amnesia (例えば・実家編その6)


「もしあの時、ツノを落としてなかったら、どうするつもりだったっちゃ?」

「…知らん」

「ダーリンが転ばなかったら、ウチはダーリンがツノを持ってるなんて知らないままだったっちゃよ?」

「…だからあれは…あーもー、説明のしようが無いだろーがっ。偶然じゃ偶然っ。アンビリーバボー、っちゅー事じゃ」

「…何だっちゃ、その“アン…”なんとかって」

「…辞書で調べろよ…」

「そういえば…」

「まだ何かあるのか?」

「この間のホワイト・デーの次の夜…うふっ♪ダーリン、ウチと融けてひとつになってもいい…って、思ったでしょ?」

「んな事思っとらんわっ!気のせい、空耳じゃっ!!」

「だって思った事が伝わってくるんだもん。…時々だけど。だからあれ、ダーリンの本音け?」

「…イチイチ干渉するな、っちゅーんじゃっ…あーもー…うるさくてかなわんわっ」

「ダーリンにもウチが思った事、伝わってるのけ?」

「オレは人の事にも干渉しない主義なのっ!」

「だってダーリン…すっごくウチの事、わかってるみたいに…してくれるでしょ?」

「…だ〜か〜ら〜…偶然じゃ、偶然。というより、オレのテクニックの賜物じゃっ!」

ラムとあたるはUFOのベッドの中で、そんな会話をしていた。
あたるは時々あくびをしながら、ラムに答えている。
ラムは腹這いになって両肘を着き、上半身を起こした格好であたるとの会話をしっとり楽しんでいた。
仰向けになっているあたるが、ちらちらとラムを見ると、まろみのある胸のふたつの膨らみがやたら目につく。というかそっちにばかり目がいってしまう。

「もしこの間、あのままひとつに融け合ってたら…本当にふたりでひとつだっちゃ。それに、ずーっと、忘れなくて済むし…」

「ひとつに〜?んな気持ち悪い状態…想像出来んわ」

「ウチとダーリンの姿が合体したみたいになるっちゃ。例えば〜顔がウチで、カラダがダーリン、とか」

「…考えただけで、ぞっとするわ…」

「どうしてぇ?」

「オレの脳味噌はどこへいってしまうわけじゃ?」

「だから融合してウチとダーリンの考え方がごっちゃになるっちゃよ、きっと」

「…うるさくてかなわんだろうな…きっと…。ガールハントをしようとしたら…」

「ウチの思考がダーリンの動きを止めるんだっちゃ♪だからガールハントは一生出来なくなるっちゃ♪」

「…奇人変人ではないか、それでは…」

「で、さっきの質問の答えは?ツノを落としてなかったら、どうやってウチをつかまえるつもりだったっちゃ?」

「…つかまえておらんでも…」

「つかまえなくても?」

「…忘れない、と言っただろーが…」

「根拠の無い自信だけは、しっかりあるんだから。おかしなダーリン…」

もう何年も前の事を、ラムは突然持ち出してきた。“あの時ツノを落としていなかったら…”という、もうどうでもいいような話題を。

あたるはあの時“忘れるもんか”と言った事を思い出していた。どうしてああ言ったのかはわからない。絶対に忘れない根拠も自信も…あくまで自分の中だけでの“絶対”だと、そう思っていただけだ。

タイムリミットを超えていたら…或いは本当に忘れていたのかもしれない。そう、“記憶喪失装置”が作動した後の事など、あたるは全く考えていなかった。闇雲に走り、絶対にラムをつかまえられる自信だけは…あった。ただ、それだけだった。

「…なぁ、ラム、そろそろ…な?」

「…ウチの思考を読み取って、今夜は…どんな事…してくれるのけ?」

「…それはやってみてからの…お楽しみじゃ…」

“チュッ、チュッ…チュパッ……チュッ…”

軽いキッスを何回か。吸い付き離れる合間に、声が聞こえる。さっき話していた話題のせいかもしれない。

“ダーリン…こういう軽いキスだったら…どのくらい、してきたっちゃ?”

“さぁ…んな事、忘れたわ…”

“ウチも…忘れたっちゃ…。数え切れないくらい、だから…”

“回数なんぞ…どうでも…いいだろうが…”

いわゆる“精神感応”…テレパシー。普段は何も聞こえなくとも、こういう時間になると、時々、聞こえてくるのだ。声無き言葉の数々が。

「くすぐったいっちゃ…やんっ…ダーリンのエッチ…バ、カ…」
“くすぐったい…もっと…触って…ダーリン…う、ん…あ、は、ぁ…”

口に出す言葉と、精神感応で伝わってくる言葉が少し違う時がある。それがダブって聞こえてくる。やまびこのように、そして、エコーがかかったように。反響する言葉、声。それが少しずれてあたるの耳に、頭に届く。ラムの耳や頭にも、あたるの声、言葉が、少しのタイムラグをおいて、聞こえてくる。やまびこ…そんな風に。

ラムの“ニンフ”から、溢れてくる愛液。その泉はあたるだけのためにある。
泉がこんこんと湧き出るが如く、あたるを受け入れるための体液が…ラムを、濡らす。

「いっぱい…痺れて…きちゃうぅ…ダーリンの、キス、で…」
“いっぱい…いっぱい…キス、して…そこに、も…他のところ、にも…いっぱい…何度、でも…あ、あぁ…いぃ…”

「…ラム…」
“…オレの事も、もっと触ってくれよ…な?…そう…そんな風に…”

“ここ…け?ここ…が…いいけ?…それ、から…ここ…は?”

“うっ…オレもっ、しっ、痺れて…きた…。ラムの…カラダ、から…ピリピリ、したのが…伝わってくる、し、な…う、お…む…”

“ダーリンのが…どんどん大きくなって…硬く…なってきて…ぴくぴくして…濡れてきて…ウチのナカに…入りたがってるっちゃ…”

“あ、あんま…入れる前に…こっ、擦るなよっ…”

“うんとガマンしたら…きっと、すっごく…すっきりして…気持ち…いいっちゃよ?…”

“んな、事は…昔っから…わかっとるわ…。ラムのここも…すごい濡れ方だな…。何か使ったのか?”

“ダーリンの、味と、匂い、だけで…いっぱい…出てくるっちゃ…”
「…あふぅっ!そ、そんな、にっ、掻き回し、たらっ…カラダ、が…熱くなって…痺れ、て、くるっちゃ…あぁっ…!」

ねちっこいディープキスを繰り返しながら、ラムがあたるにしがみ付く。躍る舌で互いの感度を高めている間に、あたるはラムの陰部を掻き回す。ぐちゅぐちゅ…そんな水音が、ふたりの耳に微かに聞こえてくる。

“ラムの、ピリピリしたのが…オレの、胸に…伝わってくるぞ…むずがゆくて、くすぐったいな…。それに…いい気持ちだ…”

(パリパリパリパリ…パリパリパリ…パリリッ)

“んふぅっ…そんな、にっ…掻き回したら…ウ、ウチ…の…おっぱいの、先…頭の、てっぺん、まで…痺れ、て…痺、れて…”

(にちゅうぅ…)“そんなにいっぱい…痺れてんのか?…他にどこが…痺れてる?…”

“胸の…中…、カラダ、全部…頭の中も、全部…”

“それじゃあ、全身…だろ?…”

“全身…お腹の中まで…足の指、の先、まで…全部…熱くなって…痺れて…いい、気持ち…だっちゃ…”

そしてあたるはラムのナカへと…入っていった。

“いっぱい、擦れて…当たって…あ、あぁぁっ…ダーリン…”

ぐぐっ…と全身力ませているラム。腕や指先にも力がこもり、あたるを抱き締めて離さない。そして指先が食い込んだ部分には、薄っすらとした赤い跡が残った。

“ぐらぐら、揺れて…大き、く、下も、上も…揺れ、て…ダーリンと、一緒に…揺れて…飛んでる、みたい…だっちゃ…”

“ラムが…下になって…オレが、上なのに…か?”

“はぁぁあぁ…ダーリン、と、こうして、る…だけ、で…上も、下も…無くなって…あ、あ…あぁっ…!と…飛、び、そ、う…”

“オ、オレ…も…じゃ…もう、ちっと…で…”

“と…と…飛んじゃう、う、うぅぅぅっ!あぁっ!ダーリンッ!!”
「…ダーリンッ、ダーリンッ!!」


あたるには“忘れない自信”が本当にあったのかもしれない。彼は“もしもツノを落としてなかったら”などという事は、これっぽちも考えていなかったし、今でも“もしも”という考えに囚われる事は無かった。

「ラムのやつ、いつまでくだらん事にこだわってるんじゃ…」

昼休み、ビルの屋上であたるはそんな事を、ぼんやり思い返していた。

「あの時、オレが転んでなかったら、ねぇ…ま、実際どうなっとったかは…オレにもわからんけどな…」

何年も前、地球の街という街は、巨大なキノコで埋め尽くされていた。空には胞子が充満し、その中をラムを追い掛けて走った10日間。最初の鬼ごっこと違っていたのは…地球を救うというよりも、ラムをつかまえたい一心で走っていた、という所だろうか。

「しかしまぁ、オレもよく走ったよな…。考えてみたら、やっぱラムの方が圧倒的に有利だったよな。何しろ…オレは飛べんが、ラムは飛べるし、いざとなれば電撃じゃ。…ちっとも公平じゃないだろーが…。まったく、どういう基準であんなルールだったんだか…」

そしてその日、あたるが家に帰ってみると。

「あたる、大変よっ、ラムちゃんが!」

「えっ、ラムがどうしたって!?」

「とにかく今、総合病院の方にいるから、あんたもすぐ来なさい、すぐよっ、わかったわね!?」

ラムに何があったかの説明をしている余裕など無かったのだろう。母親は上着を着て小さなバッグをひとつ持つと、髪型を整えるのもそこそこに、呼んであったらしいタクシーに乗って先に行ってしまった。

「だから一体何があったというんじゃ?…ラムに…」

あたるも帰ったばかりだったが、背広にコートを引っ掛けると、財布ひとつだけ持って、走って総合病院まで向かう事にした。

(それにしても、オレって…何かっつーと、走ってばっかだよな…。ラムの事になると…)

病院の一室、そこのベッドにラムがいた。顔色は良く、身体を起こしてはいるものの、ぼんやりした面持ちだ。そして頭には白い包帯。あたるは一体全体何があったのかを、真っ先にラムの傍まで行って、聞いてみた。

「おい、ラム、一体何があったんだ?」

「…ラム?…誰だっちゃ?」

「お前なぁ、オレをからかっとるのかっ!?ラムはお前っ!お前の名前だろーがっ!」

「ウチの、名前?…それに、お前…誰、だっちゃ?」

「…へ?」

「うーん、見た事あるような無いような…思い出せそうで、この辺まで出てきてるのに…誰だったのかなぁ…」

「ラム…お前…」

「ああっ、もしかしてウチがぶつかった車を運転してた人け?」

「く、車にぶつかったのか?で、どっか他にケガはっ!?」

「ケガは別にしてないっちゃよ。頭だけ強く打ったみたいで、さっきまで寝てたっちゃ。あ、お母様」

「ラムちゃん、大丈夫?本当に災難だったわねぇ…頭の方は大丈夫なの?」

「今から精密検査する、って言ってたけど、多分大丈夫だっちゃ。どこも痛くないし」

「あのね、ラムちゃん…この子、憶えてないの?あたるの事。私の息子で…あなたの夫になる人でしょ?」

「ウチの…夫になる、人…?この人が?…うーん…ウチ確か…星に…婚約者がいたと思ったけど…でも…よくわからんちゃ…」

「地球に来て、それから私のうちに住むようになったでしょ?そこまでは憶えてる?」

「ああ、そういえば、レイとは婚約破棄したんだっちゃ。で…地球…地球?ここがそうなのけ?」

「そうよ、私の事は“お母様”って、わかったのに、地球に何しに来たかとか、あたるの事は…憶えてないの?」

ラムは困惑顔で、小さな声でうなりながら、何かを思い出そうとしていた。それを傍らで黙って見つめているあたる。

「うーーーーん、何か出てきそうなんだけどぉ…おかしいっちゃねぇ、この人てっきり…車運転してた人だとばっかり…」

「…母さん、オレ、先に帰るわ…」

「ちょっと、あたる、あたる!?お前が傍にいれば、ラムちゃん、何か思い出せるかもしれないでしょ?…ちょっと!あたるっ!」

母親の言葉を振り切って、あたるは病室から黙って出て行った。

足早に廊下を歩き階段を下りて、病院の玄関を出ると…途端に足を止めた。そして夜空を見上げてひと言。

「ラムの、アホ…よりによって何で…オレの事、忘れてんだよ…アホ、バカタレが…」

そして彼はしばらくの間、そこから動く事が出来なかった。


「ラムちゃん、気分はどう?何か思い出したかしら?」

「ああ、お母様、おはようございます、だっちゃ。…この間からあんまり…思い出せて無いっていうか…あの人の事、もうちょっとで出てきそうなんだけど…」

「先生のお話じゃ、一時的なショックで、逆行性記憶喪失症になってるそうよ。一時的なものだから、直に思い出すでしょう、ですって。検査も終わったし、あとちょっとしたら退院出来るから、それまでに思い出せるわよ、きっと」

「でもあの人…この間、黙って帰ってから…一度も来て無いっちゃね…どうしたのけ?」

「…あの子にしたら…よーーーっぽど、ショックだったんでしょうねぇ。何しろもう既に…夫婦同然だったラムちゃんに…忘れられちゃったんですもの」

「ふ、夫婦…同然?ウチと、あの人…が?」

「そうよ?それ言えば思い出すかと思ったんだけど…どうかしら?何か出てきそう?」

「ウチと、あの人が…夫婦…」

ラムはそれを聞くと、窓の外に視線を移して、じっと物思いに耽ってしまった。あたるの母はそんなラムの様子を見て、その日は着替えだけ置くと、静かに帰っていった。

(ウチとあの人が、夫婦同然…って事は…。うーーーーん、何か大事なものをどっかに置き忘れてるみたいな感じがして…ものすごーく気になってはいるんだけど…)

天気のいい冬の午後。ラムはパジャマ姿に厚手の上着を着込んで、病院の中庭に散歩に出掛けた。すると彼女の耳にある言葉が入ってきた。

「Darling!」

見ると外人のカップルが寄り添いながら中庭を散歩していたのだ。女性の方が男性をそう呼んだ。それを聞いた途端、ラムの中の…何かが、音を立てて…弾けた。

「ダーリン…ダーリン?ダーリンッ!そうだっちゃ、ダーリンッ!!」

ラムはまだ入院中だというのに、そこから空に飛び立ち、全速力で諸星家へ飛んでいった。折りしもその日は日曜日。飛んで帰り、あたるの部屋の外に降り立つと、彼は窓に背を向けて、ごろりと横になっていた。ラムは窓を開けようとしたが、中から鍵がかかっていて開かない。

(トントントン…)「ダーリン、ダーリン!」

「えっ…ラム?…ラムかっ!?」

「ダーリン、ダーリンッ!早く開けるっちゃ!ぜーんぶ思い出したっちゃ!」

そしてあたるは飛び起きると、慌てて窓を開けた。冷えたカラダのラムが、あたるの胸に飛び込んできた。

「ダーリン、ダーリン…ごめんちゃ、ダーリン…ウチ、ウチ…思い出したっちゃ、全部…」

「…アホ…ラムの、アホ…」

「ダーリンの事だけは…一番忘れたらいけないのに…ウチ、どうして…」

「まぁ…気にするなって…たまたま打ち所が…悪かっただけだろ?な?…」

「ダーリン…ダーリン…ダーリン…」

あたるの力強い抱擁。その腕の中でただひたすら泣き続けるラム。しゃくり上げるほど泣くと、あたるのシャツの前面はラムの涙でしっとり濡れていた。

「こんなに泣くやつがあるか…もう思い出したんだから、いいだろ?泣かんでも」

「だけど一番大事な…ダーリンの事、忘れてたなんて…ウチ、本当に…ウチ…」
“ごめんちゃ、ダーリン…こんなに大好きで、愛してるのに…ほんの数日でも、忘れてて…本当に…”

「何だよ、口と頭両方で謝らんでもいいだろ?何言っとるかようわからんわ」

「ダーリン…ダーリン…」
“いっぱい、キス、して…ダーリン…。いっぱい、いっぱい…ウチの事、愛して…”

「…だから、頭の中で言わんでも…。ま、こうしたら、口が塞がって何も言えなくなるけど…な…」

そしてふたりは…長い長い抱擁と深いキスと…誰にも聞こえない声にならない言葉で…この数日間の空白を、埋めていた。

ラムは一旦家に帰ったため、そのまま退院する事と相成った。念のため星の医師にも診てもらったが、特に異常は無く、記憶の一部が欠落していたのも本当に一時的なものなので、今後心配する事は無いだろう、という結果に落ち着いた。

そして再び、ラムのUFOにて…。

「オレの事を一時(いっとき)でも忘れとったおしおき、っちゅー事で…今夜は覚悟せいっ、ラムッ!」

「覚悟って…何をどう覚悟するっちゃ…もしかして、ウチに…愛の言葉でも言ってくれるつもりけ?それなら喜んで聞くけど♪」

「誰がそんな事を言うと言った!…アホかっ…とにかく〜すっごいからな〜〜っ!足腰立たんくらい…」

“…足腰立たなくなるのは…ダーリンの方じゃないのけ?ウチの鍛え方の方がすごいっちゃよ?”
「どんな風にしてくれるのか…うふっ…楽しみ…だっちゃ…」

「お前ねぇ…思っとる事と言っとる事が、微妙〜〜に違うんだが。楽しみなのか、そうじゃないのかどっちだよっ!?」

「だってぇ、ダーリンもすごいけどぉ…ウチだって…ね?そうでしょ?」

「それはまぁ、そうだが…。しかしオレは伊達に10日間も休み無く走っとったわけじゃないぞ!そうっ!こういう時のための筋力アップと、持久力を高めるためのっ!自主トレだったんじゃっ!」

「…それにしても地球を2回も救った割には…何も無いっちゃねぇ…表彰とか、そんなのが」

「そうなんじゃっ!それが一番気に食わんっ!感謝状に金一封くらい付けて寄越したっておかしくないだろ?なぁ?」

「それともぉ…ウチが…ご褒美だったりして…。ウチがご褒美じゃ…不満だっちゃ?イヤ?」

ラムが艶かしい甘え声で、そう聞いてきた。あたるは生唾を“ごくり”と飲んで…“ぐわばっ!”とラムを押し倒し…寝技に持ち込み…そして。

ラムの電流と共にあたるの頭に流れ込んでくる、彼女の甘く切なく、乱れた時の声。ピンク色の時を、男と女になって過ごすふたり。

「ああぁんっ!ひあんっ!ダーリーーーンッ!!」
“だめぇっ、かっ、感じて…足や、腰、がっ…も、もうっ…だめぇっ…!あぁんっ!”

あたるの逸物が“ズン、ズン、ズン、ズンッ!”とラムを攻め立てる。さすがは諸星あたる。極普通の体格の割に、短距離走向きの筋肉も、長距離走向きの筋肉も発達しているためか…その力強さと持久力たるや…。

“ただ伊達に10日間も走ったり、ガールハントし続けたりしたわけじゃないのだっ。そうっ!こういう時のための筋肉トレーニングじゃーっ!あれはっ!”
「…ふっ、ふっ、ふっ、ふんっ!」

「あぁっ!だめぇーーーっ!こっ、腰がっ…ウチ、もうっ…あぁあぁぁぁぁあああーーーっ!!」
“ホントに…すごいっちゃ…ダーリンのっ…あぁっ…あぁっ…もうっ…ホントに…だめぇ…あ…も、もう……ああっ!イッ…イッ…イッ、ちゃうぅぅーーーっ!!”

“オレはまだまだ…イケるぞっ…どうじゃっ、オレの…鍛え抜かれた…こっ、このカラダはっ!”
「…ど、どうじゃ〜〜オレは、まだまだ…イケる、ぞ…もっと、ひーひー言わしちゃるっ!」

「も、もう…ひと休みしないと…ダメェ…」
“ダーリンの…すっごいけど…ホントに、ちょっと…休ませて欲しいっちゃ…お…お願い…”

「…あ、悪い…そ、そうだな…んじゃ、ちっと…休むか?」

「…わかってくれたのけ?…いくら何でも…やり過ぎだっちゃ…ウチ、今夜のは、ちょっと…ヒリヒリしてきてるっちゃよ…んもう、バカッ…」

「…だいじょぶか?」

「ちょっと乱暴だったんだもん、今夜のダーリン…。いくらウチが、ダーリンの事忘れたからって…ひどいっちゃ」

「いや、そういうつもりは…無いぞ?くれぐれも言っとくが」

「…うふっ、ウ・ソ♪ヒリヒリしてる、っていうのは、ウソだっちゃ。ダーリンいつもより優しくないんだもん…ねぇ…」
“…ちょっと休んだら…もっと、優しくしてくれるっちゃ?”

「ラムは、どうなんだ?オレは、うーーんと…」
“お前の放電で…ビリビリってな…あれがまた…あっちこっちの先っぽまでもが痺れ痺れてっ!そりゃもう、あれだ…”
「…うーーーんと…き、気持ちいいわけじゃ…」

「ウチの放電、そんなに…いいけ?」

「そのうち慣れるかもしれんが…今のところは…い、いいぞっ…」

ラムはあたるの手を取ると、指先を軽く口にくわえて、極弱い電気を流し込んだ。

「そ、そうじゃ、これが、また…こそばゆくて、かゆくて、むずむずして、しかしっ、こっ、こうっ、何ちゅーか…クセになるよーな…こそばゆさじゃ…ピリピリ痺れるのが、またっ…」

「んふっ♪ウチの電気でこんなに喜んでくれるなんて…嬉しいっちゃ♪もっと…してあげるっちゃ…」

そしてラムは可愛い口に…あたるの逸物をくわえ、再び弱い電流を送った。

ふたりの…バカ甘く、脳天までビンビンビリビリに痺れさせながら戯れる夜は…いつも通りであるが…こうして更けてゆくのであった…。


「ウチがずーっとダーリンの事、思い出さなかったら、どうするつもりだったのけ?」

「10トンハンマーで頭ぶっ叩いてでも、思い出させるっ!」

「…思い出す前に、大ケガで再入院だっちゃよ、それじゃあ…」

「とにかくっ!お前は思い出す!何がきっかけかはわからん。が、ぜーーーーったいにっ!思い出すはずじゃ!」

「人の事なのに、やけに自信満々だっちゃねぇ。何で?」

「例えばハンマーや木槌でなくとも、こ、こうだなぁ…キスのショック療法で、とか…」

「いきなりキスしたら、犯罪だっちゃ」

「退院してくれば、ここに戻ってくるしかないだろーが。そしたら…だろ?」

「何が、“そしたら…だろ?”なのか、ちっともわからんちゃ。ダーリン、たま〜に、心しっかりがっちりガードして、ウチに見せてくれないんだもん」

「誰にでも見せたくないものはあるのっ!」

「減るもんじゃないのに、ダーリンのケチッ」

「ラムは…実に開けっぴろげ、っちゅーか…お前、隠し事下手だよな」

「ウチだって知られたくない事のひとつやふたつあるっちゃよ。それをしっかりがっちりガードしてるっちゃ!」

「例えば?」

「えっ、たっ、例えば〜〜…(小さい頃、ランちゃんの家でおねしょした事なんて、言えないっちゃ〜)」

「…何?ランちゃんの家に泊まった時に…お・ね・しょ?したのか?お前」

「ダーリンのバカーーーッ!何勝手に人の思った事読んでるっちゃ!…そ、そんな事、してないっちゃ!聞き違い、勘違い、誤解だっちゃ!」

「まぁ、んな事はどーでもいいけどな…ガキの頃なら、誰でも…なぁ?(ニヤリ)」

「…何だっちゃ、そのいかにも“やらしそう”な、“ニヤリ”は!?」

「まぁまぁ、気にするな。気のせいじゃ、気のせい。ニヤリでも流行りでもどっちでもよかろーが」

一緒にいる時間が昔ほど長くなくなったせいでなのか、大人になってから開花した“精神感応”の能力。が、しかし、その能力が強まるにつれて…。

「いい加減うっとーしくなってこんか?」

「だっちゃねぇ…たまにだったから、よかったのにぃ…」

という次第で、ラムの星のチカラで“精神感応”能力、いわゆるテレパシーを弱める方法をふたりは実行する事にした。

「これでホントーに、テレパシーとやらが弱くなるのか?」

「そうらしいっちゃ。ウチも初めて使うからよくわからないけど」

「よくわからん…か…。まぁやってみなけりゃわからんか…というわけで、いっせーのせ、でいくぞ?いいか?」

「ウチはいつでもOKだっちゃよ、ダーリン」

「よっしゃ、それじゃあ、ラムッ」

「わかったっちゃ。いっせーの」  「せいっ!」

“ピコンッ!!”

あたるとラムは、“超音波ピコピコハンマー”を同時に、互いの頭目掛けて振り下ろした。
少しの間、頭や目から星を飛ばしていたふたりだったが、直に元に戻ったようだ。

「…あれ?お前…誰だっちゃ?」

「おい、ラム!?もしかしてお前…オレの振り下ろし方が悪かったせいで…」

「うふふっ、ウソだっちゃ♪ダーリンは大丈夫みたいだっちゃね♪ウチの事心配してくれたんだもん、嬉しいっ♪」

「人をからかうのも、大概にせいっ…ったく」

「もしずーーーと、ウチがあのまんまだったら…ホントはどうしてたのけ?そこだけよくわからないっちゃ」

「んな事、イチイチ説明せんでも…」

「もう1回、最初の鬼ごっこしてみたらいいんじゃないか…とか思ってたんじゃないのけ?」

「…げっ…何で、それ…」

「声は聞こえなかったけど、何と無くそうなんじゃないかなぁ、って」

「そ、そうか…ラムには女特有の“勘の鋭さ”というやつがあったのだ…う、うかつだった…」

「だけどやっぱり、きっといつかは、ダーリンの事…宇宙で一番好きになってたと思うっちゃよ♪」

その後ふたりの間の“精神感応”による会話はすっかり減ってしまったが、それでもふたりは満足だった。

「そういやこのハンマーは、他に使い道は無いのか?」

「記憶の操作や、性格改造にも使えるっちゃよ?喪失させたり復帰させたり。何ならダーリンも試しに忘れてみるけ?ウチの事」

「だからオレは絶対にっ!…ごにょごにょ…」

そしてふたつの“ピコピコハンマー”は押入れの中にしまわれた。時々電撃抜きのケンカをする時、ふたりはそれを手に持ち、互いの“女癖の悪さ”と“かんしゃく持ち”の性格を直そうと、息を殺して対峙しつつ相手の隙を狙う…そんな、傍(はた)から見れば滑稽な、“夫婦ゲンカ”のひと時を過ごしているそうだ。

バラにも“アムネジア”という名の、薄紫の花があるという。薄もやの中に、美しい思い出が…色と香りと共に眠っている。時と共に咲いては散りゆく、“記憶喪失”という名のバラの花。時期がくればいつでもそれは、同じサイクルで花を咲かせる。

記憶だけは完全に失う事は無い。喪失したと思っていても、それは一時的に眠っているだけだという。ラムの記憶も、あたるの記憶も、時に薄れて、時に濃厚に蘇る。完全に忘れる事など…決して無い。そしてふたりは“根拠の無い自信”を互いに持ちながら、今日もケンカをし、そして、愛し合う。

何度でも。花が咲いては散るように。それは、繰り返される。

--- E N D ---

あとがき


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