れる、ふたり分のラヴ・オイル。

「ダーリン…ダーリン…もっと、ウチ…の、ここ…に…」

ラムは自身の陰の部分を薄暗い部屋の中で大きく広げて、あたるに求めてきた。彼女はまだ大きく飛翔するところまで達していなかったのだ。あの薬のせいで、あたるを誘うラムの匂いがいつもより強く発散されている。

「はぁ、はぁ、はぁ…ラム…」

たった今ラムに骨抜きにされて、くったりしていたあたるの陽の物は、薄闇の中のラムの声と匂いで、再びエネルギーの充填が始まっていた。しかしエネルギー充填100%超になるまでには、少し時間がかかる。あたるは息を荒げながら、その間をどうしようか…と思っていた。その目に、まだ中身が残っている赤い小瓶が入った。そしてそれを手にしたあたるは…。

(たらり…ぽたっ…ぽたっ…)

「はぁっ…はぁっ…あ、あぁ…熱い…っちゃ…ちゃあっ…ダーリン…だめぇ…」

瓶の中身を少量ずつ、ラムのカラダに滴らせていった。唇、首筋、乳房と乳首、ヘソ…。カラダの縦の線に沿って、液体を落としていく。ぽたっ…。ラムの肌にそれが落ちるたびに、彼女はカラダをくねらせて、熱い、熱い…と言いながら、自身の手をカラダに這わせて、淫靡な仕草を目の前のあたるに見せた。

「あ、熱い…っちゃ…ああっ…」

薄く発光する、ラムのカラダ。そしてあたるは瓶の中身を、大きく広げられているラムの陰の部分に“ぽたぽたっ”と数滴落とした。

「はあぁっ…!じ…じんじん…して…もの、すごく…熱く、て…」

(ぐちゅ…)

「ダー、リン…ダァ…リン…は、早くぅ…ウチ、ウチ…このまま、じゃ…ああっ…」

そう言いながら、ラムはあたるの目の前で…ラム自身の手指で乳首を転がし、もう片手の指を陰の部分に這わせだした。いつもより多く分泌されている愛液の溜まり場にラムが自分の指を挿し入れた時、先の粘っこいぬかるみ音がそこからした。

「ラム…」

あたるは“ごくり”とのどを鳴らして、ラムが陰の部分で蠢かせている手に自分の手を添えた。そしてもう片手に持っていた赤い小瓶の残りを全部、陽の物に振りかけた。
薬自体はラム用に調合してあるので、あたる自身は何も感じなかったが、ラムの痴態を見、添えた手を共に動かして、彼女の甘い呻き声をどんどん引き出していくと、エネルギーの充填速度が速まったような気がした。

そしてラムに顔を寄せて、あたるが囁いた。

「まだ…飛べんのか?…」

「…だっちゃ…だから…ダーリン…早く…一緒に…」

今にも泣きそうに、あたるに求め甘える言葉を漏らすラム。

「ウチ…このまま、じゃ…ダーリンと…一緒に…飛べなかった、ら…死んじゃい、そう…」

ラムは本当に泣きそうになっていた。

「何を言っとるんじゃ…まだまだ、これからも、ずっと…オレと…」

「ダーリン…ダーリン…」

「いつも…いつでも、一緒に…飛ぶんだろ?」

「…うん…ダーリン…」

あたるの陽の物はエネルギー充填100%超になった。ラムのぬかるんだ深い部分の入り口にそれを宛がいながら、続けて言う。

「だったらもう…おかしな事、言うなよ…」

「え?おかしな事、って…何?……んっ…あっ…」

ラムの問いかけに答えないまま、あたるは黙って、ラムのナカへと、入っていった。


「あ…あ…あ…、ウチの、ナカ、が…熱い…っちゃ…あ…ア、ツ、イ、ィ…は、ぁ…ぁ…!」

あたるがあの“催淫剤”を陽の物にかけたため、ラムの膣壁にそれが染み渡り、彼が腰を一往復させるたびに、彼女はカラダを大きく小さく、ビクつかせた。震える声、甘くて切ない声、そして今にも泣きそうな声。
あたるもラムが調合した催淫剤のせいで、彼女のナカで自身をしごく事に無我夢中になっていたが、その耳には常にラムの様々な声が入ってきていた。

触覚と嗅覚でラムを実感し、聴覚で彼女に刺激され続けるあたる。しかしいきり立った陽の物は先と同じように、ラムのナカで何度往復させても、快感のピークから先に達する事が出来ずにいた。

この薬の効果は昔のラムで体験済みだった。カラダの感度がアップし、体液の量も増え、大胆さや激しさも増すのだが…。達するまでに通常よりも時間を要したし、最大級のアクメを迎えなければ薬の効果が消えない、という少々厄介な代物でもあった。

しかもあたる用のそれはラムが調合したものだ。飲んでいないとはいえ、なかなか達せない以外にどんな効果があるのか、皆目見当もつかない。
火が着いたように腰を動かし、ラムを揺さぶり続けているものの、あと一歩、というところで、快感の波が僅かに引いてしまう。

ラムも同じようで、あたるに両足を回して抱き着き下半身を力ませてはいるものの、なかなか達する事が出来ないようだ。
なかなか達せないもどかしさに、ふたりは揃って呻きながら、長い長い交合を続けていた。

ラムのラヴ・オイルだけが大量に分泌され続け、敷布団は汗と性交の体液を吸い込んで、じっとり重たくなっていた。
ラムのカラダが何度も仰け反り、薄く発光しつつ、あちらこちらからスパークを撒き散らしている。電気混じりのラヴ・オイルがあたるの陽の物に絡んで、先端から根元にかけてチリチリした痒いようなくすぐったいような、微妙な刺激を与えてくる。

「もう…ちょっと…で…ウ、チ…」

「オレ、も…もう…ちっと…で…」

「…ウチ、が…ほ、放電…して、みたら…も、もしか、して…」

「な…何、でもっ…いい、からっ…は、早いとこっ…して、くれっ…」

「あ…あ…愛、情…表、現っ…!」(*3)

(ビビビビッ…パリパリッ…パリッ…バチッ!)

「ラ…ム…くっ…うっ…!」

「あぁんっ!と…飛んじゃうぅぅっ!ダーリンッ!!」

(ビビビッ…ビビビビッ!バチバチバチッ!バチッ!!)

「ラ、ムッ…!…うぉっ…くぅっ…!」

「ダーリンッ、ダーリンッ!ダーリーーンッ!!」

(パリパリパリパリッ…ババババッ…ビビビッ!)

「あ、あ…!ま、た…と、と…飛んじゃうっ!!ちゃあぁぁっ!!」

「…うっ、おっ…!」

本当にラムの放電がきっかけだったのか、あたるは何度もラムのナカに発射し、ラムも“飛んじゃう”を連呼して、何度も達した。

「はぁ、はぁ、はぁ…も、もう…ホントに…駄目、じゃ…死、ぬ…」

「ウ、ウチ、も…もう、駄目…死んじゃ、う…」

あまりに何度も達したため、ふたりは本当に疲労困憊していた。やがてぐったりした状態のまま、ふたりは揃って眠りに入っていった。


<<ACT.4>>

「へーっくしょいっ!…ずずっ…」

「ダーリン、大丈夫け?」

「お前は…丈夫だな…はくしょいっ!…ところで、今、何時だ?」

「もうすぐ起きる時間だけど…。ダーリンちょっと、熱っぽいっちゃよ。寝冷えしたんじゃないのけ?お布団着ないで寝たから…」

「確かにちょっと、だるい…。それにちっと、寒気もするし…」

「今日はお休みした方がいいっちゃよ。無理してこじらしたりしたら、大変だっちゃ」

「…うん、そうするわ…」

「それじゃあウチが後で、会社に電話しとくっちゃ」

「…うん、頼むわ…オレ、もうちっと、寝る…」

「だけどお布団湿ったまんまじゃ、体に毒だっちゃ。ほら、ちょっと起きて。すぐ済むから」

ラムは押入れの中をガチャガチャと引っ掻き回して、大きなスプレー缶とテレビのリモコンのような物を出してきた。

「…相変わらず、騒々しいな…ずずっ…」

「ほら、ちょっとだけそこどくっちゃ。あ、その前にこれかけて」

ラムは黒いサングラスをかけて、あたるにもかけるように言って手渡した。

“消臭剤”と書かれたスプレーでまずは汗と性交の匂いをすっかりクリーンにし、次にリモコン大の機械のボタンをいくつか押した。
すると機械の端っこから小さな光の玉が飛び出し、天井付近に留まると、夏の太陽よりも強くて眩しい光を放ちだした。

「あちぃ〜…何じゃ、これは?」

「人工の太陽みたいなもんだっちゃ。昔はスプレーで乾燥させてたけど、こっちだと乾燥と殺菌が同時に出来るから、この前の梅雨の時期に買っておいたっちゃ。お布団干せない日はこれで布団干しが出来るから便利だっちゃよ♪」

「それにしても…暑過ぎないか?もう暑くてかなわんっ」

「嫌だったら他の所に避難してれば?…さ、もう終わったっちゃ」

「もう終わったのか?…ふむ、確かにもう乾いとるな。しかし晴れた日は外に布団干しとったのか?」

「そうだっちゃよ?何で?」

「…いや、この布団を、か?このでっかい…掛け布団も?」

「もちろんだっちゃ。もしかして、ダーリン…恥ずかしいのけ?」

「…何かいかにも…という感じがして…。へ…へ…へっくしょいっ!」

「今更何言ってるっちゃ。ウチら夫婦なんだから、こんなお布団使ってたって、別に…。でもダーリンが気になる、って言うんなら、これから中で干すっちゃ。…それにしてもダーリン、最近変わったっちゃね」

「どこが?」

「前ならウチが“妻”とか“夫”とか、“夫婦”とか言うと、必ず“誰が夫婦じゃ〜!”って怒ってばっかりだったのに」

「何だよ…変か?」

「どういう心境の変化なのかな〜、と思って。でもウチは、すっごく嬉しいけど♪さ、ダーリン、もう寝てもいいっちゃよ」

あたるはパジャマの上に1枚余分に羽織ると、布団に潜ってすぐに寝てしまった。それからしばらくして目を覚ますと、そろそろ昼に近かった。布団脇に目をやると、小盆に乗せた体温計と風邪薬と水の入ったコップが置いてあった。そして小さなメモも。

“ちょっとだけ出かけてきます。ラム”

「何じゃ、病人置いて出かけるとは…。しかしラムにしたら、さっき言っとったあのくらいの事が…そんなに嬉しいもんなのかね…。まぁ、恋人、っちゅーのも、何と無く違う気もするし、かと言って許婚…いや、これも何か違うな…」

とか何とか言いながら、あたるは体温計を口にくわえて熱を測りだした。それから間も無くしてラムが帰ってきた。

「病人置いて、どこほっつき歩いとったんじゃっ」

「お母様に病人食教えてもらいに行ってきたっちゃ。ほら、こっちに越してきてからダーリン病気した事無かったでしょ?」

「ああ、そう…そういう事、ね…」

そして夜になると、あたるの体調もほぼ元に戻っていた。

「随分回復するの、早かったっちゃねぇ〜、さすがダーリンだっちゃ。でも今夜はしっかり眠って、しっかり治しておくっちゃ」

「たま〜に病気するのも…まぁ、悪くは無いな」

「こんな風に1日過ごすのも、悪く無いでしょ?それに少しはウチのありがたみも、わかったんじゃないのけ?」

「な〜にを言っとるかっ。亭主の世話をするのが女房の…あっ」

「ふふっ♪亭主の世話をするのが女房の務めだ、って言いたかったんでしょ。ウチ、すっごく嬉しいっちゃ♪」

「…お前の聞き違いじゃっ。ラムがオレの世話をするのは当然だ、と言ったのだっ!」

ニコニコ笑いながら、ラムはいつものようにあたるの目の前で服を脱ぎだし、中身が透けて見えそうなネグリジェに着替えた。

「…おい、ラム…しっかり眠っとけ、と言ったくせに…」

「言ったくせに?ウチ、何かしたのけ?」

そう言いながら、ラムは部屋の明かりを消した。ふたりきりなので寝室の引き戸はいつも開けっ放しだ。だから二間続きの、大きな窓のある部屋から入ってくる光で、互いの姿は何と無く見て取る事が出来た。そしてラムは横になっているあたるの隣に潜り込んだ。

「お前はどーして、いつもいつも…わざとなのかそうじゃないのか、わからん事を…」

「何の事だっちゃ?さっきダーリンの前で着替えてた事け?あのくらい、とっくに見慣れてるんじゃないのけ?」

「確かに見慣れてはおるがっ!見慣れたからといって、何も感じんわけ、無いだろーがっ!」

「…また風邪ぶり返しても、知らないっちゃよ。それに、ウチにうつったりしたら…ちょっと長引くっちゃよ?それでも…いいのけ?」

「いや、それは…いや、しかし…いや、ラムが地球風邪引いたら…やっぱそっちの方が…困る」

「夕べはいっぱい…一緒に飛んだんだし…ほんの少しだけ、我慢するだけだっちゃ。たまにはこうやって普通に寝るのも…いいでしょ?ダーリン」

「…ま、仕方あるまい…。しかし次は、もうあんなもんは…使わんぞ。幸い副作用は無かったが…。いや!十分にっ!副作用アリじゃっ!」

「そりゃちょっと、大変だったけど…副作用なんか無かったはずだっちゃよ?」

「いいやっ!十分過ぎるほどあったわっ!つまりっ!なかなか行き着くとこまで行けんかった事がじゃっ!」

「そんなに力いっぱい言わなくたってぇ〜。ウチだって…なかなかイケなくて…大変だったんだから」

「やっぱ普通が一番、じゃ…。そうだろ?」

「やっぱり普通が一番…だっちゃね…。でも、今夜は…無し、だっちゃよ」

「まぁ、先は…長いから、な…」

そしてふたりは布団の中で、きゅっ、と手を繋いで…眠りに就いた。

翌朝、あたるを仕事に送り出したラムが部屋に入ろうとした時、隣の玄関ドアが勢い良く開いた。ラムが苦手なタイプの隣の奥さんが出てきたのだ。

「あらあら、今日も朝からお熱いことで、ホント〜に、羨ましいわ〜」

「そんな事、無いです、っちゃ…あはは、ははっ…」

「そう言えば一昨日辺りだったかしら〜、うちまた、夜中に漏電しちゃって、とにかく大変だったのよ。それも随分と、長〜〜い時間…。お陰で電気製品はおかしくなるわ、テレビやラジオにノイズは入りっ放しだわ、で…しかもっ」

「えっ…そ、それはまた〜、大変でした、っちゃね〜…」

「しかもっ!決まって必ず、夜の時間帯なのよねぇ。おまけに…妙〜な声まで…聞こえてくるし…。で、まさかお宅じゃ無いわよねぇ?きっとあそこよ、うちのお隣の。ほら、この間奥さんと別れた、っていう。で、きっとその部屋で…変なビデオでも観てるんじゃないかしらねぇ。嫌よねぇ、音くらいイヤホンで聞けばいいのにねぇ〜?」

ラムはお隣さんの回りくどい言い方にどう答えていいものか、しどろもどろになりつつ、「ウチ、これから出かけなくちゃいけないから〜」と言って、ようやくその場から離れる事が出来た。

「はぁ〜〜、やっぱりお隣さんには疲れるっちゃ〜。もうちょっと防音もしっかりしとかないと…。それにホントに出かけないと、また後で何言われるか、わかったもんじゃないっちゃ。…あ、そうだ」

正午頃、あるビルのエントランス前にラムはいた。

「今日はお弁当じゃないから、たまには外でお昼一緒、っていうのも、いいでしょ?ダーリン」

「前に会社に電話してくんな、って言っといただろーがっ。…周りがうるさいから…ほれ」

あたるが前を向いたまま、後ろをちょいちょい、と指差した。そしてラムが振り向いてみると。

「何だっちゃ、あれ」

「だからこっちに来るのだけは、やめとけって」

あたるの会社の男連中が、興味津々な顔付きで、ぞろぞろと着いて出てきたのだ。彼らを上手くまいたふたりは、適当な場所で軽い昼食を摂った。そして瞬く間に1週間が過ぎて、次の休みの前夜。

「やっぱりいつも一緒じゃないと、ウチつまらないっちゃ」

「普段は家の事やったりしてるだけか?」

「それだけじゃ退屈だもん。気晴らしに出かけたりしてるっちゃ」

「ふーん」

「で、明日はどうするっちゃ?」

「どうするって…何を?」

「デートの話に決まってるっちゃ。でもどうせ途中でガールハント始めると思うけどっ」

「そんなのは、昔っからの事だろうが。…気晴らしじゃ、気晴らし」

「ウチとデートしてるの、退屈なのけ?この間は、ずっと一緒じゃないから寂しい、みたいな事言ってたくせにっ」

「…そんな事言ったか?そんな細かい事なんぞ、イチイチ憶えていられるか…」

「もうっ…デートが嫌なら、ウチひとりで出かけてくるっちゃ」

「そうは言っとらんだろうが…」

「ダーリン、外だと手も繋いでくれないんだもんっ。…たくさんエッチしてるくせに、どうして外だと、普通のカップルみたいに手繋いだり、イチャイチャしたりとか、してくれないっちゃ」

「そんな恥ずかしい真似が出来るかっ」

「昔っからそういうとこだけは、変わらないっちゃねぇ〜。ダーリンの意地っ張りっ」

少し怒ったような嫌味っぽいようなラムの言葉を、あたるは無視して、キッチンのイスから立ち上がった。

「…さて、そろそろ…」

「ウチはまだ寝ないっちゃよ。テレビ観てるっちゃ」

「何だよ…怒ったのか?」

「1回くらい外で手を繋いでデートしてみたいのに。ダーリンちっとも、わかってないっちゃ」

「何も今更…手を繋がんでも…」

「ウチだって…普段のダーリンがいない時間は…ホントは退屈って言うより…寂しいっちゃ…。だからたまにはそうやって…デートしてみたいな〜って…思っただけなのに…ダーリンの、バカ…」

ラムの態度がしおらしくなったのを見たあたるは、しかしそれでも(人前で手を繋いで歩くというのは…)と、悩んでいた。

(そういや昔、ラムが“組野おと子”に変装してきた時に、手を繋いだ事があったが…あん時の初々しい気分を忘れたと言えばそうなのかもしれん…。しかも長年一緒におるわけだし…今更、手を繋いでデート、というのもなぁ…。まるで付き合い始めのカップルみたいではないか…うーむ…)

「何、深刻そうな顔してるっちゃ…ねぇ、ダーリン…」

イスから立ち上がったラムは、テレビのスイッチを切った。そしてあたるに寄り添い、彼の胸元に人差し指で“の”の字を書くような仕草で、甘え始めた。

「ダーリンとはずーっと一緒にいるけど、普通の恋人同士みたいなデートって、した事無いでしょ?初めて会ったのも…勝負するのが目的だったし…。一緒に暮らすようになったきっかけも、ちょっと普通と違ってたし…。でももし、普通に出会ってて、普通に恋愛してたら…少しは普通の恋人同士みたいだったのかなぁ…って、ウチ、思ったんだけど…」

「もし、普通に出会ってたら…ねぇ…。でも、それは無いだろ。地球とお前の星とじゃ距離が有り過ぎだったんだから。ああいうきっかけがあったから…今みたいになってんだろ?」

「侵略するターゲットの星が地球じゃなくて、コンピューターが適当に選んだ相手がダーリンじゃなかったら…」

「いや、多分それは無いだろ」

「どうしてそう言えるっちゃ?」

「いや…何と無く、な。あん時ああじゃなかったら…とか言うのは、意味無いだろ?今がこうなっとるわけだし…。まぁ、後は…行き着くとこまで、成り行き任せ、っちゅーか…」

「ダーリンが言ってるのは、無責任なんだか、行き当たりばったりなんだか、よくわからないっちゃ」

「そういう方が、小難しい事を考えんで済むからいいだろうが。それともラムは、イチイチそんな事心配しながら、オレと一緒にいるのか?」

「たま〜に、そう考える時だって、あるっちゃよ。もしダーリンがいなかったら…とか…」

「それじゃあ今、ラムの目の前にいるオレは、一体何なんじゃ?…オレの前にいるラムは、しっかり手応えがあるんだが…」

「ウチの手応えがあれば…それで十分け?」

「ん…まぁ、そうだ、な…」

「それじゃあ、明日のデートは…ちゃーんと手応えあるかどうか、手を繋いで、確かめるっちゃ♪…で、今からウチも…ダーリンの、手応え…確かめて、みたいっちゃ…」

「そういう事ならば、今すぐっ!十分過ぎるほどの手応えをっ!」

「…もうっ、せっかくいい感じだったのに〜…何だっちゃ、そのスケベそうな笑い方は…」

「なははははっ、まぁまぁ。ラムの言うムードとやらでは、手応えを確かめられんではないかっ!」

ちょっとだけ呆れ顔のラムだったが、すぐさま気を取り直してあたるの手を取ると、互いに指を絡め合いながら…ふたりの夜の部屋へと入っていった。

「でも…エッチな事だけで…手応え、確かめる…っていうのも…やっぱり、ムード…無いっちゃよ…あんっ…もう…ダーリンの…エッチ…」

「そう言いながら…オレとセックスして…いっぱい飛びたいんだろ?…いつもみたいに…」

いつもいつでも、変わらぬふたりの交わり。ラムの滑らかで吸い付くような肌に、甘えるようにカラダを合わせるあたる。

「あ、はぁ…い、いぃ…いっぱい…ダーリンと…、飛んじゃう、ぅ…ぅ…はぁんっ!」

「オ、レ…もっ…ラッ…ム、ぅ……うっ……」

ふたりは、いつも、いつでも、変わらぬままに。
これからも、その手で、肌で、互いを確かめ合い続ける──。

--- E N D ---

(*1)(*2)(*3)・・・「あとがき」に補足(蛇足)有り。


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