好き・嫌い


ケンカするほど仲が良い、とはいうものの。このふたりのケンカは地球人のそれとは一線を画していて壮絶だ。あたるが女性に声を掛ければ、それに反応してラムがかんしゃくを起こす。
ラムにしたら「ウチだけを見てほしい」という思いからだが…あたるの性癖がそうそう簡単に治るわけでもない。

だから今日もふたりの関係は変わらない。
そして物語は終わらない。

学園祭前日が永遠に続くかに思えたあの日のように。
ふたりが永遠に結ばれないかのように思えたあの日のように。

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夢邪鬼が作った夢の中。あの第1回目の鬼ごっこ、クライマックスシーンをあたるは…夢で見ていた。
ラムのツノを掴もうとしたその瞬間。
(このツノを掴んじまったのが、そもそもの…)
そう思った途端、ツノを掴む寸前で、あたるの手が止まった。
そして鬼ごっこ終了の号砲が鳴り響き…地球は、負けた。

“諸星あたる…聞こえるか?”

誰かの声が、あたるの耳に入った。姿は見えない。

「誰だ?」

“お前はなぜラムのツノを掴むのをためらったのか?”
“ためらった事でふたりの関係がそこで止まってしまう、などという事を考えもしなかったのか?”
“なぁ諸星あたる、実際はどうなんだよ?”
“もしあの夢が現実だったとしたら?”
“ラムのツノを掴んでいなかったら?”
“考えた事はあるのかい?”

「………無いっ」

“ラムと出会っても、その後続いてなかったんだぜ?”
“だったら誰と一緒になってたと思ってるんだ?”

「………しのぶとでも…いや、誰と、ってのはオレの事だからな、わからんわ」

“随分素っ気無いねぇ”
“じゃあ女なら誰でもいいってのかよ?”

「ああ、もちろんじゃ。オレは女が好きだからなっ」

“ラムが…いなくても?”

「お前もイチイチうるさいねぇ。何でそう、ラム、ラム、ってこだわるんだよっ」

“いなくても…良かったと?”

「ああ…そうだな…いてもいなくても…どっちでも。いや、いない方が案外さっぱりした人生だったかもなぁ」

“そっか…。”

「ところでお前、一体誰なんだ?」

“ラム…が、いなく、ても…いいんだ?”

「だから誰だ?って聞いてんだろ?」

“…ダーリン…は、ダーリンはっ!”

「げっ…ラッ、ラムッ…!」

“ウチがいてもいなくても…いない方がさっぱりするって…どういう事だっちゃーーーーーっ!!!”

「いやっ、ちょっ、ちょっと待てっ!待てって、おいっ!!」

“そんな事言うダーリンなんか…ダーリンなんか…ダーリンなんかーーーーっ!!!”

ドババババババババーーーーーッ!!!

“…ダーリンなんか…ダーリン…なんか………だ…大…大っ、嫌いっ!!!…あーーーーーーっ!!!”

そう、ラムは今まで言った事の無かった「大嫌い」という言葉をあたるに投げつけると、声をあげて泣き、あたるの前から飛び去っていってしまった。

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「…ラムッ!……はっ、夢…か…」

あたるは寝汗をかいて目を覚ました。今の夢の一部分は…どこかで見た気がしたのだが、はっきりいつどこで、という事までは思い出せない。

「ラムのやつ…オレの事、“大嫌い”なんて、な…はは、ははは〜…今まで聞いた事無かったよな…そう言えば…」

そう、あたるは今まで言われた事の無いラムのセリフ「大嫌い」に、夢とはいえ、少々動揺していた。ラムがそんな事を言うなど、考えた事が無かったからだ。

「…ま、夢だろ、夢…。夢くらいで、な……ふぅ〜〜〜…」

つい出てしまう大きなため息。安堵か、はたまたそうでないのかはわからない。そして(夢は夢だろ…)と割り切って、学校へ行く仕度を始めた。

「ダーリン、おはようっ」

今日は珍しくラムの方が目覚めが遅かった。押入れから彼女の声がして振り返る。と、いつもと変わらぬ笑顔のラムが、そこにいた。

「ダーリンの方が早く起きるなんて、珍しいっちゃねぇ」

「オレだってたまには早起きする日くらいあるわっ」

「それじゃウチ、着替えにUFOに行ってくるっちゃ」

「ああ、行って来い」

そしていつものように登校する。いつものように騒がしい1日が始まる。あたるが学校の女子に片っ端から声を掛け、それに反応してラムが電撃を放つ。面堂が、メガネたちが、あたるに制裁を加えようと躍起になる。
そしてどんなに無碍(むげ)な仕打ちを喰らっても反省もしなければ、へこたれもしない。それが、2年4組の諸星あたるだ。

やがて帰宅の時間になり、あたるは帰路でも女性に声を掛けまくった。それを見て追いかけてくるラム。逃げるあたる。いつもと変わらぬ友引町の風景。

そして夜になり、夕食を摂り、ふたりで宿題を片付けて、就寝時間になった。

…さて、ここから先が問題なのだ。
実はこの物語の中では、ふたりはまだ結ばれていないのだ。
あたるはラムを意識しているものの、ふたりはたまにキスする程度の仲。夜の時間になったからといって、抱き合った事はまだ無い。
やがて押入れですやすやと眠りに入ったラム。一方のあたるは…というと。

少しは気になるのか、たまに押入れ側を気にしつつも、彼もやがて眠りの中に入っていった。

そして…。

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「ダーリン、どうしてウチの事…抱いてくれないっちゃ…」

「えっ…」

「ウチはいつでもいいのに…ダーリンのバカ…嫌い…」

「ちょっ…おい、ラムッ、お前何言っとるんじゃ?…よくもそんな…恥ずかしい…事を…」

「だってダーリンとウチは、夫婦じゃなかったのけ?夫婦なのに、妻を抱かないのは変だっちゃ」

「いや、何を言っとるかっ。誰が夫婦じゃ、誰がっ」

「…ダーリンはいっつもそんな風に言ってばっかりだっちゃ…そんなに他の女がいいのけ?ウチじゃ不満?」

「…いや、不満とか…そういう問題以前の…だな…」

「ウチの事、いつだって…抱いていいのに…ダーリンの…意気地無し…嫌い…」

「あのなぁっ、さっきから聞いておればっ。オレの事…嫌い…に、なったのか…?」

「このままじゃあ、ウチ…本当にダーリンの事…嫌いになるかもしれないっちゃ…今のうちだっちゃよ?ダーリン」

「いや、しかし…オレは…」

「ウチの事…好き?嫌い?嫌いじゃなかったら、抱いて欲しいっちゃ…」

「そ、そういう問題じゃなくて…おい、ラム…オレ、は…」

「そんなにはっきりしないダーリンなんか…ダーリンなんかっ…やっぱり…ウチの事…嫌い?」

「えっ…」

「…わかったっちゃ…それじゃあ、ダーリン…ウチ、ダーリンの事が嫌いになったっちゃ。さよならダーリン…さよなら、だっちゃ…」

「ちょっ、ラムッ…おいっ、ラムッ!」

「さよならだっちゃ、ダーリン…さよなら…バイバイ…」

「ラムッ!ラムーーーーッ!!」

ラムはあたるの目の前から飛び去り、あっと言う間に遠くへ行ってしまった。そして。

「…終太郎はウチの事好きでいてくれるから…好き…大好き…終太郎…」

「ラムさん…僕もラムさんを心から愛しています…ラムさん…」

「ああ…終太郎…終太郎…好き…」

目の前でいちゃつく面堂とラムの姿が浮かんだ。面堂とラムが…そっと寄り添い…キスを、した。

「ラムーーーーッ!!!」

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またしても嫌な夢を見た…と、目覚めた後、あたるは思った。こうも続けてあんな夢を見るなんて…と。

「…やっぱ、ラムのやつ…オレに…愛想尽かしたのか…な…ふぅ〜…」

何だかんだと現実と夢で言いつつも、本当は一番気になっている事だった。
ラムを抱きたい…と、そうはっきり自覚した事は無かった…というより、時たまそう思う事もあるにはあったが…敢えてそれは意識の外に隔離するよう、あたるは努めていたのだ。何故なのか、それは本人にもよくわかっていないのだが。

(ラムを…なんて事は…。いや、オレは…どう思ってるんだ?実際のとこ…)

いくら女性が好きだからといって、こうしてひとつ屋根の下で暮らしているラムをどうこうしたい…などという思い。それをあたるは正面切って考えるのを避けていた。

(うーむ…オレは一体…どうしたいっちゅーんじゃ…。ラムと…今のままの関係で…ずっと…なのか?)

授業中、あたるはラムの横顔を時たまチラリと見やっては、そんな事を考えていた。

「どうしたっちゃ、ダーリン?」

さすがに何度もラムを見ていれば、彼女がそれに気付かないはずは無い。ラムの呼び掛けに、つい条件反射的にあたるは“ぷいっ”とそっぽを向いた。

「変なダーリン」

「変で結構じゃっ」

「ウチの顔に何か付いてるのけ?」

「誰もお前を見てるなんぞ、言っとらんぞっ」

「そうけ…でも変だっちゃ、ダーリン。熱でもあるのけ?さっきからきょろきょろして」

「きょろきょろするのと熱とどう関係がある、っちゅーんじゃっ」

「ダーリンだったら風邪引いたら、変な行動するかと思って」

「…オレは変人かっ」

「似たようなもんだっちゃ」

「…あのなぁ〜…」

「あ、授業終わったっちゃ。さ、ダーリン、お昼一緒に食べよっ♪」

「…オレはいいっ…さっき食ったから」

「あれ、ダーリン?どこ行くっちゃ?」

「どこでもいいだろ〜買出しだよ、買出しっ」

「ふーーーん…」

ラムはそれきり黙ってしまい、ひとりでお昼を食べ始めた。

そしてまた夜になった。押入れで眠るラム。その背中を布団の中から見上げるあたる。

(オレ…ラムと、どうしたい、っちゅーんじゃ…。また…夢でも見るんかなぁ…ラムに“嫌い”って言われる夢を…)

最近のあたるは、眠るのが、何と無く億劫になってきていた。またラムに“嫌い”と言われる夢を見るのじゃないか、ラムがいなくなる夢をみるのじゃないか…。そう思うと、自然と…心が苦しい…そんな感じがしてくるのだ。

(現実のラムからは…“嫌い”なんて言葉聞いた事なんぞ無かったんだがなぁ…夢の中のあいつは…何なんだ、一体…)

そしてまた眠りに入り…げんなりした表情で眠りから覚める。そんな事が数日続いた。

「ダーリン、最近元気無いっちゃねぇ。どうしたのけ?やっぱり風邪?」

「…違う」

「じゃあどうしたっちゃ?ウチにも言えない事?」

「…イチイチうるさいっちゃねーなー…ほっといてくれ、っつってんのっ」

「でも具合悪そうだから…放っておけないっちゃよ」

「いいから放っておけってーのっ」

「保健室行った方がいいっちゃ」

「………だ〜か〜ら〜っ!放っておけ、と言っとるのが、わからんのかーーーーっ!!」

教室で、つい怒鳴り声をあげてしまったあたる。周囲はその声にびっくりしたようで、休み時間の喧騒がぱたりと止み、皆の視線が一斉にふたりに注がれた。

「…ちっ、どいつもこいつも…オレが何をした、っちゅーんじゃっ」

「おい、諸星」

「何だよ、面堂」

「貴様…ラムさんに怒鳴ったな?」

「だから何だ、っちゅーんじゃ」

「彼女に謝れ」

「何でオレがラムに謝らんといかんのじゃ」

「いいから、謝れっ」

「嫌だっ」

「四の五の言わず、きちんと謝れ、諸星。…そうでない時はこの僕が…」

「ほ〜そうじゃなかったら、どうする、と言うんじゃ、面堂?」

「刀の錆にしてくれるっ!」

「あのな、面堂」

「何だ、諸星」

「ラムの肩を持つのかっ!?オレの立場はどうなる、っちゅーんじゃ!」

「貴様が悪いに決まっているだろうがっ」

「オレはうるさいからうるさい、と言うたまでじゃっ!」

「だからきちんとした理由も無く、ラムさんに怒鳴った非礼を詫びろ、と僕はそう言ってるんだ!」

面堂とあたる、ふたりの様子を傍(はた)から見ていたラムは、表情を曇らせた。そして開口一番。

「ダーリンも終太郎もやめるっちゃ!」

「しかしラムさん」

「ウチが色々聞いたから、ダーリン怒ってるっちゃ。ウチが悪いっちゃ、ダーリンごめんちゃ…」

「…ふんっ…」

「ウチ、今日はこれで…帰るっちゃ…じゃあね、ダーリン」

「………」

「ラムさんが帰る事は無いでしょう、帰るなら諸星が…」

「いいから、ウチが悪いから…先に帰ってるっちゃ、ダーリン…」

「ああ、はよ帰れっ」

「諸星、貴様ーーーーーーっ!!!」

何かしら不安定な空気になった2年4組の教室内。ラムはカバンを持つと、窓から飛び出し帰っていった。後に残されたあたるは、というと。

「今日という今日はっ!もう貴様を許すわけにはいかーーーーんっ!!」

面堂の愛刀が閃き、あたるはそれを“真剣白羽取り”で受け止め、そんな力比べがしばらく続いたのだった。

その日帰宅すると、部屋にラムがいた様子は無い。

「…何だよラムのやつ…こっちには来ておらんのか……ま、当たり前、か…はは、ははは……ふぅ〜〜…」

ため息を吐(つ)いて、部屋にごろりと横になったあたる。そして最近の寝不足もあって、彼はそのまま眠ってしまった。

それから何時間経っただろうか。目を覚ませば外はすっかり暗い。部屋の明かりも点けずにいたので、室内は真っ暗だ。ふと気付けば、着た憶えの無い毛布が自分に掛けられていた。それから少しして目が慣れてくると、街灯の明るさで、部屋の中がぼんやり見えてきた。

「…ラム?」

暗い部屋の隅っこに…ラムが、いた。端座したラムは、あたるの方を向いているでもなく、ただぼんやりと、部屋の角に座っていた。

「…おい、ラム…?」

「…うん?」

「そんなとこで何してんだよ?」

「…別に…」

「…毛布、掛けてくれたの、お前だろ?」

「…うん…」

「何だよ、いつもの事だろ?」

「…うん…」

「だったら別に、そんなに気にせんでも…なぁ?」

「…うん…」

「さっきから、うん、うん、しか言ってないじゃないか。おい、ラム…他に言う事…あんだろ?」

「…別に…」

「だったら…オレが言うのも、変だが…元気、出さんか…いつもみたいに…」

「ダーリン…」

「何だよ?」

「ダーリンは…ウチがいなくても、平気?大丈夫?」

「藪から棒に、何を…」

「だってダーリン…ウチがいない方が…さっぱりする、って…」

「えっ…何で、それ…」

「ウチがいない方がいいんでしょ?ダーリンは」

「いや、あれは…夢じゃ、夢。夢の中だったしな…」

「夢でも、現実でも…言った事には変わり無いっちゃよ…」

「しかし何で…夢の事を…」

「あの夢、ウチが見せた、って言ったら、怒る?ダーリン」

「…ラムが、あの、夢を?」

「そう…。ウチね…ダーリンが…好きで、好きで…すっごく好き…だけど…」

「…で?」

「ダーリン1度も…ウチの事…抱きたい、って思った事無いのけ?」

「…えっ…」

「ウチ以外と一緒になりたい、って思ってるんでしょ?ダーリン」

「…いや、ラム、あのな…」

「そんな、ダーリンなんか…ダーリン…なんか…ウチ…ウチ…」

「おい、ラム…」

「ダーリンなんか………嫌い…」

「ちょっ、おいっ、ラムッ!?」

ラムがそう言って、今まさに窓から飛び出そうとしたその時だった。

「待てったら、おいっ!ラムッ!」

薄暗がりの中、あたるは慌てふためき、飛び出そうとしていたラムの足を“むんずっ”と捕まえた。

「ダーリン、さよならだっちゃ!離してっ!」

「嫌じゃっ!」

「離さないと…電撃…」

「嫌じゃーっ!…絶対、離さんっ!!」

「…ダーリンの…バカ…」

あたるの態度に、ラムは安心したのか、元いた場所にふわりと戻った。

「…勝手に人の夢いじくって…そんで、出ていくだぁ〜〜〜!?そうはいくかっ、きっちり後始末せんかいっ!!」

「ダーリン…ウチ…ウチね…」

「しかも…初めてだろ?…オレの事…“嫌い”なんて…ぬかしおったのは…」

「…うん…」

「しかしどういうつもりであんな夢を…」

「ダーリンがいつまで経っても…ウチに…何もしてくれないから…」

「…何ちゅー恥ずかしい事を…さらっと言うんじゃ…」

「だってぇ…ダーリンから“好き”って聞いた事なかったし…抱いてもくれないんじゃ…ウチのいる意味って…何だっちゃ?」

「…ラムから押し掛けてきたんだろ?…あ、いや…それはともかくとして、だ。オレは…うん…。あのなぁ…ラム…」

「なぁに?ダーリン」

「…いや、オレなぁ…ラム…」

そこまで言うと、あたるはラムの肩をそっと掴み…そして、自分からラムにキスをした。
深々とした薄闇の中。ふたりは抱き合ってキスをした。しばし、沈黙が続く。
そしてキスをほどいた後。

「…ダーリンからの、キス…嬉しいっちゃ」

「…アホ…」

「ねぇ、キスだけ?」

「…オレだって…なぁっ…その、あれだ、アレ…」

「アレって何だっちゃ?」

「だ、だから…アレは、アレじゃっ」

「したいのけ?したくないのけ?」

「…お前はどーしてそう、恥ずかし気も無く、さらりと言うんじゃ、さらりと」

「だって…キスだけでいいっちゃ?ダーリンは」

「…んっ…だ、だから〜〜…」

「夢の中で言ってた“さっぱりする”って、どういう意味だっちゃ?」

「あ、あのなぁ…確かに…そうは言った…かもしれん。が…」

「かもしれん、が?」

「他人に…ラムにも…そんな恥ずかしい事が…言えるかっ!」

「じゃあウソだった、って言うのけ?」

「…勝手に思ってろ…」

「うふっ、ダーリン♪」

「もしも、だ。仮にそう思ってたとしても…」

「本音だったのけっ!?」

「だから人の話は最後まで聞け、っちゅーんじゃっ!」

「うん、わかったっちゃ」

「もしラムが来なかったとしたら…そういう人生だったかもしれん、と…」

「でもウチは今いるっちゃよ?ダーリンの言いたい事がよくわからんちゃ」

「だから仮定での話じゃ、あくまで仮定形っ!」

「ふーーーん、何だかよくわからないけど、本当はそう思って無いってことだっちゃね?」

「…勝手に言っとれ…」

そしてまたふたりは、キスをした。先より濃厚な…ディープキスを。ラムはあたるに抱き着き、自身の体の重みで、ゆっくり床に倒れ込んでいった。あたるはラムの重力に引っ張られ、彼女の上に覆い被さった。

「ダーリン…」

「ラム…」

ふたりはほぼ同時に(今夜こそは…)と、思った。あたるの手がラムの胸にそっと滑っていった。キスをしているラムが軽く声を漏らす。

「ん…」

そしていよいよ…という段に差し掛かった、その時だった。

「あたるーーー!早く食べてくれないと晩御飯片付けるわよーーーっ!!」

「えっ!?」

「ちゃっ!?」

階下からの母親の声に驚いたふたりは、同時に身を起こした。そして何気に気まずい空気がその場に漂った。

「…ダーリン…」

「…ご、ごほっ…あ、あー、いや、まぁ、その、アレだ、アレ…」

「さっきからアレ、アレ、って何だっちゃ?」

「こ、今夜はその〜…アレが悪かった、っちゅー事で…わはっ、わはははは〜〜…はぁ〜〜…」

「お母様に見られたら…大変だっちゃね、ダーリン…」

「当たり前だろーがっ」

「それじゃあまた次のチャンス…ウチ、待ってるっちゃ…ダーリン…」

「…ラム、あのな…」

「ん?」

「ん…」

そしてあたるから、もう一度、キスを与えた。こうして何も進まないまま、日々は過ぎてゆき…やがて。

「…ダーリン、ダーリン…ダーリンッ!!…好きっ…大好きっ…あっ…あはぁっ…あんっ…あ、ぁ、あ、ぁ、ぁ…」

高く低くトーンが変化するラムの声。それがあたるの脳を刺激する。既に奮い立っているあたる自身。それがラムの熱く濡れたスリットを割り開く。
ぐぬり…と入っていくほどに、絡み付くラムのカラダ。内側と外側で、ふたりは熱く抱擁し絡み合い、繋がり合う。

初めてキスをしたのはいつだったのか。そんな事は既に記憶の底に沈んで、いつか優しい思い出に変わっているだろう。
初めてひとつになったのも、いつかは甘い思い出になる。今こうしている事も、全て。

「あんっ、あんっ、あんっ、あんっ…い、やぁ…ダーリンのがっ…いっぱい…入って、きて…き…気持ち…いいっ…あぁっ…!」

「…ラム…ラ、ム…」

あたるの声はラムの耳に入っているのか、どうなのか…彼女はただ、あたるに全身を愛されている感覚に、大きく小さくのたうちながら、その行為に応えている。

ラムの局所局所から迸(ほとばし)る、青白いスパーク。電気の糸が空気を戦慄(わなな)かせながら伸びては縮み、周囲に広がっていく。
それがラムからあたるへ与える愛撫だ。その電気糸の愛撫が、あたるの全身を包み、ふたりして宵闇の中、震えて光る。

ふたりの飛び散る汗が電気糸に触れるたび、“ジュッ”という微音がする。燃えるマッチを水に浸した時のような、微かな音が。

「ふっ、ふっ、ふっ…くっ…」

あたるの挿入で開かれたラムの、熱くて締まりのいい内部が…いつでもあたるを悦ばせる。放電とインサートの刺激で熱を持ち、今にも蒸発しそうになるくらい、ふたりの心とカラダは熱く熱く…燃え上がる。

「熱い…熱いっちゃぁ…ダーリン……融け、ちゃい、そう…ウチと、ダーリン…一緒に…融ける、っちゃ……あっ、あぁ…あ、は…はぁ…ぁ…」

抱き合い、揺すり合いながら、ひとつになる快感を五感全てで味わい、感じ取る。熱くなる。融けそうになる。スパークのウェーブの中に沈みながら…あたるはラムに全てを注ぐ。ラムが全てを受け入れる。そして美しく乱れ続ける。

「あぁんっ!電気っ…ダーリンの、電気っ…あぁっ!痺れてっ…ウチ、痺れて…おかしく、なっちゃい、そう…う、ぅ…んっ…んあぁっ!」

あたる自身を飲み込んでいるラムの内部がうねり、あたるをほどよく締め付け、しごく。ラムのポイントにあたるが当たる。擦り上げる。そうするとラムは更に激しく乱れる。

「…イク…イッちゃう…ダーリンと…一緒に…飛んじゃう……ダーリン、ダーリン!ダーリンッ!」

そしてラムの下肢が力んで震えた。あたるもひと声呻いて、ラムの上に脱力して覆い被さった。

初めて結ばれた日から狂おしいほどに繰り返される、あたるとラムの情事。
互いに与えたり奪ったりしながら…睦み合い、交わり続ける。

「ラムは…またオレの事…嫌い、とか言う事あるのか?」

「どうしてぇ?そんな事無いっちゃよ。これからもずーっと、ダーリンの事、好きでい続けるもんっ」

「しかし…いくら夢とは言え…ラムも悪趣味だよな…」

「ダーリンの本音が聞きたかったから…っていう理由じゃダメ?」

「夢で人の腹を探ろうとは、悪趣味もいいところじゃっ」

「ウチとダーリンがこういう関係になっても…それでも、“さっぱりする”って思うのけ?」

「んなワケ…」

「そんなワケあるっちゃ?無いっちゃ?」

「…どっちでもよかろーが」

「ふふ…やっぱりはっきりしないっちゃ。ダーリンの…バカ…」

「ラムの…アホ…」

こうして結ばれたふたりの物語は…ここで一旦幕を閉じる。…いや、ふたりが結ばれたらそれで物語が終わりかというと…そういうわけでは無さそうだ。

「ダーリンのバカーーーーッ!!!」

「ぐわーーーーーーーーーっ!!!」

だから今日もふたりの関係は変わらない。

そして、物語は終わらない。

--- E N D ---
あとがき


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