夢のあと


「しのぶっ!ダーリンを、ダーリンを、連れてかないでーーーーっ!!」

「何言ってるのよ、あたる君はもともと、あたしのものだったじゃない」

「しのぶには因幡がいるっちゃ!だからダーリンを返して!!」

「どう頼まれたって、嫌なものは嫌よ。それにイナバ、って誰よ?」

「因幡はしのぶの恋人だっちゃ!運命製造管理局の仕事をしてる因幡だっちゃ!」」

「何言ってるの?あたしの恋人は、今も昔もあたる君よ。あたる君、あなたからもラムに何か言ってやってよ」

「というわけで、オレはしのぶと結婚するぞ。ラム、それじゃあな」

「何が“というわけで”だっちゃ!ダーリンの…ダーリンの妻は…ウチだっちゃーーーーっ!!」

「未練がましいわね。もう、ラムとあたる君の関係は終わったの。ラム、あなたの役割は…もう終わったのよ」

「役割ってなんだっちゃ!?ウチとダーリンはまだ終わってないっちゃ!」

「ラム。オレはお前たちとの勝負に勝ったんだ。いい加減、星に帰れよ」

「嫌だっちゃ!ダーリンッ!ダーリーーーーンッ!!!」

「オレはお前の“ダーリン”じゃないんだぞ。だからその呼び方やめてくれよ」

「そうよ、ラム。いい加減諦めなさい…あたる君と結婚するのは、あたしなんだから」

「そんなのウソだっちゃ!認めない…諦めないっちゃーーーーっ!!」

==================================

「…はっ…今のは…夢?」

ラムが目を覚ますと、そこは見慣れた壁と天井のある、あたるの部屋の押入れの中だった。

「何だか嫌〜〜な夢だったっちゃね……そうだっ、ダーリンは!?」

慌てて押入れから出ると、ラムの目に入ったのは、だらしない寝相のあたるだった。

「ダーリン、ダーリンッ!起きるっちゃ!」

あたるを揺すって起こしにかかったラム。しかしあたるは寝言で幾人かの女性の名前を言いながら、なかなか起きようとしない。

「もーーーっ、ダーリン!学校に遅刻するっちゃ!早く起きるっちゃ!」

“バチバチバチッ!”

「どわっ!…朝っぱらから何すんじゃいっ、ラムッ!」

ラムはあたるを起こそうと電撃を放った。当のあたるは頭から煙を出して、飛び上がるようにして起き上がった。

「ダーリンがそんな風だから、ウチ、変な夢見たっちゃっ!!」

「何のこっちゃ。夢は夢だろ、そんなんで寝起きから電撃出されちゃ、まったくたまらんわっ!!」

「寝言で女の名前ばっかり呼んでるから、ダーリンが…」

「何だよ?」

「…ううん、何でも無いっちゃ…」

ラムは夢の中身をあたるに言う事をやめた。中身が中身だけに、あたるが喜ぶのが目に見えていたからだ。

「とにかく、もう学校行く時間だっちゃ!早く仕度しないと遅刻するっちゃ」

ラムはそそくさとあたるの部屋に吊るしておいた制服を取ると、学校に行く準備を始めた。あたるは、というと、寝起きから電撃をかまされた事で、少々機嫌が悪くなったようだ。むすっとした表情のままゆっくり立ち上がると、ラムと同じく学校に行く準備を始めた。そして制服に着替えながら、ラムに文句を言った。

「爽やかなはずの目覚めに、おまえの電撃浴びせられちゃ、寝覚めが悪いだろーがっ。…ったく」

「そんな事言われたって、ウチもダーリンの浮気癖のせいで…」

そこまで言って、ラムは黙りこんだ。

「オレの浮気がどーしたって言うんじゃ」

「…何でも無いっちゃ…」

ラムが夢の話をしないのは、あたるが喜ぶだろう、という理由と、もうひとつ、何かもやもやした嫌な感じがしたからだった。そしてラムはあたるを待たず、学校へと出かけた。

友引高校、2年4組の教室に入ると、そこにはいつもと変わらぬクラスメートたちの顔があった。メガネや面堂がラムに朝の挨拶をする。ラムは気を取り直して、笑顔で皆の挨拶に応えた。

その中にはしのぶもいた。彼女はいつもと変わらぬ様子で、他のクラスメートたちと談笑していた。だがラムはどうにも落ち着かない。しのぶの存在を気にしたのは、どれくらいぶりだろうか。最近ではすっかり普通のクラスメートとして接するようになったが、ラムが地球に来てしばらくの間は、しのぶの存在がとても気になったものだ。

ラムはしのぶの机の前に来ると、「しのぶ、ちょっと話があるっちゃ」と言って、彼女を教室の外に連れ出した。そして廊下の隅っこで立ち止まると、ラムは今朝方見た夢の話を、簡単に話した。するとしのぶは

「やだ〜〜ラムったら。今更そんな事あるわけないじゃない。考え過ぎよ〜」

と、くすくす笑いながら、言葉を返した。

「それならいいけど…何だか夢見が悪かったせいで、胸のあたりがもやもやしてたから…ちょっと聞いてみただけだっちゃ」

「今度の休みに因幡さんと会う約束してるし…あたしが因幡さんの事、忘れてるわけ無いじゃない」

「そうけ…それならいいっちゃ…」

「あたる君の浮気癖、あれ一生治らないと思うな〜。だからイチイチ夢の中身まで気にしてたら、ラムの身がもたないわよ。たまには野放しにして、ラム自身の時間を大切にした方が、あたしはいいと思うんだけどな」

「ダーリンを野放しになんかしたら、どうなるかわからないっちゃ」

「でも適当なところで鎖を外してあげるのも…大事なんじゃないかしら。まったくラムはあたる君にこだわり過ぎよ〜。あたしが今更言うのも何だけど、実際、あんな男のどこがいいわけ?…って、これ、確か前に聞いたことあったわね、そう言えば。いい加減で怠け者で卑しくて女好きで淫乱で浮気性でエゴイストで…そりゃ確かに善人ではあるけれど…ってね」

「そこまで言う事無いっちゃよ。だってウチ…ダーリンが好きなんだもん」

「それだけストレートに言われちゃ、返す言葉も無いわね…っていうのも、前に言ったわね、確か」

「どうして皆して、こだわるな、とか適当に野放しにしろ、とか言うんだっちゃ。ホントに大きなお世話だっちゃ。べ〜〜っ」

ラムはちょっぴりふてくされたような顔をして、しのぶに舌を出してみせた。

「とにかく少しは他の事に目を向けた方がいいわよ、ラム」

それだけ言うと、しのぶは先に教室に戻っていった。

その夜、ラムは「ちょっと疲れてるから、ウチUFOに戻って寝るっちゃ…」と言って、あたるの部屋から出ていった。そしてカプセルベッドに入り、眠りに就いた。また嫌な夢を見ないように…と思いながら。

==================================

青い空の下、真っ白いチャペルが見える。周囲にはドレスアップした人々が集まっている。そんな光景をラムは少し離れた場所から見ていた。

しばらくすると拍手の音。白い教会の中から誰かが出てきた。腕を組んで人々の輪の中に現れたのは…諸星あたると三宅しのぶのふたり。皆が口々に「おめでとう」と言っているのが聞こえる。ラムは見たくない光景を目の当たりにして、身体が熱くなるのを感じていた。それが怒りなのか、悲しみなのかは…本人にもわからなかった。

「ダーリンッ!ダーリーーーーンッ!!」

ラムがふたりの前に立ちはだかった。が、誰もラムに気付いていないようだった。ラムはあたるに抱き着こうとしたが、ラム自身が透明人間のようになっているのか、あたるの身体をするりと通り抜けてしまった。

「嫌だっちゃ!ダーリン!ウチはここだっちゃ!しのぶっ!ダーリンを返してっ!!」

声の限りに叫んでも、誰の耳にもラムの声は届いていないようだった。

「ウチは…ここにいるのに…何で?どうして?誰もウチに気付いてくれないっちゃ…!!」

地面にへたり込み、あたるとしのぶの姿を見つめるラムの目からは、大粒の涙が零れた。

「ダーリン…ダーリン…ウチは…どうしたらいいっちゃ…?」

==================================

「…また嫌な夢を…見たっちゃ…」

起きてみると、ラムは本当に泣いていた。夢の中で零した大粒の涙が、現実のラムの涙となって、枕を濡らしていた。それから数日間、ラムはあたるとしのぶの夢を見続けた。結婚式の次は新婚生活の様子を、そして…ふたりが抱き合っている夢まで 見てしまった。そう、もっとも見たくなかった光景を。

夢のせいで、次第にラムは面やつれしていった。元気の無くなったラムを、クラスの面々は心配そうに見、面堂やラム親衛隊は

「大丈夫ですか?ラムさん」

と、気遣う言葉をかけてきた。

「…うん、大丈夫だっちゃ…」

ラムはそう言ったものの、誰が見ても明らかに、以前の元気や笑顔が無い。またあたるのせいで、そうなっているのかもしれない、と、クラスメート達は囁きあった。

「諸星の事で悩んでおられるのでは?ラムさん」

面堂が心配そうにラムにそう言った。するとあたるが

「何でオレなんじゃ。オレはラムに何もしとらんぞ」

「貴様ももっとラムさんを気遣ってあげたらどうだ?」

「だからオレは何もしとらんし、知らん、と言うとろーがっ」

「知らん、だけで済ましているのか?諸星。ラムさんの笑顔が消えた原因は貴様にあるんじゃないのか?」

あたるを薄情者呼ばわりする面堂。そこにラムが口を挟んできた。

「ウチは本当に大丈夫だっちゃ…終太郎もダーリンを責めるのは…やめて欲しいっちゃ…」

「しかし…」

「…ごめんちゃ、ダーリン…終太郎…」

その夜、ラムはあたるとふたりで彼の部屋にいた。あたるはイスに座ってマンガを読んでいたが、途中でそれをやめ、ラムに話しかけてきた。

「一体どうしたんだ?ラム。…オレ、何かしたか?」

「ダーリン…心配してくれるのけ?ふふっ…嬉しいっちゃ…」

「オレはいつもと変わらんぞ?お前、どっか具合悪いんだったら、病院行ったらどうだ?」

「ウチに星に帰れ、って言うつもりけ?」

「そうは言うとらんだろーが。地球の病院でもどこでもいいだろ?」

「…ありがと、ダーリン…でも、ウチのこの状態は……嫌な夢を見るから、だっちゃ」

「夢で具合悪くしとったのか?」

「…うん…でも、ダーリンには言えないっちゃ…」

「だが、ただ黙ってても解決にはならんだろーが」

「…うん…」

そして少しの沈黙の後、うつむき加減のラムが小さな声で言った。

「…ねぇ、ダーリン…ウチを…抱いて…」

最近のラムはUFOで寝てばかりいたので、ここしばらくあたるに抱かれていなかった。

「…あ、ああ…」

あたるは少し戸惑ったような顔をしながら、返事をした。

ラムはふわりと宙に浮いてあたるに近付き、肩に両腕を回して、彼の腿の上にちょこんと座った。そして息がかかる距離まで顔を近付けると、ラムからあたるの唇に吸い付いた。互いに舌を絡め合い、唾液が零れるほどの深いキス。ラムは一旦唇を離し、あたるの顔を確認すると、再び、三度と、ディープなキスを繰り返した。

貪るようにあたるを求めるラム。あたるもまた、本能の赴くままに、ラムを求めた。そして抱き合ったまま敷いてあった布団に雪崩れ込むと、互いの着衣を力任せに剥ぎ取っていった。 あたるはラムの白い柔肌に手のひらを滑らせていきながら、彼女のカラダに唇を這わせ、愛撫した。

「あぁ…ダーリン…ダーリン…」

全裸のカラダを絡ませながら、ふたりは互いの感じる部分に触れたりキスをしたり…を繰り返した。あたるがラムの秘所に指を滑り込ませる。ラムは一番感じる部分に触れられた事で、カラダを小刻みに震わせた。やがてあたる自身がラムのナカへと入る。あたるは幾度か腰を動かし、ラムを揺する。

間もなくふたりはオーガズムに達した。はぁ、はぁ、と少し荒い呼吸をし、汗ばんだ肉体を合わせたまま、ラムはあたるの横で小さな寝息をたて始めた。

「…もう、寝たのか?…ラム…」

あたるがそう問いかけたが、ラムは本当に眠ってしまったようだ。行為の後、あたるはしばらく目が冴えて眠れなかった。ラムの様子がいつもと違う事も気になっていた。

「…ダーリン…ダーリン…」

「…寝言か…?」

薄暗がりの中、ラムの顔を見ると、彼女は大粒の涙を流していた。

「…どんな夢、見てんだよ…ラム…」

それから少しして、あたるも静かな眠りの中に入っていった。


翌朝、あたるが起きると、ラムはもう制服を着て学校へ行く準備を整えていた。

「ダーリン、早く仕度しないと遅刻するっちゃよ」

その口調は以前のラムらしく、少し調子を取り戻したように見えた。内心、少しほっとするあたる。

「だったら早く起こしてくれよ」

「何回か起こしたけど…なかなか起きないんだもん、ダーリン」

「なぁ、ラム…」

「何だっちゃ?」

「お前…また、嫌な夢…見たんか?」

「…うん…」

「…だ…大丈夫…か?」

「心配してくれるなんて、珍しいっちゃ。そんな事より、早く学校に行く準備するっちゃ、ダーリン」

「あっ、やべっ!」

慌てて制服に着替え、かばんを持ち、階下へ急ぐあたる。ラムは昨晩の夢の事を…やはりあたるに話すべきか…迷っていた。しかし夕べあたるに抱かれた事で、現実を再確認出来たからなのか、今日のラムは少し明るさを取り戻していた。ふたり揃って学校へ行き、2年4組の教室に入ると、クラスメート達の視線があたるとラムに注がれた。

「ラムさん、おはようございます。今日は昨日より顔色がいいですね」

「うん、終太郎、もう大丈夫だっちゃ」

「それは良かった…しかしあまり無理はなさらないように」

面堂とそんなやりとりをした後、ラムはかばんを机に置くと、「ちょっと保健室行ってくるっちゃ、ダーリン」と言って、教室を出ていった。

授業が始まる前、サクラはまったりと日本茶をすすっていた。もちろん茶菓子も忘れてはいない。皿に山積みになった薄皮饅頭を頬張っているところへ、ラムが入ってきた。

「…んんっ…んぐっ。…どうしたんじゃ、もうすぐ授業が始まるぞ」

「ちょっとだけ…サクラに聞いて欲しい事があるっちゃ」

「何じゃ?」

「ウチ…最近毎晩夢を見るんだっちゃ」

「どのような夢じゃ?」

「…ダーリンと…しのぶが…結婚する夢、だっちゃ…」

「ふむ。結婚…それだけか?毎晩同じ夢なのか?」

「そうじゃないっちゃ…しのぶが因幡の事を知らない、って言って、ダーリンを連れていっちゃう夢…だっちゃ。それに毎晩同じじゃなくて…結婚して…新婚生活の場面を見たり…幸せそうなしのぶと…ダーリンが出てくる夢…」

「どのくらいの期間見ておるのじゃ?」

「…もう、1週間くらいになるっちゃ…」

「そうか…夢というものは、起きている時に体験したものが反映される場合と、深層心理が表出する場合などがあるが…ラムの場合は深層心理に関係あるのではないか?普段は意識下に隠れている思い…そのようなものが夢として表れているのでは、と私は考えるが」

「しのぶがウチに…夢の中で言ったっちゃ。ウチの役割はもう終わった…って。ウチの役割って何だっちゃ?」

「それは…即答しかねるが…ラムの役割…しのぶがそう言ったのじゃな?夢の中で」

「だっちゃ」

「うーむ…それが何らかのキーワードになっているかもしれん、と、ラムは思うわけじゃな?」

「うん…」

「ラムのそもそもの役回り、と言えば、地球侵略の鬼ごっこの鬼、というのがひとつ。もうひとつは諸星あたるのパートナー、というのが思い当たるのぉ。で、どちらかといえば、“鬼ごっこの鬼”の事を指しているのではないかと、私は思うのじゃが」

「確かにそういう役割だったけど…ウチが地球に来てからしばらくは、しのぶがライバルだったし…」

「夢の話は諸星には話したのか?」

「ううん…どーせ話したって、ダーリンを喜ばせるだけだっちゃ」

「私には宇宙人が見る夢の原因までは、わからんのぉ…。母星には、そのような類のカウンセラーはおらんのか?」

「星に帰ってもいいけど…その間のダーリンが心配だっちゃ」

「とにかく原因をはっきりさせん事には、ラム、お主自身が精神的にまいってしまうぞ」

「うん…わかったっちゃ…サクラ、ウチがいない間、ダーリンの様子、見ててくれるけ?」

「うーむ…あまり気は進まんが…」

「お願いするっちゃ」

「…うむ、わかった」

そしてラムはサクラが勧めるように、実家(ほし)に帰る事にした。


母星の医療施設へ赴いたラム。夢の話をカウンセラーに話し、その原因を探るため、いくつかの検査を行った。 そこでカウンセラーが導いた結果は、こうだった。

「どうやらパラレルワールドが、ラム様に影響を及ぼしてるらしいですわ」

「パラレルワールドが?ウチに?どういう事だっちゃ?」

「並行したまま交わらない時間、そしていくつもの運命パターンが存在するのがパラレルワールドですけどな。最近近未来や過去に行ったご経験はありますか?」

「運命製造管理局が作ってる、扉の中に近未来がある亜空間に入った事とか…その他にも近未来や過去に行ったことは何回かあるっちゃ」

「並みの地球人と違うて、私ら鬼族は多少テレパシーなんぞが使えますやろ。パラレルワールドに入った事によって、望まん未来やら過去から受けたストレスが蓄積して、別世界から何らかの信号をツノで受信して…っと、まぁ、そんな理由で望まん夢を見続けた、いうのが、私の結論なんですが」

「パラレルワールドからの信号?誰が送ってるっちゃ?」

「そこまでははっきりしませんけどな。別世界自体が何らかの意思をもって、ラム様に信号を送っていた、とも考えられますな」

「パラレルワールドが意思を持つ?変な話だっちゃ」

「とにかく、ラム様がいる本来の世界に、干渉しようとしてる世界がある事だけは、確かですわ。ただそれを見つけて消す、っちゅーわけにもいかんのですわ」

「どうして?」

「そこで生活している生物全てを消す事になりますからな。そらもう大事(おおごと)になりますよって」

「それじゃあウチは…ずっと望まない夢を見なくちゃならないのけ?」

「信号の受信を弱めるか、無くせば、そないな夢は見なくて済みますよって。あるいは時間が経てば、次第に夢を見なくなる、いう事もありえますな」

「何かいいものがあるのけ?信号受信しなくて済むようなものが」

カウンセラーが机の引き出しから出してラムに見せたのは、ツノの形をしたキャップのようなものだった。

「これをツノに装着するだけでOKです。多少他の能力もセーブされてしまいますが、しばらくこれ、使うてみて下さい」

そしてラムは、カウンセラーにもらったそれを持って、地球に帰った。

「で、パラレルワールドとやらが、お主に干渉して、望まぬ夢を見せておったのか」

「でもツノ型のキャップをもらったから、これで少しはマシになるはず…だっちゃ」

「しかし他の能力もセーブされてしまうのじゃろ?大丈夫か?」

「何が?」

「電撃も飛行能力もセーブされてしまうのでは、今度は諸星から受けるストレスが増えるのではなかろうな」

「そうかもしれないけど…あんな夢を見るのはもう懲り懲りだっちゃ」

「お主がそれで良いなら、これ以上は何も言わんがな。…しかし…」

「どうしたっちゃ?サクラ」

「ラムに諸星の事を頼まれたおかげで…ストレスが溜まってしまってのぉ…」

「サクラもストレス溜まるのけ?」

「当たり前じゃっ!」


そしてその夜。あたるとラムは、UFOにいた。

「何も急に実家に帰って、急にこっちに戻ってこんでもよかっただろ」

「まーた、ウチがいないのをいい事に、女にちょっかい出してたっちゃねっ!」

「それにしても…サクラさんとデート出来たのは、儲けもんだったなぁ…」

「サクラとデートッ!?」

「サクラさんは“ラムに頼まれたからちょっとだけ付き合ってやる”って言ってたな。お前もたまにはいいとこあるよなぁ〜ラム♪」

「様子を見ててくれ、って頼んだだけだっちゃ!デートしていいとは言って無いっちゃ!」

「まぁまぁ、何はともあれ、結果オーライ、っちゅー事で…」

そしてあたるは早速全裸になり、ラムをベッドに仰向けに寝かせた。UFOのベッドの上に横たわったラムのブラを、あたるはするり、と外しながら、軽いキスを与えた。それはやがて深いキスに移行し、互いの舌を絡め合いながら、ふたりは丹念に口内を愛撫し合った。

ラムはくぐもった声を漏らしながら、あたるにその身を任せている。あたるはラムの尖った耳を舌先や唇で舐め回し、首筋に吸い付き、鎖骨付近にもたくさんのキスをした。

口での愛撫と並行して、あたるはラムの白い柔肌に手のひらを這わせる。ボトムを引きずりおろし、陰毛茂る恥骨あたりに軽いタッチで触れると、ラムが小さく唸った。

柔らかなスリットにあたるの指が滑り込む。ラムはそれに反応して、「あぁっ…」と声を漏らした。あたるの指が、巧みなタッチで、ラムの性感帯を刺激する。ぬるぬるとしたラムの愛液が彼の手指に絡み付く。

「ダーリン…ダーリン…あっ…あっ、あっ…!」

ラムは膝を立て、上体を軽く仰け反らせながら、あたるの行為に身悶えする。

「そこ、が…う、ん…い…いい、っちゃぁ…ダァリン…」

今のラムは超能力をセーブした状態なので、電流もいつもより弱くなっていた。ラムの局所局所からは小さなスパークが散っているものの、あたるにとっては虫が這っているほどの、こそばゆさを感じるだけだ。いつもの微弱な電流よりもっと弱い。あたるがそれを全身で受け止め、細かい粒子様の弱い光を、ラムのカラダに与えた。

「あんっ…ダーリン…くすぐったい…っちゃ…」

ラムの秘所を弄(まさぐ)りながら、彼女の乳房を口に含むあたる。極弱い電気刺激がラムの乳房、乳頭を軽く痺れさせる。

「…あっ、んっ…痺れ、て…気持ち…いいっちゃ…」

十分にラムを濡らした後、あたるは充血して硬くなった陰茎を、彼女のヴァギナへと、挿入していった。

「あっ、う…うん…」

ラムの悶え声を聞きながら、あたるは陰茎を奥まで挿入した。柔らかくて温かいラムのヴァギナは、あたるの陰茎にぴったりフィットしてくれる。あたるは腰を使い、幾度もそのナカで自分自身をしごいた。

「…あっ、あっ、あっ、あっ…ウチの…ナカ、まで…痺れ、て…いい、っちゃぁ…」

ふたりして早くオーガズムに達したくて、ラムは下半身を力ませ、あたるは腰の動きを早くしていった。やがて訪れた絶頂。ふたりは汗だくになり、肩で息をしながら呼吸を整えた。

「…ダーリン…」

「何じゃ?」

「あのね…今まで見てた夢の話…聞きたい?」

「いや、どっちでもいいが…お前この間眠ってた時…泣いてたからなぁ…」

「あのね…ウチにとっては…すごく、悲しい夢だったっちゃ」

「どんな夢なんだよ?」

「ウチの役割は…鬼ごっこの鬼で…それがウチの役割だって、夢の中でしのぶがね…言ってたっちゃ」

「それで?」

「役割が終わったから、星に帰れ、ってダーリンにも言われたっちゃ…」

「それで泣いてたのか?」

「ホントは、ダーリンには黙っていようと思ってたんだけど…。ダーリンとしのぶが…結婚する夢も…見たっちゃ」

「オレとしのぶが?…ふーん」

「実はそれは、パラレルワールドでのダーリンの運命で…しのぶは因幡の事も知らない、って言ってたっちゃ」

「どーせならハーレムのパラレルワールドを体験してみたいもんじゃ」

「冗談じゃないっちゃ!夢を見るのはウチなんだから、絶対!そんなの見たくないっちゃ!…で、ダーリンは…ウチが星に帰って、しのぶと結婚出来た方が良かったのけ?」

「何を今更…」

「嬉しく無いのけ?」

「ハーレム式に、大勢のカワイコちゃんとなら、喜んで結婚するぞっ、オレは」

「つまりダーリンは、可愛い女なら、誰でもいいっちゃ!?」

「そ。そういうことじゃ」

「…ダーリンの…バカッ」

「たかが夢の話だろ?そのうち見なくなるって」

「だといいんだけど…」

そしてふたりは、その後も他愛の無いおしゃべりをして、眠りに就いた。翌朝のラムは、以前のラムらしく、顔色も良くなっていた。

「このツノ型キャップのおかげで、夕べは夢見なかったっちゃ」

「ふーん…そっか」

「でもこれ、ずっと付けてないとだめなのかなぁ…?」

「それは他の能力も弱くなる、ってホントか?」

「だっちゃ。電撃も飛行能力も、いくらか弱くなるって言われたっちゃ」

「…っつー事は、だ。…ガールハントし放題、かっ!?」

「何でそうなるっちゃ!ウチの心配はしてくれないのけっ!?」

「まぁまぁ。そのうち何とかなるだろ?」

「ウチが夢で悲しい思いしてたのに〜!その態度は無いっちゃ!それに眠る時以外は、外してても大丈夫だから、もし浮気なんかしたら〜いつもの天誅だっちゃ!!」

ようやく明るさを取り戻したラム。あたるも内心、安堵していた。

ツノ型キャップをもらってから、ラムはしのぶとあたるの嫌な夢を見ずに済んでいた。ところがある晩、あたるとの営みの後、ラムはうっかりキャップを落として眠ってしまった。 夢の内容は…やはり以前と同じように、しのぶとあたるが幸せそうに暮らしている場面だった。

「また…嫌な夢を見たっちゃ…ダーリン」

「夢は夢だからな、あんまり深刻に考える事無いぞ」

「でも…何が原因で、どうしてウチだけ、ダーリンとしのぶの夢ばっかり見るっちゃ…?」

「オレにはさっぱり!わからんが〜…そうじゃ、実際そのパラレルワールドとかに行って、原因を探してみたらどうなんだ?」

「そうだっちゃ!ちょっとウチ、星に帰って相談してくるっちゃ!」

「そーかそーか、うん、そうした方がいいぞ」

「…とか言って、またガールハントするつもりでしょ?サクラとデートするのもダメだっちゃ!」

そしてラムは母星に帰っていった。


「ラム様の夢に出てくるパラレルワールドですか…多分これやと思います」

以前相談したカウンセラーには、事前に事の次第を話して、パラレルワールドを探してもらっていた。

「この扉を開ければ、そこがラム様の夢に出てくる世界です」

カウンセリングルームの隅っこにある木製の扉。そしてラムは意を決してドアノブに手をかけた。静かに開けていくと…そこには地球の友引町があった。

「パラレルワールドって言っても、ウチがいる地球の町とそう変わらないっちゃね」

「先に言うておきますが、そこに住んどる人間、生物には、くれぐれも必要最低限の接触だけを試みて下さい」

「わかったっちゃ」

ラムがいる友引町とそっくりな町並み。彼女は低空飛行をしながら、恐らくしのぶの家があるであろう所へ行ってみた。確かに表札には「三宅」と書いてある。

「どうしたらいいかな〜…直接会うのが何だか怖いっちゃ…」

そしてラムは三宅家の周囲をくるくると飛び回って、しのぶがいるかどうかを確かめようとした。すると。

「何であんたがこんな所にいるのよっ!?」

いきなりの怒鳴り声。びくっとしたラムが声のする方を振り返って見ると、そこには高校の制服を着た、しのぶが立っていた。

「もう、あたしとあたる君にちょっかい出すのはやめてよっ!早く星に帰ったら!?」

ラムは上空から地面に降りると、しのぶに近付いていった。

「何よっ、やる気!?」

「ウチはこの世界のウチじゃないっちゃ。この世界ではウチとダーリンはどうなってるっちゃ?」

「はぁ?何言ってるのよっ。あたしとあたる君の邪魔ばっかりしてるくせにっ」

「この世界のウチは、今どこにいるっちゃ?」

「何言ってるかさっぱりだけど…。つまり、あんたは別の世界から来たラム、ってわけ?そんなの信じられないわ」

「ウチはすぐに元の世界に帰るっちゃ。だからホントの事を教えて欲しいっちゃ」

「ホントの事?何も知らないの?ホントに?」

「だっちゃ」

しのぶは怪訝そうな表情で、ラムを見ていたが、大きな溜息をひとつ吐(つ)くと、不機嫌そうな顔のまま、話し出した。

「…ラムなら、あたる君の家よ」

「一緒に住んでるのけ?この世界でも」

「この世界でも…って事は、あんたの世界でもそうなの!?」

「そうだっちゃ」

「…地球が鬼ごっこで勝って以来、ラムはあたる君の家にいるわよ。…ちょっと、何それ?」

しのぶはかばんを盾にして身構えた。ラムがブラから極小さなカメラのようなものを取り出したからだった。

「これ?何でも無いっちゃ。ただのカメラだっちゃよ」

しかし実は、人間の思考を読み取る機械だったのだが、それを言えば、しのぶがますます警戒すると思い、ラムはウソをついた。そして機械を目に当て、付属のイヤホンを耳に付けると、目の前にいるしのぶにピントを合わせた。すると、高校生のしのぶの周囲には、ラムが夢で見た映像がチラチラと見えてきたのだ。

“しのぶっ!ダーリンを、ダーリンを、連れてかないでーーーーっ!!”

“何言ってるのよ、あたる君はもともと、あたしのものだったじゃない”

聞いた覚えのある会話がイヤホンを通して聞こえてきた。結婚式の場面も夢で見たそのままにレンズを通して見えた。

「…やっとわかったっちゃ。しのぶ、この世界のウチとダーリンがどういう関係かは知らないけど、しのぶにも近いうちに素敵な恋人が出来るっちゃよ」

いや、パラレルワールドだから因幡が本当に現れるのかどうかは、ラムには確信が持てなかったが、今はこう言うしかないだろう、と思い、思わず口にしてしまった。

「ところでしのぶ。しのぶは何か夢を見るっちゃ?」

「夢?…あんたには関係無いじゃない」

「ウチは…しのぶとダーリンが幸せそうに暮らしてる夢ばっかり見てたっちゃ。結婚式や子供が産まれた場面や…色々。もしかして、しのぶ…そういう場面を強く念じたりしてないけ?」

「人が何をどう想像しようと、それは勝手でしょう?……でも、確かに、あんたの言う通り…強く思った事はあったわ…」

「しのぶが念じた事が、ウチの夢に出てきたんだっちゃ。全然違う世界にまでしのぶの思いが飛んできたっちゃ。そんなに…ダーリンの事が…好きなんだっちゃね、この世界のしのぶは…」

「……そうよっ、悪いっ!?」

そこまで話すと、ラムは機械をブラの中にしまって、「それじゃあウチ、そろそろ元の世界に戻るっちゃ。さよなら、この世界のしのぶ…」と言って、再び上空に飛び上がり去っていった。

「一体何だったのよ…あのラムは…」

別世界のしのぶは、しばらく空を見上げたまま、自宅の庭で立ち尽くした。


「あのしのぶが原因だった、っていうのはわかったけど…どうすれば夢に見なくなるっちゃ?あのしのぶが想像して作り出した場面を…」

ラムはカウンセラーにそう相談した。

「ラム様の婿殿から気持ちが離れれば…あるいは見なくなる可能性はありますな」

「終太郎や因幡が早く現れてくれればいいのに…」

「それは私にも誰にもわかりませんけどな。…普通、ただ念じただけでは、並行する別世界からの“思い”は他の世界には届かんはずなんですけどな…。よっぽど“思い”が強かったか、あるいは…次元のひずみが通り道になって、そこからラム様に届いた、っちゅー事もありえますよって。こういうケースはえらい珍しいもんですから、正直、原因は探れても、解決するとこまでいっとらんのですわ。今の科学力では」

「でも原因がわかっただけでも良かったっちゃ。あの世界のウチとダーリンも、上手くやってるのかな〜…」

ラムは別世界で出会ったしのぶに、早く恋人が出来る事を願った。そして夢で見るしのぶとあたるの人生が、実はしのぶの想像の産物だった事で大いに安堵した。

それからしばらくして、ラムはあの夢を見なくなった。

「ねぇ、ダーリン。もしウチが、ダーリンじゃない誰かと結婚したら…泣いてくれるっちゃ?」

「そんな恥ずかしい真似なんぞ出来るかっ」

「ウチはいっぱい泣いたっちゃよ。ダーリンがしのぶと…結婚する夢を見て」

「オレは男だからな、涙なんぞ見せんのだ」

「ウソ、ダーリンよく泣いてるくせにっ」

「誰がどこで泣いた、と言うんじゃ」

「ふふっ♪…ねぇ、ダーリン」

「まだ何かあるのかっ?」

「ウチがダーリンにテレパシー送ったら…夢にそれが出てくるかな〜。やった事無いけど」

「それならハーレム見せてくれ。思いっきり豪勢なハーレムじゃ!」

「それだけはお断りだっちゃ」

「だったら変な事言うな、っちゅーんじゃ」

「ねぇ、ダーリン…そろそろ…」

「あ〜…そろそろ…ねぇ…」

「いっぱい、ウチの事思って…優しくしてね、ダーリン♪」

ラムは今のこの世界が好きだ。そしてあたるの事も。
今夜もふたりは、互いを思いやりながら…愛し合い、優しい夢を見るのだろう。
ふたりの優しく熱い夜が…今夜もまた、繰り返される。

--- E N D ---

あとがき


[ MENUに戻る ]