(例えば・17)ラムの1日


今日もふたりの1日が始まった。

この話は、ふたりがまだ結婚する以前、UFOで暮らしていた頃の短い物語である。
ラムのUFOはあたるの実家の屋根上に停泊させており、あたるはいつも屋根づたいに実家に降りて、昔のように家の玄関から出入りをしていた。

「ダーリン、ダーリン!早く起きないと、遅刻するっちゃよ!」

あたるが寝ぼけまなこをこすりながら声のする方を見ると、すっかり身支度を整えたラムの姿が目に入った。

「…ん…んん…?遅刻〜?」

「だっちゃ!いつもより1時間も寝坊してるっちゃ!早く起きてっ!」

「…1時間……1時間っ!!」

それを聞いたあたる、弾かれたように布団から飛び出すと、慌ててシャワーを浴び、スラックスとワイシャツを同時に着て、ネクタイを首に巻いた。テーブルに置いてあった食パンを手にするとそれを口に突っ込み、背広を引っ掛け、UFOから飛び出し屋根を滑り降りて、実家の中を脱兎のごとく走り抜けていった。

「どーしてもっと早く起こしてくれんのだっ!ラムのやつっ!」

近所を走りながらネクタイを締め、髪の毛を風で自然乾燥させつつ、駅まで突っ走るあたる。そしていつもより数本遅い電車に飛び乗った。

その頃ラムは。

「あーっ!ダーリンお弁当忘れていったっちゃ!」

テーブルの上には、今朝ラムが用意していた弁当が置きっぱなしになっていた。家計を預かる以上、少しでも節約せねば、と、あたるには弁当を持たせていたのだ。

「早く届けなくっちゃ、だっちゃ!駅まで着いたかな、ダーリン」

そしてラムは弁当を抱えて、空に飛び出した。最寄り駅上空に来たが、ラッシュ時の人ごみの中から、人ひとり探し出すのは容易な事ではない。

「もしかしたら、もう電車に乗ったかも、だっちゃ!」

1食くらいどうという事もなかったかもしれないが、せっかく自分が作ったのと、あたるを追い掛けてここまで飛んできたのとで、とにかく弁当を届けなければという思いが、ラムの頭を一杯にしていた。

「ダーリン、どの電車に乗ったっちゃ?」

さまざまな障害物をよけながら、全速力で飛行するラム。電車がちょうど徐行運転をしたため、目星をつけた車両に近付く事が出来た。一両一両、ガラス窓の中を見ていくラム。すると、その中に、満杯の人、人、人で押しつぶされているあたるを見つけた。

「あーっ、ダーリン見つけたっ!」

下車駅は数駅ほど先、サラリーマンたちが一気に降りる所で、あたるは後方から出てくるスーツ姿の人の塊に押し出された。今朝慌てて出てきたせいで一気に疲れたのか、ホームの途中でけつまづいて、彼は転んでしまった。
その姿をホーム上空から見ていたラム。人ごみが少し引けたところで、あたるの傍にストン、と降り立った。

「ダーリン、大丈夫け?」

ホームに這いつくばったままのあたるを抱き起こすラム。が、あたるは顔をこすりながら、怒ったようにラムを睨んだ。

「お前が早く起こしてくれんからっ!こーゆー目に遭うんだろーがっ!もー間に合わんっ!遅刻じゃ、遅刻っ!!」

「だったらウチが飛んで連れてってあげるから…それで間に合うでしょ?ね?あ、それと、これ。お弁当忘れてたっちゃよ」

「弁当なんぞ、どーでもいいがっ!…まぁ、ラムが飛んで連れてく、というなら、間に合わん事も…ないか」

そしてあたるはラムに抱えられて、会社まで飛んでいった。

「ちょっ、おいっ!もうちっとゆっくり飛ばんかいっ!」

「ゆっくり飛んでたら、間に合わないっちゃよ!?」

そしてあたるは、どうにか始業時間に間に合ったのであった。

「はい、お弁当も忘れないでね、ダーリン。間に合って良かったっちゃ〜」

「どーでもいいけどなっ!あんなスピード出されたら、途中で振り落とされるわっ!」

「せっかく間に合ったのに〜もうっ」

そしてラムは呆れ顔で、あたるの後姿を見送った。

「ついでだから、買い物でもして帰ろうっと…」

ラムは弁当の他に財布を持って出てきていたのだ。まだ早い時間だが、街で夕食の材料を買い求めるラム。

「たまにはダーリンに美味しいもの、食べさせてあげようかな〜」

あたるにとっての美味しいもの=肉類である。家計を引き締めるため、しょっちゅうぜいたくは出来ないが、ラムはたまにふんぱつして、あたるのために美味しい夕食を用意して帰りを待つのだ。

しかし当のあたるは、スチャラカ社員で有名だ。今日も適当に要領よく仕事をさぼり、女の子に声を掛けて、会社での1日を過ごしている。そんな事とは知らないラム。あたるが一生懸命働いてる様子を想像していたが、やはり長年連れ添っただけあって、(もしかして女に声掛けて、仕事も適当にさぼってるんじゃないのかな〜…)と、正直そう思っていた。

「でも、ま、いっか。外で働いてるんだし、たまにはふんぱつしてあげなくっちゃ♪」

そして夕飯の材料を買い終わると、ちょっとだけウィンドウショッピングをして、UFOに戻った。材料は大型冷蔵庫に適当に放り込み、昔より多少マシになったものの、ガチャガチャと騒々しい掃除をする。洗濯機に洗濯物を放り込み、自動運転にして乾燥までを一気に終わらせ、一応主婦の気分を味わいたいため、アイロンがけと洗濯物を畳むのは、機械に頼らず自らの手でやっていた。

そして午前中で一通りの家事を済ませると、簡単な昼食をとって、あたるの実家へと赴く。

「お母様〜、いますっちゃ〜?」

あたるの母も、息子とラムが独立したお陰で、少しは時間に余裕が出たようだ。洗濯物を取り込むまでの間、わずかな昼寝をして、その後ラムと茶菓子をつまみながら、他愛の無い会話で時間を過ごす。

「あたるはどう?世話焼けるでしょう?ラムちゃんも大変よねぇ」

「今朝は寝坊して、お弁当忘れて行ったっちゃ。で、それを届けに、ウチ、追い掛けて行ったっちゃ」

「あら、そうなの。まったくあの子ったら、いくつになっても…変わらないわねぇ…。変わる事を期待する方が無駄かしらねぇ…」

「でもウチは今のダーリンでいいから…。急に優しくなり過ぎたりしたら、こっちがびっくりするっちゃ」

「ま、それもそうねぇ…。あんな子だけど、よろしくね、ラムちゃん。…それにしても、あの子のどこがっ、いいわけ?」

「どこ、って言われても…うーん…。浮気ばっかりだし、身勝手だし…ウソつくし……考えたら、いいとこ無いっちゃ」

「それなのによくまぁ、長年一緒にいられるわねぇ…。我が子ながら、うんざりさせられっぱなしだっていうのに」

「でもダーリンといると、たま〜〜に優しかったり、すごくリラックス出来たりするから…だから一緒にいられるのかな〜」

「早いとこ、あの子には…ケジメ、ってものをつけさせないと…。そう思うでしょ?ラムちゃんなら尚更」

「…ダーリン、ケジメ、ちゃーんとつけてくれるのかなぁ…プロポーズもまだだし…」

「ラムちゃんからせっついた方がいいわよ、そうでなきゃ、一生今のまんまよ?」

「うーーーん、せっつく、って言っても…ダーリン、何考えてるのか、ウチもよくわからないっちゃ…」

「そうよねぇ…」

「…だっちゃ…」

ふたりして溜息をつきつつ、しばしの沈黙。そして日本茶をすすりながら、ラムが先に口を開いた。

「そういえばテンちゃん、いい子にしてるっちゃ?」

「あたるがいなくなってからは、ケンカも無くなったし、いい子にしてるわよ」

「迷惑とかかけてないっちゃ?」

「ぜーんぜん。むしろ聞き分けのいい、いい子よ。意外だったけど」

「それ聞いて安心したっちゃ〜。でも小学校で上手くやってるのかなぁ〜」

「テンちゃんなら心配ないでしょ。あれで結構マセてるし、同級生が子供に見えるんじゃないかしら?」

「だったらいいんだけど…」

そこへ話題のテンが帰ってきた。

「ただ今、おばちゃん。あ、ラムちゃん、来てたんか〜」

「テンちゃんお帰りだっちゃ。…あれ?ほっぺが赤いけど、どーしたっちゃ?」

するとテン、急にむすっとした表情になって、ランドセルをどさっと置くと、ラムと母親の間に座って愚痴り始めた。

「どないもこないもないわっ。まったく小学校っちゅーところはガキの集まりやな…。ワイのツノがどーとか髪の色がどーとか、どーでもええ事ばっかりぬかすんや。で、侵略者や、エイリアンや〜言われてな…ワイももーそれ聞いたら…」

「で、我慢できなくなって、ケンカでもしたのけ?」

「そういうこっちゃ。だからガキは嫌や言うねん」

「でも火は噴いたりしてないっちゃ?」

「あたるのアホと違うて、あいつら頭回らんさかい、火ぃ噴くのだけは…我慢したったわ」

「でも皆まだ小さいんだから…テンちゃんの方がちょっとだけ大人なんだし。火を噴かなかったのは偉いっちゃよ」

「あたるのアホのお陰で免疫ついた、思たのになぁ…何やこう、勝手が違う、っちゅーか…あたるくらいはっきりしてたらまだええねん」

「そんなに大変だったら…星の学校に行くけ?」

「それもまた…退屈やろしなぁ…アホがおらんと…」

「何だかんだ言って、ダーリンがいないとつまらないのけ?」

「ワイはそんな事言うとらんどっ!ただ地球におった方が退屈せんだけや…。ほならワイ、部屋に戻るわ…」

そしてテンは、ランドセルを手にすると、自室に戻っていった。あたるの部屋の隣が、テンの部屋なのである。

「何だかんだ言って、ダーリンがいないとつまらないらしいっちゃ。テンちゃん」

「そうみたいねぇ…ま、犬猿の仲みたいに見えて、あれで結構“ケンカするほど仲がいい”って事なのかしらねぇ」

そして女性同士の他愛の無いおしゃべりは、それからまだしばらく続いた。


そして夕刻も近くなった頃。

「あ、そろそろ夕食の準備しなくちゃいけないから、お母様、ウチそろそろ失礼するっちゃ」

「もうそんな時間なの、早いわねぇ」

「それじゃあ、お父様にもよろしく。テンちゃんの事もよろしく頼みますっちゃ」

「たまにはこっちでご飯食べたらどうかしら?今夜はおそうめん作るけど」

「それじゃあ…ウチ、台所手伝うっちゃ」

「そうしてもらえると助かるわ〜」

それからしばらくして、あたるが実家の玄関から入ってきた。

「そうそう、ラムちゃん。大分包丁の使い方も慣れてきたみたいね。おねぎは青い所まで刻んでちょうだいね」

「はーい、お母様」

「あれ?ラムのやつ…今日は母さんと台所か?」

そしてあたるが台所を覗いてみると。

「ただ今〜…ラム、何だよ、今日はこっちで晩飯か?」

「あ、ダーリンお帰り♪今日はこっちでそうめんだっちゃ」

「あら、早かったのね。ラムちゃんに夕飯一緒にどうか、って言ったのよ。くれぐれも言っときますけど、テンちゃんとケンカしないでちょうだいね」

「ふーーーーん、あ、そっ」

そしてあたるは汗だくだったので、実家の風呂に入った。

「母さん、オレのパジャマ、まだこっちにあっただろ?」

「そんなものくらい、先に用意して入りなさいっ!まったく世話の焼ける…」

「お母様、ウチが用意するっちゃ」

そしてラムは、昔懐かしいあたるの自室から、下着とパジャマを取ってきて、脱衣所に置いた。そして風呂場のドア越しにあたるに声を掛けた。

「ダーリン、バスタオルと下着とパジャマ、置いといたから」

「ああ」

「上がったら、お父様帰るの待って、それから夕飯だっちゃ」

それから間も無くして、諸星家の主が同じく汗だくになって帰ってきた。

「おや、ラムちゃん、いらっしゃい」

「お邪魔してますっちゃ。今日は夕飯ご馳走になるっちゃ」

「あたるもいるのかい?」

「今、テレビ見てるところだっちゃ」

「今日も暑かったねぇ。母さん、先にひとっ風呂浴びてから晩飯にしようか」

そしてあたる父も先に風呂に入ってから、昔のように、皆で食卓を囲んだのであった。

「何じゃ、そうめんと聞いておったが、本当にそうめんだけではないかっ」

「暑くて食欲出ないんですから、それで十分でしょう?足りなかったらラムちゃんに何か作ってもらいなさい」

「ダーリン、後で夜食作るから。それにそうめん、冷たくて美味しいっちゃよ?」

「…ま、腹さえ膨れれば、いいけどな…」

夕食を終えて少し食休みをすると、ラムはあたるの背広一式とカバンを持って、「ダーリン、そろそろ帰るっちゃ」と言った。

「そだな、そろそろ戻るか…」

「おい、あたる」

「何じゃ、テン」

「ラムちゃん、泣かすよーな事してないやろなぁ?」

「余計なお世話じゃっ」

「まぁまぁ、ふたりとも。それじゃあお母様、お父様、ご馳走様だっちゃ。テンちゃんもいい子にしてるっちゃよ」

「ワイはいつでもいい子にしとるで。なーんも心配する事あらへんで、ラムちゃん」

そしてあたるとラムは、UFOに戻っていった。


「ダーリン、何か他に食べる?材料買ってあるけど」

「うーむ、やはりそーめんだけでは、腹持ちがイマイチだな」

「それじゃあ…お肉でも焼くっちゃ」

「何っ、肉っ!?それがあるならこっちで晩飯にすれば良かっただろーがっ」

「だってたまには皆でにぎやかに食べたいっちゃよ。ダーリンは嫌なのけ?」

「そういうわけではないが…肉があるならあると、先に言っとけっ」

「それじゃあちょっと待っててね♪」

それから少しして。

「はーい、お待たせだっちゃ、ダーリン♪スタミナつくっちゃよ〜♪」

「…スタミナつけて、どーする、っちゅーんじゃ…」

「…ダーリンのバカッ、わかってるくせにぃ…それじゃあウチはちょっとお風呂入ってくるっちゃ」

それからしばらくして風呂から出てきたラムを見たあたるは…。

「ぶっ!何じゃその格好はっ!」

「何って、スケスケのネグリジェだっちゃ。お風呂上りで暑いし、どう?似合うでしょ?」

「あのなぁ…いくら暑いからって、いきなりその格好は…」

「嫌なのけ?」

「いや、嫌も何も無いが…」

「恥ずかしいのけ?」

「誰がっ!」

「じゃあ、そんなに怒る事無いのにっ」

「パンツはどーしたんじゃっ、パンツはっ!」

「だって暑いんだもんっ。それに〜はいてもはいてなくても、気にする事無いっちゃ」

「気になるわっ!」

「え〜〜っ、どーせもうちょっとしたら…いらなくなるのにぃ〜」

「そーゆー問題かっ!?」

「嫌なのけ?」

「…いや、嫌というわけでは無いが…」

「怒ったり、嫌じゃない、って言ったり、おかしなダーリン」

(ラムのやつ、どんどんエスカレートしていっては、新鮮味が薄らいでしまうではないかっ!)

というのが、あたるの本音らしい。

「もうちょっと、アレだ…例えば…寝巻きに浴衣なんぞを着てだな…見えそうで見えないくらいに襟足を広げて…」

「浴衣?それで?」

「下着も着けてるかどーかわからんよーな感じで、布団に入るだろ?」

「うん、それで?」

「で、実は下着をはいておらんかった…というのが…だな…オレとしては…」

「浴衣がいいのけ?」

「例えばじゃ、例えばっ!見えそうで見えないのが、またいいんじゃっ」

「スケスケはだめ?」

「一度くらいならいいけどなぁ…毎度毎度続いてみろ、ラムのビキニみたいに、見慣れてしまうんだぞ?」

「それじゃあ今からパンティはくっちゃ」

「アホかっ、今からはいてどーするっちゅーんじゃっ!」

「だって見えない方がいい、っていうから」

「あのなぁ…お前ねぇ…わかって言ってんのか?それともボケか?」

「ボケってどういう事だっちゃ!?ウチは真面目にダーリンの話聞いてるのにっ」

「…ラムが多少、天然…というのはわかっておったが…もう、いいわ…」

「じゃあ、この格好でいいのけ?」

「あーもー好きにしろっ」

「ダーリン本当に変だっちゃ。こーゆーの喜ぶと思ったのに」

(まぁ、悪くは無いっ。悪くは無いが…ほぼ丸見えではないかっ…まぁ、それもまたよし、だが…)

そんな事を考えている、あたるの脳味噌の中身も、判読不能である。

「それじゃあウチ、先にベッドに入ってるっちゃ♪」

「ちょっと待てっ」

「何だっちゃ?」

「さっきはあー言ったが、脱がすのはオレがするからなっ!くれぐれも言っとくが、自分で脱ぐなよっ!」

「はーーーーい(ダーリンたら、やっぱり変なの〜〜〜)」

そしてふたりしてベッドに床入りすると、あたるは端座しているラムのスケスケネグリジェの裾に手を掛けた。スルスルという衣擦れの音がする。するとラムから、ふわり…としたいい香りが漂ってきた。

「ラム、お前…何か付けてんのか?香水とか…」

「お風呂上りにちょっとだけ…フェロモンが増える香水、付けてみたっちゃ…いい匂いでしょ?ウチ」

“ごくり”とのどを鳴らして、あたるは軽くコクリ、と頷いた。

「ウチのネグリジェは脱がして、ダーリンのパジャマはウチに脱がせてくれないのけ?」

「ご要望とあらば…ほれ…」

「ふふっ、ダーリン♪」

全裸になったラムが、あたるのパジャマのボタンを外していく。襟元を拡げると、少しだけ彼の汗の臭いがした。ラムはあたるの肌に鼻先を近づけて、すんっ、と匂いを嗅ぐ。

「ダーリンの匂い…大好き…」

そして下着と一緒にパジャマの下を脱がしていくラム。すると…。

「…ダーリンたら、さっきあんな事言ってたくせに…」

「生理現象なんじゃ、しょーがなかろーがっ」

空調をそれほど効かせていないUFOの中。ふたりは互いの匂いを感じたくて、ベッドインする時は、いつもそうしていた。

「ダーリン、ウチの匂い、きつ過ぎるけ?」

「ちょっといつもより、興奮するが…ま、たまには…いいだろ…」

「ダーリンだってたまにウチに悪さするんだもん、おあいこだっちゃ…」

「ラムのここが…」

「あんっ…」

「風呂上りからこーなのか?それともオレの匂いでか?」

「ダ、ダーリンの…匂い、嗅ぐ、前…から…ドキドキして…それで…」

あたるはラムをゆっくり仰向けに倒すと、既にぬるぬるになった陰部の狭間に、指先を滑らせた。何度も何度も。

「いっぱい、濡れ…ちゃう…っちゃっ…ダー、リン…」

緩やかになった膣口に、あたるの指先が“ぬちゅり”と入る。自身の逸物を挿入する前に、ラムの入り口をたっぷり濡らし、広げてやるのだ。

「熱くて…ドキドキして…心臓が…破裂…しちゃいそう…あっ、あぅんっ!ダーリンッ…!」

ラムの勃起した陰核が、極弱い、微放電をしている。電池のプラス極のように飛び出したそこから、ピリピリした刺激が、あたるの指先に伝わってきた。
電気を含んだ愛液があたるの手を痺れさせる。その微振動をラムの陰部に返してやると、彼女の身悶えが一時的に激しくなった。

「あ、あ、あ、ぁ…!いっぱい…いっぱい…痺れ、て…ダーリン、ので…痺、れ、て…!」

受身のラムが、あたるにカラダの全てを委ねる。ぬるい空調の中、前戯だけで汗を滴らせるふたり。その濡れた肌を合わせると、あたるは自身の逸物をラムのスリットに宛がった。ぬかるんだ水音がする。ラムとあたるを接合させる…淫水の音が。

ラムはあたるに揺すられながら、何故か昔の“一線を越えた夜”の事を…ふと、思い出していた。今より濃厚ではなかったが、互いに恥じらいながらの、一線越え。
あたるがラムの放電に耐えて耐えて耐え抜いた結果、ふたりはひとつになった。それを…何故か今頃になって、思い出していたのだ。

「ダ…ダーリン…憶えて…る?…初めて…ウチ、と…こうした、時の、事……は、あ、ぁあぁっ!」

「んっ、くっ…何をっ…今更っ…」

「はうんっ!…ダーリン、は…何、思って…ウチと…した、のけ…?」

「わ…忘れ、たっ…わっ…ふっ、んっ…」

「ダーリン、の…意地、悪…あんっ、あんっ、あんんっ!」

何故かラムは…一筋涙を零して、そう言った。

「…うっ…ラ、ム…」

「…ダァ…リンッ…!」

そして行為が終わった後、あたるはラムに、涙の訳をそれとなく…聞いてみた。

「何で急に…泣くんだよ…」

「ウチ、泣いてたのけ?」

「初めて一線越えた時の事をオレが憶えているかどーか聞いてきただろ?で…」

「ああ、そうだっちゃ。憶えてない、って言われたら…急に涙が出たっちゃ。別に悲しかったわけじゃないのに。で、本当は憶えてるのけ?本当に忘れたのけ?」

「…初めの一歩を忘れたら…毎度毎度初心者じゃな」

「エッチの初心者け?」

「今進歩しとるという事は、だ」

「うん」

「オレもラムも初心者から日々進歩しとる、というわけじゃっ、そういう事じゃ、わかったかっ」

「だから結局憶えてるのけっ!?忘れたのけっ!?」

「今ので大体はわかるだろーがっ!…お前やっぱ天然か?」

「失礼だっちゃね〜ウチの事、天然とかボケとか、色々言って!ダーリンのバカッ」

「まぁそれは置いといて、だ。ラムの香水はやっぱ効果あったな」

「そうけ?良かったけ?」

「そういうラムはどーだったんだよ?」

「ちゃっ…そんな恥ずかしい事言うのけ?…良かったに決まってるっちゃ、んもう、バカッ…」

「ほんじゃま、まだ効果が残っておるみたいだしな…」

「ダーリン、キス、して…うーんと深いの…いっぱい、いっぱい…」

「ん…そっか…」

ラムが望む通りに、あたるは彼女の乳房をやんわりと揉みしだきながら、ディープなキスを与えた。
そして顔を離した時、またラムがあたるに聞いてきた。

「ねぇ、ダーリン…ウチが初めてお母様の料理作った時…どうだったっちゃ?」

「…忘れた…」

「ウソばっかり、ダーリンのウソつきっ」

そして2度目、あたるはラムのバックから挿入した。

「いいっ、いいっちゃぁ…もっと、奥、までっ…入って…ダーリン…あっ、あっ、あんっ…」

ラムが揺すられるたびに、シーツの衣擦れの音がする。ベッドが軋む。そのくらいにあたるは激しくラムを愛した。

「あぁーーーんっ!ダーリーーーーンッッ!!」

そしてラムは感極まった絶頂の声を上げて…果てた。


行為の後、ふたりは横になって、何気ない会話をしていた。

「ラムは毎日、同じ事の繰り返しで…飽きんのか?」

「同じ事って?」

「毎日家事するだろ?夜は…こーだろ?」

「ダーリンと初めて会った時はね…まさかこんな風になると思ってなかったから…敵としてしか見てなかったけど…」

「まぁ、そりゃそうだな、お互いに」

「でも、段々ダーリンが好きになっていって…学生の頃は毎日違う事があって、あれはあれで楽しかったけど」

「けど?」

「今、同じ毎日だけど、ダーリンが会社に行って、それから帰ってくるのを待ってるだけでね…楽しいっちゃ」

「そうかぁ〜?」

「ダーリンには同じように見えるウチの毎日だけど、ウチにとったら、毎日ちょっとずつ違ってて、楽しいっちゃよ」

「そんなら、まぁ、いいけどな…」

「家事の事憶えたりとか…お母様やテンちゃんとおしゃべりしたりとか…皆でご飯食べたりとか…それにね…」

そこでラムは“くすり”と笑って、こう言った。

「…そのうち、家族が増えたら…きっともっと、楽しいっちゃ。退屈するヒマなんか無いくらいに…」

「まぁ、そのうちな…そのうち…」

「今は、ダーリンがいるだけで…十分だっちゃ…それじゃあ、おやすみ、ダーリン…」

それから間も無く、ラムは静かな寝息を立てて、眠りに就いた。

「…オレがいるから退屈しない、ってか…そっか…」

あたるもふと、考えてみた。ラムがいるから…毎日それなりに退屈しなくて済んでいるのかもなぁ、と。

そして。これからもずっと…毎日を退屈せずに、ラムと一生過ごすのだろう、とも。

--- E N D ---

あとがき


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